2019.05.27
デザイナーが主導する企画のあり方 プロトタイプが私たちの企画書
ウォンテッドリーはビジネスSNS「Wantedly」を運営すると同時に、複数のプロダクト(アプリ)も自社で企画開発し、提供しています。インハウス開発ということもあって、企画の動かし方はかなり個性的。しかし、その発想や姿勢は多くの制作会社にとって参考にできる点があります。同社デザイナー・青山直樹さんに、サービスベンダー企業におけるプロダクト企画のあり方について聞きました。

- Wantedly People
- AI搭載の名刺管理アプリ。 iOS/Android版、およびブラウザから使用が可能
アプリの価値提供をひとつ上のステージへ
2016年11月にリリースされたアプリ「Wantedly People」は、当初よりAI搭載で最大10枚の名刺を効率よく、高精度にスキャンできるといった利便性が評価され、翌年にはGoogle Play「ベスト オブ 2017」でイノベーティブ賞を受賞。これまでに多くのユーザーを獲得してきました。
このアプリの企画・開発で中心的な役割を果たしているのが、Wantedlyのデザイナー・青山直樹さんです。青山さんはプロダクトデザインやアートディレクションなどで実績を重ね、現在は同社デザインチームのリーダーとして、UI/UXを中心にプロダクトからコーポレートブランドまで、デザイン全般を担当しています。スキャン画面に円を用いるWantedly Peopleの特徴的なUIをつくったのも青山さんです。
そして2019年3月、Wantedly Peopleは大幅にUIを刷新したアップデート版がリリースされました。
「ユーザーにとって、Wantedly Peopleの一番わかりやすい機能は、名刺をスキャンして連絡先のリストを管理することだと思います。しかしアプリが目的とするユーザー体験のビジョンは、1回会った人ととのつながりを保ち、さらにお互いの情報や共感できる部分を知って、人脈から新しい仕事を生み出すことにあります。“撮って溜める”から“出会いを共感に変える”へと、アプリの価値提供をひとつ先のステージへ進めることが、今回のアップデートの大きな狙いでした」(青山さん、以下同)
そのさきがけとして取り組んだのが、過去のアップデートで追加された「話題」タブでした。これは名刺交換をした相手に関連する情報をより多く知ってもらうための実験的な機能として開発されたもので、利用状況を解析しながら具体的な方向性が検討されてきました。
「主要なユーザー体験の導線から逸れた場所に追加されていたため、認知度は思わしくありませんでした。新しいUIでは名刺のスキャンから相手の関連情報を得るまでを一連の流れに統合し、利用体験を一新しています」
ロードマップの中でテストをしながら次の一手を具体化
話題タブを軸に利用体験を改善した理由は2つあります。ひとつはユーザーへ提供する価値の拡大です。アプリが本来目指すのは、名刺交換した相手の情報を溜めるだけでなく、アイデアが生まれた時や困った時に相談できる関係を構築し、新しいビジネスにつなげてもらうことです。話題タブが提供していた体験の一部は、その入り口になる可能性を期待できるものでした。
もうひとつはアプリの収益化です。Wantedly Peopleはコンテンツをベースとしたビジネスモデルを探っており、話題タブはその媒体の役割を担うものでもありました。
「ユーザーへの価値提供、クライアントへのベネフィット、自社の事業、いずれにおいても話題タブはより多くの人に使ってもらう必要がありました」
しかし、開発チームは課題の存在を事前に予見していたといいます。
「従来の構成に収まる形でタブを組み込んであったに過ぎず、UIとして最適化されていないという認識はありました。ただ、初期バージョンの開発に着手した当初から、いずれ何らかのフィード的な機能を搭載することは計画していました。まずは一度つくりやすい形で組み込み、反応を見てから最適化しようと、大きなロードマップの中で決めていたのです」
ここまで段階的に開発を進めながら、収益化を目指すための課題と対策を見極めてきたというわけです。
「今回のアップデートの大元となったUIのアイデアは、実は1年前から温めていました。しかし、その時点ではすぐにやるべきではないと判断したのです。テスト期間を設け、その間に追加した改善すべてが構想の具体化につながっています。話題タブには課題があると思っていましたが、時間を置いた意義はあったと思います。また、会社の事業全体の中で、いつ何にリソースを割くべきかという経営的な判断もあります。それらをすり合わせ、ベストなタイミングでプロジェクトが動き出しました」