Web動画の戦略設計。予算と制作環境から考える取り組み方 事例詳細|つなweB

視聴環境や制作環境が揃う昨今、現実的なソリューションに動画を採用する案件が増えています。予算と制作の観点から最適な動画への向き合い方について、動画制作ならびに広告運用の両面で実績を重ねる(株)プルークスに取材。代表取締役社長の皆木研二さんに話をうかがいました。

 

教えてくれたのは…皆木 研二
(株)プルークス 代表取締役社長 https://proox.co.jp/

 

“動画は高くてつくれない”時代は終わった

2015~2016年あたりは、まだ動画は高価で手が出せないと感じている企業担当者が多い、という状況でした。動画を用意したいなら、まとまった予算を確保して広告代理店や映像プロダクションに依頼するもの、という認識がまだ強く持たれていた時代で、私たちが企業担当者のみなさんと接していた際に感じさせられていたことです。

一転して、最近はWeb制作会社や、私たちのような映像制作のネットワークを持つプロデューサー集団のような会社にも、動画案件が直接依頼される機会が増えてきました。昨今は動画のマーケットが広がり、低予算でも対応できて、なおかつ品質の高い動画がつくれるようにもなりました。

制作環境やユーザーの視聴環境の充実以上に、今と以前の状況を比べてもっとも大きな変化は、さまざまな企業や組織の担当者が動画への知見を深めていることです。デジタル動画の撮影現場では、プロデューサーやディレクター、カメラマン、照明や音声、アシスタントなどを含めて、兼任しながら5名前後の最小単位のチーム構成で臨むこともよくあります。例えば、クライアントがテレビCM制作のように大人数の座組みを想像されていると、5名前後の体制に不安を募らせることも多く、編集後の映像を見るまで品質や完成度を信じてもらえなかったこともありました。

動画は、すでにソリューションとして現実的な選択肢です。限られた予算でも工夫をしながら制作が可能です。一方で、周りが動画に取り組んでいるから自社でもやっておくか、という相談が多いのも確かです。「とりあえず企画提案してほしい」「企画がよかったからやってみる」「社内の上層部が気に入ったら、やりたい」といった本音の相談に対しても、何のためにつくるかを突き詰めることで最適な対応が可能になるはずです。

次からは、予算の大小や制作環境の違いなどを受け入れながら、状況に応じて、どういう取り組み方が効果的な動画の用意につながるかを一緒に考えていきましょう。

 

マス向けの映像やキャスティングに力を入れたいなら?

制作環境が多様化したからこそ、問われるのはより最適な形での動画(予算に基づく効率的で理にかなった制作)です。低予算でつくれる術がある中で、それでも広告代理店など、予算をかけながら専門性の高いパートナーに動画づくりを依頼すべき場合と、そうでない場合との境目は、どこにあると考えるべきでしょうか?

1つの基準は、動画だけにとどまらずイベントなども含むトータルでのPR活動を行いたいかどうかです。当然、全体的な設計や複数企業とのやりとりが必要となりますので、そうした取り組みが得意なパートナーと組んだ方がいいでしょう。

「動画を制作し、活用すること」だけに特化するなら、広告代理店ではなく、私たちプルークスのような動画マーケティング会社であったり、制作会社であっても同等のクオリティを担保した動画をつくり出せます。違いが出てくるのが、例えばキャスティング(配役)です。出演してほしい著名な俳優、となるとコネクションを持つ広告代理店にお願いできれば確実です。音楽や著作権など権利まわりをクリアにするのも、経験と知見を持ったパートナーにお願いできるに越したことはありません。

また、動画を活用するだけでなく、PRイベントや販促ツールなどトータルでのマーケティング設計を必要とするプロダクトの場合、一社だけでなく複数企業とのやりとりが発生してしまいます。そういった場合は、動画制作会社ではなく代理店に一貫して依頼する方が効率的にマーケティング設計をしてくれるでしょう。

ここまでは、ある程度の予算が確保されている、という前提があっての話になります。つくる以外に考えるべき要素がたくさんあったり、地道な積み重ねだけではなかなかすぐには解決が難しい対応を求められる場合、広告代理店の知見は心強いはずです。コネクションや権利まわりの処理など、つくる以外の要素も含めて大きな力になってくれるでしょう(01)。

 

 

自社にふさわしい動画戦略で必要な4つの視点

PRイベントや販促ツールなどのトータルでのPR活動も視野に入れた企業や商品のブランディングとは別に、動画を活用したプロモーションや、商品やサービスにフォーカスした説明動画などだと、テレビCMのような規模の動画を望んでいないことがほとんどです。

商品説明のための動画に対して、ある程度の内製の仕組みを確立した制作会社が、他と遜色のない品質で動画づくりが可能であれば、積極的に利用したい企業は少なくないでしょう。

01ほどの規模ではないけれど、戦略設計や制作の手助けが可能なパートナーと一緒に、限られた予算内で品質を担保した動画が用意できるなら、それに越したことはありません。その場合、企画や制作、広告の配信設計など全体的な動画マーケティングを行えるパートナーに依頼すると効率的です。

例えば私たちの場合だと、「経営管理」「売上向上」「コストダウン」「人材/組織活性化」という4つの視点を明示して、動画に必要な目的について具体的に探ります(02)。

4つの視点のうち、経営管理の視点が大きいなら、ブランディングのための動画やIR動画が考えられます。売上向上の視点が大きい場合、目的が商品訴求を通じた集客や購入なのか、その前の認知向上を優先したいのか、マーケティング的な観点で現状の整理を行います。コストダウンの視点(無駄な作業の軽減)だと、社内向けのマニュアル動画やハウツー動画がそれに当たります。人材/組織活性化の視点だと、採用活動向けの動画、イベント向けやセミナー向けの動画が該当します。

目的が整理できると、目的にあわせたふさわしい体制が見えてきます。見えてきた体制と予算を調整しながら、手配に向けて取り組むのです。

 

 

スマホ撮影の向き、不向きとは?

YouTubeや各種SNSですっかり見慣れているスマートフォン撮影による動画を、プロモーションなど何かしらの施策で使っていいものでしょうか。結論は、スマホ撮影だとわかる動画で訴求することが効果的だと判断できる場合は利用したほうがいいでしょう。ただし、予算がないという理由だけでスマホ撮影の動画をそのまま使うようなことは、(特に広告展開なら)避けたいところです。そのままの利用は、視聴者側にチープな印象を与えるだけになるからです。

スマホ撮影が効果的な場合は、一人称の動画です。ユーザーと同じ目線の動画をつくるのに相性がいいのです。最近は企業の採用活動向けの動画が増えていますが、例えば「就職活動中の学生」という視点や「入社1年目の社員」という視点で、1日の行動を追いかけるような動画だと、手ぶれの混じったスマホ映像がリアル感の演出にもなります。世に出ている事例は、実際多少の編集を加えていたりしますが、その範囲は最小限で、つくり込んでいないような仕上がりが意識されています。

できれば、撮影だけでなく画角や音声、照明などへの知識があるスタッフが撮影するといいでしょう。視聴するプラットフォームやユーザーのインサイト次第ですが、映像自体の品質が気にならなかったとしても、画角が悪かったり、聞こえづらい、暗いというのはリアルさを配慮してもマイナスです。気にならない程度の整備ができていないと、訴求力が高まらない要因にもなります。

便利な使い方は、遠方での撮影。移動コストを下げることができます。例えば、商品訴求の動画づくりに、地方の生産工場でのいくつかの場面を挿入したいなら、(短時間撮影でよければ、なおさら)該当場面の指示書とともに、現地でスマホ撮影をお願いできると効率的です。外部スタッフの出張費用が抑えられますし、事前に撮影に関する細かな指示内容をかためておいて、撮影上の不備や、手ぶれ、画角、音声、明度などの諸要素は編集で調整して、効率的な素材確保につなげます(03)。

 

 

制作だけでなくスタートとゴールを見据える

制作の多様化を踏まえるなら、クオリティの高い素材やテンプレートの活用も含んでおきたいところです。動画のサイズによりますが、数千円から数万円という価格帯で、高品質かつ状況に応じた動画素材を購入することができるからです。素材利用の利点は、プロジェクト用に自前で撮影部隊を組む必要がないこと。撮影許可が必要な難しい場所の映像も、完成度の高い状態で素材として入手することができます。

素材の場合は、素材を選ぶ側のセンスが問われます。他で使われている素材とかぶってしまうというリスクもないわけではありませんが、きちんと選ぶことができれば心配することはないでしょう。購入した素材に適宜加工を施せば、かぶりの心配はさらに軽減されます。もともと持っている素材と購入した素材を組み合わせる使い方もありでしょう。例えば、会社のコンセプトムービーだったり、セミナーや勉強会のためのプロモーションムービーなど、撮影がなくなった分の予算や時間を、動画の構成に費やすこともできます。

動画に関する相談を数多く受けている立場として痛感するのは、動画制作そのものへの関心に担当者が集中しがちなことです。どのような目的に基づく動画で、用意できた動画をどう展開し、目的達成とするのか(04)。動画づくりそのものも大切ですが、動画づくりの最初の段階である戦略設計と、動画をつくり、手配できた後の運用と拡散にも、もっと注力すべきです。これらができれば、素材利用についても単純に予算のことだけでなく、総合的な見地から利用の有無を判断できるでしょう。

スタートとゴールの視点がきちんと身につくと、予算に応じながらよりふさわしい体制が組めるようになるはずです。

 

 

Text:遠藤義浩