事例に学ぶ地方創生。ITベンチャーMARUKUの熊本県活性化 事例詳細|つなweB

都市も地方も格差なき環境へ山都町で本気の地方創生事業

MARUKUは、主にWebインテグレーション事業と地方創生ICT事業を中心に活動する会社。拠点は熊本本社と東京オフィスを開設。首都圏や都市部の案件も手がけながら、熊本の創生戦略に関わる案件に取り組んでいる。

Web制作会社を経営している有川さおりさんは、代表取締役の小山光由樹さんとともにMARUKUを立ち上げる。もともと小山さんとは仕事で交流があり、熊本だけでなく九州自体に縁がなかったという小山さんが、2016年4月に起きた熊本地震後、熊本を来訪する機会を得て目の当たりにした復興の進まない状況に対して、「地域振興に付加価値を与え続ける会社を」と創業を決意。声をかけられた有川さんは、その理念に共鳴したという。

「私自身は長崎県出身で、同じ九州で起きた窮状にできることがないかと思い、脊髄反射的に賛同していました。まずは、いかにMARUKUが本気で復興を考えているかを示すために、本社は熊本に置こうと決めました。そこで、過疎地で高齢化が進む熊本県山都町で会社を立ち上げたのです」(有川さん、以下同)

当時はまだ光回線が整備されていなかった地域。その状態から具体的な地域振興に関わる具体策を手がけていく。

 

ミッションありき、だからこそ! 1人ひとりのバリューも活きる

地方に関心がある人/組織にとっては、どの地域で取り組むかも迷いどころだろう。復興という側面に触発されたMARUKUが、現在進行形で地方創生に取り組む立場から、地域の選び方をどう考えているのか? その見解が選び方のヒントになればと有川さんに話を向けると、「自治体や地域の協力が積極的なエリアは有力な選択肢かもしれない」と語る。

「地域振興を民間の1企業がやるのは限界があります。その点、自治体が具体策を講じている地域は、関わる人たちのマインドが積極的ですし、予算だけでなく人からの協力が得られやすいです。山都町はじめ熊本県は、その点で復興に向けて熱心で取り組みやすい土壌です」

それとともに大切なことが、「ミッションありきで、自分のバリューを活かせるか」だとした。

「熊本に本社を置き、ともに暮らすことで本気度が伝わり、徐々に地域のみなさんが心を開いてくれるようになりました。いきなり、知らない企業が都合のいい時だけ乗り込んでも不信感が募るだけです。私たちは、振興だけでなく、この地域に付加価値を提供したいというミッションが原動力となって行動し、今があります。地域振興だけで利益を上げることはなかなか無理があって、いわゆるビジネスチャンスという観点での継続した活動は、正直厳しいと思います」

現在、社内はIJUターンや地元採用も含めて、MARUKUが掲げる理念や思いに共鳴する社員が、熊本と東京にそれぞれ7名ずつが勤務。この体制で初めて全社的な取り組みにつながる。

「テレビ会議やクラウド管理システム、ChatworkやSkype、Backlogなどのデジタル活用をするなどコミュニケーションの工夫は心がけています。物理的な距離をテクノロジーでカバーして、環境の違いで格差が出ない働き方を実践中です」

ミッション × 社外協力 × 社内協力
ICT活用による都市と地方の格差をなくしたい、というビジョンありきで起業されたMARUKUは、熊本復興への本気度を熊本に本社を構えることで示し、社内外に説得力ある活動を進めている

 

熊本に本社があるからこそ実現地域密着のデジタル施策

すでにMARUKUは、2年あまりの間に数々の地方創生策を実行。デジタルに関する取り組みで言えば、デジタル化することの価値や、潜在的な需要を奥深いところから掘り起こす感覚でアプローチし、結果として実を結べたという。

「地方で首都圏や都市部と違う点は、まだまだ紙が強くデジタルシフトが進んでいない現状に、啓発から始める必要があることです」

本質的なデジタル戦略を提案していきながら、粘り強い説得と丁寧な説明が求められてくる。

2018年12月には、九州中央自動車で山都中島西インターチェンジが開通。県内外から高速道路経由で山都町への訪問がしやすくなり、インバウンド需要も見込める状態に。ただし、その受け皿ができていないという状況だった。

「その状況に活かしてほしい取り組みとして、観光周遊アプリを開発しました。mawaru(マワル)と名づけたアプリは、完全に熊本県内に特化していて、アプリによる情報提供で観光客の滞在時間を増やすことと、行動ログを計測し、中長期的な観光マーケティングにつなげていくことを考えています」

もう1つが、“名刺を持つようにサイトを持とう”というコンセプトで立ち上げたWebサイト制作サービス「MARUKU design」である。

「地域に根ざして実感するのは、デジタル対応の必要性を感じていないという状況だけでなく、自社や店舗のWebサイトを“持ってみたい”と心のどこかで気になっていることです。“Webサイトなんて難しい”と遠巻きにしているみなさんに、ハードルを下げて提供できるサービスを届けたかったのです。簡単で高品質につくれるほか、相談に応じたり、サイト公開以降も成果を引き出すための協力までも行うことをサービスメニューで揃えています」

熊本 × 観光周遊アプリ × インバウンド対応
ICT活用による都市と地方の格差をなくしたい、というビジョンありきで起業されたMARUKUは、熊本復興への本気度を熊本に本社を構えることで示し、社内外に説得力ある活動を進めている
熊本 × Webサービス × インバウンド対応
デジタル対応できていない熊本県内の農家や飲食店、観光系企業、交通系企業などに向けて立ち上げた、手軽にWebサイト制作できるサービス MARUKU design https://design.maruku.biz/

 

需要を喚起できるか八代市に第3の拠点も

地方創生事業は、もちろんデジタル対応だけではない。MARUKUは、デジタルで得た知見を活かしながら、他にも廃校のリノベーション事業をはじめ、企業誘致活動などにも積極的に関与。最近のトピックでは、例えば廃校舎内にIT関連企業の誘致を進める事業計画にMARUKUが参画。企業誘致とともに地方雇用の創出と活性化につなげる活動を始めている。他には、熊本県八代市と立地協定を締結。今後は山都町の本社、東京五反田オフィスに続き、県南地方にあたる熊本県八代市に第3のオフィスを開設し、オフィスメンバーは主に地元の人材を採用しながら運営したい考えがあるという。

MARUKUの活動の根本は、本気で地域振興を実現すること。だからこそ、地域に気づいてもらいたい、需要を感じてもらいたいフェーズで「あのMARUKUが言うならば…」という地域からの信頼の厚さが関わってくる。

MARUKUほどの覚悟を決めた取り組みは、多くの読者にはハードルが高いことだが、本社を熊本の過疎地に置く立場から、最後に有川さんには、地方創生事業の観点でのアドバイスをうかがった。すると、受託によるWeb制作だけでは限界がありそう、という実感を伝えてくれた。

「地方は予算や案件数が限られていますし、課題自体に気づいていないこともあります。Web制作にとらわれず柔軟に模索できた時、デジタル案件で培った知見を活かした、自社ならではの地域に根ざす貢献ができるのかもしれません」

首都圏であれば飽和したサービス特性でも、地方だからこそ意味のあるサービスへと変貌させてリリースできるmawaruやMARUKU designも然り。ただし実現の裏には、地域に密着し続け、そこにいる人々の機微を日常的に捉えていたからでもあることを忘れてはならない。

地方創生 × 企業誘致
写真は「廃校への企業誘致による地方創生に関する協定」調印式の一場面。写真左から、熊本芦北地方振興局長 小牧裕明さん、芦北町町長 竹崎一茂さん、熊本電力(株)代表取締役 竹元一真さん、(株)MARUKU 代表取締役 小山光由樹さん
MARUKUと考える、地方創生事業の方程式
「ここだ!」と思う地域(ここでは熊本県)に本社を置くと、社内外に真剣さ、切実さが伝わる。だからこそ周囲の協力を得ることができて、具体化も進んでいく
遠藤義浩
※Web Designing 2019年10月号(2019年8月17日発売)掲載記事を転載

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