「プロボノ」で課題解決!地域を知り、人とのつながりをつくる 事例詳細|つなweB

プロボノでの経験は新しい領域への挑戦

違う環境に関わるプロボノで「越境」をはじめてみる

「プロボノ」とは、社会人が職業上の知識やスキルを活かして行うボランティア活動のことを言います。サービスグラントは、社会的課題の解決に取り組むNPOなどの組織基盤強化をサポートする、いわば「NPOを支援するNPO」として活動しており、その手段となっているのがプロボノです。

「サービスグラントでは各団体の活動全般を手伝うのではなく、情報発信や業務改善など、必要ではありながら自力でまかなうのが難しい、専門的なプログラムを提供しています。1件ごとに明確で具体的な目標を立て、それを実現するプロジェクトとしてプロボノワーカーの方々を組織化し、応援する仕組みを用意しています」

優れた活動をしている団体でも、十分な情報発信ができていないと支援や協力者を集められません。サービスグラントはそうした団体のWebサイト制作を手伝うところから活動を開始し、現在は業務フローの構築やマニュアルの作成、事業計画立案と、支援の幅を広げています。

サービスグラントの活動は主に拠点を持つ東京・大阪エリアが中心ですが、「ふるさとプロボノ」として、地方で活動するNPOや自治体のプロジェクトに取り組むこともあります。個人がいきなり移住したり、遠い地域の人と仕事をしたりするのはハードルが高く、難しい部分もあるでしょう。しかしプロボノなら、スキルを活かしながら日頃の仕事とはまったく違う領域の人たちとの関係づくりができます。

「ライフシフトやパラレルキャリアと言われるように、現在の生活と並行して異なる環境の感性を少しずつ養ってから、本格的に移る方法もあるでしょう。我々は移住のサポートは行っていませんが、プロボノもそうした越境のひとつの選択肢になると思います」

 

普段とは違う課題に向き合ってみる

最初にゴールを設定しプロジェクトを組む

「プロボノ」がNPOや地域の方と関わる際に重要なのは「ゴールを明確化し、最初に合意しておくこと」だと嵯峨さんは言います。課題を整理し、解決するにはどんな成果物が必要か、プロジェクトの形を決めておかないと期待ばかりが膨らみ、ズルズルと長引くなど負担を増やすことになるからです。

「私たちは団体を応援するために人を派遣するのではなく、発信力や運営効率化などの基盤強化をサポートしています。その課題を解決するためにチームを組んでいるわけです。ですから“何をするのか”を最初に合意することが非常に大切なのです」

また、地元ですでにうまく回転しているビジネスに割って入らない配慮も必要だと嵯峨さんは言います。そのため、仕組みづくりはプロボノが行い、運用・保守は地元企業が請け負うなど、日々の仕事が地元で回るようにするといった形での協力を心がけているそうです。

一方、プロボノは参加者にとっても大きな意義のあるものになります。嵯峨さんはこれを「大人の社会科見学」に例えます。

「プロボノワーカーの方には、各団体へのヒアリングや現場訪問から参加していただきます。さらに団体の支援者やボランティアの声を聞くなど、広くプロジェクトを理解した上で制作を行っていただいています。そうした経験はその後のものづくりに活きていくと思います」

分業の進んだ業界にいると、各レイヤーの考え方を総合的に把握してコミュニケーションを設計できる機会は貴重です。また、ビジネスとは異なる目的で自分のスキルを活用することで、従来とは異なるクリエイティビティを発揮できるケースもあるはずです。地域と領域を超えるプロボノは、仕事とは違う何かを得られる場所となるでしょう。

 

嵯峨生馬さん
東京大学教養学部卒。1998年より、日本総合研究所の研究員として、官公庁・民間企業とともにIT活用、決済事業、地域づくり・NPO等に関する調査研究業務に従事。2005年、サービスグラントの活動を開始し、2009年にNPO法人化、代表理事に就任

 

 

プロボノの活動内容はどのようなものなのでしょうか。
サービスグラントでNPO法人シマフクロウ・エイドのWebサイト制作に参加した
デザイナー 清水麻美子さんに聞きました。

─ プロボノにはどんなきっかけで参加されたのですか?

清水さん 最初に参加したのは6年前です。アメリカでは若手デザイナーが実績づくりとしてプロボノの活動をしているという話を本で読み、検索してみたらサービスグラントが出てきたのでなんとなく説明会を聞きに行ってみたという、ふわっとした感じでスタートしました。普段とは違うフィールドの方に出会えるのでは、という思いもありました。

─ シマフクロウ・エイドのプロジェクトはどんな内容でしたか?

清水さん Webサイトの情報を整理して、全面的なリニューアルを行いました。プロジェクトチームは私の他にディレクター・マーケター・情報設計・ライターと、PM(サービスグラント事務局)の6名で、はじめに実際に現地を訪問しました。シマフクロウと生息環境について詳しい話を聞いたり、森へ連れて行ってもらったり、地元の方々へのヒアリングなどを通して、非常に広い視点で活動の意義を知ることができ、熱意も伝わってきました。その後は基本的に一般のWeb制作と同様のフローで進行しました。

─ 日頃の仕事と異なる部分は?

清水さん お金が関わらないからか、NPOの方とも比較的フラットに、ひとつのチームとして取り組めたのは良かったと思います。ただ、実作業の面で言うと、皆さんどうしても本業を優先せざるを得ないので作業が滞ることがあり、PMの役割が要になるのかなと思いますが、そのような場合は作業フロー上の流れを待たずにそれぞれの職域を超えて一人ひとりが進んでつないでいく意識も必要だと感じました。

─ 参加して良かったと思うことはありますか?

清水さん シマフクロウ・エイドさんとは今も個人的なお付き合いが続いていますし、プロジェクトで知り合ったライターさんとは別のお仕事ができたりと、新しいつながりを見つけることができました。普段の仕事とは違う領域からものを見ることができたこともいい経験になったと感じています。

 

清水麻美子さん
株式会社マミコ社 代表取締役。東海大学教養学部芸術学科 非常勤講師。さまざまなジャンルでWebサイト・グラフィック・CI/VIなどのコミュニケーションデザインを手がける。サービスグラントではこれまでに2つのプロジェクトにWebデザイナーとして参加
笠井美史乃
※Web Designing 2019年10月号(2019年8月17日発売)掲載記事を転載

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