観光地域づくり法人とは?地元還元を目指す「豊岡DMO」 事例詳細|つなweB

観光地域づくりの舵取り役「DMO」

観光庁は地方創生プロジェクトの柱のひとつとしてDMO登録制度を2015年11月に創立しました。DMOとは、「Destination Management Organization」の略で、地域にある観光資源に精通し、地域と共同し、観光地域づくり実現の戦略を考える官民連携の組織・法人を指します。海外ではすでに実績があり、インバウンド観光を考えるうえで注目されている仕組みです。このため「日本版DMO」とも呼ばれています。登録を受けた日本版DMOは、内閣府の地方創生推進交付金による支援の対象となります。

兵庫県豊岡市のDMOなどを手がけている(株)ハイファイブ。DMO形成の黎明期から地元密着の制作会社として協業してきた同社の代表藤原秀樹さん、マーケティングの谷垣精太さん、デザイナーの平田メイゲンさんに兵庫県豊岡市DMOの話をうかがいました。

兵庫県豊岡市の位置とアクセス
兵庫県の日本海側に位置する豊岡市は、豊岡市、城崎町、竹野町、日高町、出石町、但東町の6つの市町が合併してできた。人口の減少、高齢化問題を抱えるなか、城崎温泉をフックに外国人観光客の誘致に力を入れている

 

寄せ集めからスタートした官民連携の組織づくり

「寄せ集めからのスタートでした。インターネットの知識が全然ない人ばかり。加えて、行政には人事異動がある。人が変わってしまうのは大きな問題でした」と藤原さんは発足当時を振り返ります。

自治体の職員は人事ローテーションが当たり前。さらに民間企業、旅行会社や商社などからの出向者も、任期がきて戻ってしまったらノウハウがリセットされるリスクがありました。また、必ずしも専門的な人材が担当しているとはいえず、そんな中で官民が連携して観光振興に取り組む組織をつくらなければなりませんでした。

「インターネットやWebの知識はなくても例えば旅行会社で企画をやってきたとか、キャリアを積んできた人がさまざまいました。意見が交錯し、みんなの意見を取り入れるとぐちゃぐちゃになってしまうという事態が頻発してしまいました」と谷垣さんも続けます。

そこで組織のマネジメント課題解決のために責任者としてWebマスターを設置、豊岡市の大交流課の課長に就任してもらいました。

「DMOの仕事の中でもインバウンド向けWebサイト『Visit Kinosaki』の運営はもっとも重要です。『Visit Kinosaki』の制作費・運営費は豊岡市の大交流課から出ていて、責任者は豊岡市にもってもらおうということになりました。異動で人の入れ替わりがあっても大丈夫な組織にはなってきています」と藤原さん。

 

チームを成長させる組織づくり

役割分担や責任の範疇を明確化したことで組織も変わってきました。

「田舎なので人材が豊富にはいない。わかろうとしない人は放っておきますね。専門職ではなく、ピッチャーもライトもやるようなプレイヤーが、すごく短期間でたくさん勉強して育ってきています。優秀なチームになってきました」と藤原さん。現在は毎週、チーム全員がWebマスターのもとに集まって会議を行っています。

データアナリストが、Googleアナリティクス、Googleアドワーズからデータを抽出、スプレットシートに落とし込みグラフ化し、Webサイトの進捗や広告パフォーマンスなどを共有し問題をすべて洗い出しているといいます。

「専門職でない方に勉強してもらって、最初はアナリティクスのユーザー数を見るだけで精一杯だった人たちが、セグメントを使えるようになり、ついにマニアックなことまで質問するようなこともあるくらいになってきました」と、谷垣さんもチームの成長を感じています。毎週の会議は組織全体の底上げにつながる組織づくりにも役立っています。

 

「Visit Kinosaki」の認知拡大が目標

目標設定については、何回も議論を重ねたといいます。

「存在意義ってなんなんだろうとか、チームみんなで考えました。城崎温泉を世界中の人に知ってもらうのが我々の役目だということになりました」(藤原さん)

「認知度をどうやって指標にするのか、難しいんですが、指標としては、海外からの自然検索流入数をひとつの指標にしています。Googleトレンドの上昇数を高めていこうという活動をしています」(谷垣さん)

『Visit Kinosaki』では海外からのお客さんの認知拡大を目指しています。

インバウンド観光客向けの施策
Visit Kinosaki
兵庫県豊岡市城崎温泉のWebサイト。宿泊予約ができるほか、観光コースの案内、城崎温泉の文化・歴史の特集など。英語とフランス語の多言語対応をしている

 

目指すはすべて地元で完結

「行政の仕事は予算を確保するまでが本当に大変です。相当な労力がかかり、そこまでで労力を使い切ってしまうのです。民間と感覚が違うのでそこを合わせていくのが大変でしたね」

と前置きしたうえで、藤原さんはこれまでの問題点を指摘します。

「以前からWeb解析やWebマーケティングの仕事を地元企業ではなく、都内の大手企業に発注してしまう風土がありました。それが市や職員からすると、きちんと予算を使っているな、と見える。行政はそれでいいかもしれないが、自分たちは成果を求めたい。予算をかけて大企業に発注し、報告だけ受けても何も残らず、ノウハウの蓄積につながらないんです。全部地元で完結できるようになりたい。そういうことがわかる団体になりたいという思いでやってきました」

 「発注力があるチーム」になることは地元に還元できるメリットになります。

それが今では行政の認識も少し変わってきました。

「我々では提供できないようなサービスの提案が他社から来た場合も、DMOから提案の内容を相談してもらえるようになりました。今は、自分たちは外部セカンドオピニオンとして認めてもらっているんだなと思います」(谷垣さん)

 

豊岡DMOをモデルケースとしていろんな田舎に広げていきたい

ハイファイブでは最近、他の地域の案件を受注したといいます。

「ものすごく離れている弊社を、会ったこともないのに名指しで発注してくれたのは、とても驚きました」

これは豊岡DMOの方の講演を聞いたのがきっかけだったとのこと。

「豊岡DMOが苦しんでいる時期に一緒に併走てくれたのがハイファイブだと聞いて、指名してくれたんです。すごくうれしいなって」(谷垣さん)

「豊岡DMOのノウハウをいろんな地域に伝えていきたいと考えています」(藤原さん)

 

次なる課題はデータベースの構築

藤原さんは、今後DMOで実現したいこととしてデータベースの構築を挙げます。

「城崎温泉には宿泊施設が77あります。そのデータを全部収集してマーケティングに活用したい。今は宿泊客へのアンケートくらいしか情報がありません。城崎は11月~3月までカニの繁忙期で、4月~6月は閑散期になります。宿泊施設は、カニの価格が未確定だからと、11月以降の在庫をギリギリまで出しません。一方、インバウンドのお客さんは、翌年4月・5月の予約が1年前から入るんですよ。カニシーズンはほっといて翌年の4月・5月から在庫だせばいい。でないと他の地域にインバウンドのお客さんをとられてしまう。地域として大きな経済損失になっているんです」

地域のビジネスとして発展し、観光産業を継続していくには、観光客のデータ収集や分析が必要です。専門家一人だけがわかっているのではなく、組織全体がデータを元に仮説をたて、打ち手を考えPDCAをまわしてくことが不可欠。藤原さんは次を見据えた抱負を述べました。

「データを使って考え、次の戦略をたてて、データで結果を伝えていく。データベースがあればできることも増えてチャンスも広がるし、地方での新しい仕事の掘り起しにもつながっていきます。今はまだ、なかなか予算がおりませんが、早く実現したいです」

豊岡市のインバウンド動向
2019年1月から3月(第1四半期)の豊岡市外国人延べ宿泊者数は、前年同期比36.7%増で18,192人泊と過去最高となった
『Visitkinosaki』の打ち合わせ風景
インバウンド向けサイト「Visit Kinosaki」の打ち合わせ風景。行政、DMOの担当者、ハイファイブ、データ活用の会社の官民混成のチームでマーケティングに取り組んでいる
藤本恵理
※Web Designing 2019年10月号(2019年8月17日発売)掲載記事を転載

関連記事