真の課題解決を目指す企画力 事例詳細|つなweB

課題解決(1)5W1Hのヒアリング

課題を深掘りするためのヒアリング

クライアントからの情報収集としてまず大事なのは、ヒアリングです。売上を伸ばしたい、商品をプロモーションしたいといった要望を提示された際に、その背景にあるクライアントの考えや状況を詳しく知らないと、本質的な課題解決ができない場合があります。クライアントと制作側で本来見るべき問題や課題がズレてしまわないようにするためにも、本質を見極めたいところです。

コパイロツトでは、クライアントの要望をフラットにヒアリングして課題などを整理した次のステップとして、自社で作成したヒアリングシートに基づき「5W1H」で話を聞きます。そのシートでは企業戦略や経営、事業戦略、プロダクト、サービス、マーケティングなどさまざまな面について、幅広くリストアップしています。市場やトレンドの変化に対してクライアントはどう捉えて、何をしていこうと考えているのか。競合はどこで、どの部分にベンチマークを打っているのか。企業メッセージとしてどんなことを発信しているのか。他に公には出ていない情報はないのかなどを確認し、幅広く情報を収拾していきます。

というのも、例えばコーポレートサイト制作やサイトリニューアルの依頼が来た際、主に関連する情報は企業戦略や企業プロフィール、経営戦略などになるかと思います。しかし、コーポレートサイトを通してクライアントの課題を本質的に解決するためには、実は事業戦略を刷新する必要があったり、プロダクト開発が必要となったりする場合があるからです。

企業方針などを反映することで、クライアントの目的に沿った企画となり、担当者にとっても納得感を生みやすい企画になるのではないかと思います

 

さまざまな場所から企業情報を集める

先述のヒアリングシートは40項目以上あり、すべて聞くのは時間もかかるので、クライアントが制作した資料や社内報からわかる部分はそれらを代用するケースも多いです。その際、第三者の視点が入ったものではなく、クライアント自身が発信していて、極力内容に加工が入っていないものが望ましいです。ときには、中期経営計画書やアニュアルレポート(統合報告書)なども見ます。

 

課題解決(2)多角的な情報収集

例えば新規事業のプロジェクトを手がける際には、クライアントの社長の言葉をチェックすることもあります。社内報や広報が発信しているもの、社長自身がSNSやブログなどで外に出している発言などから、新商品に関連するものはひととおり集めます。こうしたクライアント自身が発信しているメッセージを元に企画を立てていくと、クライアントの目標到達を支援するようなものになるので、企画が通りやすくなるように思います。社長メッセージや経営層の情報や指針が企画の元になっていれば、その目的を実行するための施策は否定されにくいものになるからです。また、こうした情報は、立案中の企画が、クライアントのためになっているかどうかを判断するためにも使います。

 

ユーザー像を理解する

クライアントの商品やサービスのターゲットとなるユーザー情報も大事な要素です。ユーザー像を掴むための方法として、ペルソナをつくることがあります。このとき、プロジェクトに関わるメンバー各人の中で、ペルソナがどういう人かというのを明確に描くことができるようになっていることが重要です。そのため、「ペルソナはこういう人だからきっとこう思うよね、こう行動するよね」というように、繰り返し話の中に登場させるようにし、刷り込みを行うことで、ユーザー視点を内部のメンバー全員がきちんと認識できるようにします。

スピーディーにその場で意識を合わせるためには、ぺルソナに合致するパブリックイメージの芸能人、 チームメンバーで合致する人をベースに議論を始めてもよいでしょう。

また、「リーン顧客開発」という、ペルソナに合致するユーザー5~10人くらいに15~30分ほどインタビューを行い、本当に想定しているユーザー層に合致しているのか、企画がユーザーニーズにマッチしているのかを判断し、改善を回していく手法を行うこともあります。メールや電話インタビューでも構いませんが、どういう質問をするかはとても大切です。

このように、企業や市場のデータといった定量的な情報とユーザー心理のような定性的な情報の両面から、ユーザーのニーズを紐解いていきます。

クライアントの担当者からのヒアリング、クライアントが発信している企業情報、インタビューやペルソナといったユーザー情報など、多角的に情報を収拾し、それらを踏まえて真の課題を見つけ出していきます

 

課題解決(3)誰目線を重視するか

クライアントや担当者の視点をしっかり押さえる

企画を立てる際、ユーザー視点だけでなく、クライアントの方針や担当事業部、担当者らのやりたいことと整合性が取れているかということも常に配慮していく必要があります。例えば仮説がユーザーにとってはものすごくよいものだったとしても、クライアントにとってやる意義のあることか、リソース的に難しくはないか、競合に勝ち目はあるのか、といったように、クライアントにメリットが少なかったり負担がかかり過ぎるようなものにならないよう気をつけます。

まずクライアント企業がどこを向いて何をしていこうとしているかという方針(マクロな視点)をベースにすべきでしょう。そのうえで各事業部や課の単位で持つ目標やKPIは何なのか、担当者がどうしていきたいかという意向を汲み取るようにします。担当者はものすごく熱意を持たれていることが多いものです。しかし、担当者だけに向くようになってしまわないよう注意が必要です。「担当者に通る企画」という発想ではなく、あくまでも「企業の課題を解決するための企画」でなければいけません。

そして、企業や担当者の視点とユーザー視点を行き来しながら、ズレはないか、どうバランスを保つのかということを考えていきます。完璧に両者のバランスを取る必要はありませんが、どちらかに偏りすぎると企画を実行する上での障壁が大きくなります。あまりにもクライアントが自社に寄った視点になっているときは、制作側であえてユーザー視点に振り切った提案をし、両者の目線からよいポイントを探ることもあります。クライアントに無理にユーザー視点を持ってもらおうとするよりは、ビジネス目線で考えてもらい、制作側がユーザー目線に立って落とし所を見つけるのが、双方にとってやりやすいでしょう。

また、制作側は、外部の人間だからこそ持てる視点、言えることがあります。担当者はそれが問題だとわかっていても、言ってしまうと立場上社内に敵をつくってしまうということがあります。また、気づいてはいても社内の慣習でやり方を変えることができずに後回しにされているということもあります。そうした点をうまく代弁できるとよいでしょう。

クライアント企業の方針にマッチしているか、クライアントの担当者の希望を叶えているか、そしてユーザーニーズに応えているかというそれぞれの視点から見て、課題解決になるものにしていきます

 

課題解決(4)クライアントの内情理解

クライアント内部の予算や情報伝達の動きを知る

企業や担当者の意思だけでなく、どこから予算の出ているプロジェクトなのか、制作を依頼するまでにどのようなプロセスを踏んでいるのかという、クライアント社内の承認や決済フローを理解しておくことも非常に重要です。

実際に、なぜか提案する企画がクライアントには合致していないようだなと思ったら、実は予算を出している部署が窓口となっている部署とは別で、企画が刺さらなかったという経験もありました。また、担当の方にいくら話をしてもぜんぜん進まないと思ったら、予算を管理しているのが別の部署で、そちらにきちんと話が伝わっていなかったということもありました。

そういう状況を理解していると、より企画で求められること、どうすれば企画が動きやすくなるのかということが見えてきます。例えばトップダウンで物事が決まる会社であれば、経営層に直接インタビューをさせてもらうと話が早いです。クライアント側の窓口となっている担当者の部署と実際に制作を依頼し予算を出している部署が別の場合は、どういう流れでどんな狙いを持ってこの企画まで降りてきているのかを聞き出すとよいでしょう。

その辺りを押さえておくと、スムーズにプロジェクトが進みやすくなります。また、自社のことをよく理解してくれてやりやすいという印象から、継続的な仕事に繋がることもあります。実際にコパイロツトでも、最初はキャンペーンサイト制作のような単一のプロジェクト依頼がきっかけとなり、その後コーポレートサイトリニューアル、コーポレートサイトの運用や体制構築と改善、新規事業立ち上げ、メディアの最適化、会議やプロジェクトのファシリテーションというように、案件が広がっていくことも少なくありません。逆に、初めてのクライアントから、いきなり大きなプロジェクトの依頼があったときなどは、社内理解や情報把握ができずに、お互いの意思疎通がうまくいかないこともあります。

適切な企画にするのはもちろん、クライアントと長くコミュニケーションしていくためにも、クライアントの社内状況の理解を深めておくとよいでしょう。

A社のように社長がトップダウンで決めているクライアントの場合は、直接社長にヒアリングをさせてもらうと話が早いです。B社のように直接会う担当者と決定権を持っていたり予算を出していたりする部署が別の場合は、そちらの情報を得て、より的確な企画になるようにしていきます

 

課題解決(5)役割を明確にする

体制図で役割を明示しスムーズな進行に

企画を一生懸命提案しても、なんだかうまく進んでいかないということが、たまにあります。そうなる理由の一つとして、クライアントの中で決裁者や承認者といったリーダーが明確に決まっていないことが挙げられます。そんなときは、担当者を提案したり、関係者全員の役割や肩書きを記載して明確にするとよいでしょう。その方法として、プロジェクトの体制図に、制作チームだけでなくクライアントの担当者の個人名も記載し、「この人がリーダーです、承認者です」と役割を社内外の関係者全員に明示することができます。

担当部署全員が同じくらい熱意を持っているのであれば、みんなが一生懸命に考えて判断してくれるのでスムーズに進むこともあります。しかしそうでない場合は、部署名だけだと、「他の人がやるだろう、決めるだろう」と当事者意識を持たれず、熱意が低くなりがちです。体制図に個人名が書かれていれば、自分ごとと捉え、責任を持って動いてもらえるようになります。これは私たちや制作チームにおいても同様です。

体制図では、制作側も含めやるべき業務領域を一人ひとりに落としていきます。こうすることで、複数の会社が参加している場合でも役割分担が把握できるようになります。そして、プロジェクトが開始して少し時間を置いてから、本当にそのとおり機能しているかを見直すようにします。もしそうなっていなければ、どういう問題があるのか、体制図自体を修正した方がいいのかを検討します。ここでもアジャイルに回していくわけです。こうしたスムーズな「進め方」を実現するのも企画の一つの要素だと考えています。

クライアント企業とうまく付き合えている会社は、クライアントの担当者が入れ替わっても残る何かをつくっていることが多いように思います。例えばブランドステートメントやイデオロギー、ロゴなどのビジュアルという場合もあります。コパイロツトの場合は、それがスムーズな進め方というナレッジです。

ここまで紹介したポイントを押さえると、自ずと真の課題解決につながる企画になっていくのではないかと思います。

プロジェクトの体制図イメージ。制作チームだけでなく、クライアント側のリーダーを個人名で指定し、誰が決裁者か、誰が承認者かなどを明らかにしておきましょう

 

課題解決(6)クライアントの声を聞く

情報整理をすればおのずと企画になっていく

そうはいっても、日々の業務で企画内容がまとまらず、延々と悩んでしまうということもあるかもしれません。もしかしたら、「企画とは何か新しいものを生み出すべき」だと思っていませんか? 中には新しさを求めるタイプの案件もあるかもしれませんが、ほとんどの場合、そうではありません。クライアントが抱える課題を解決していくことが目的なのです。

先に紹介した、「現状、」「あるべき姿」「問題」「課題」というような形に情報を整理し、似たような課題を一般的にどんな方法で解決しているのかリサーチしていくと、自ずとその「対策」「作業」は見えてきます。

そういう意味では、答えはクライアント自身の中にあることが多いように思います。実際に、ヒアリングでクライアントが言っていたことを整理して提案した内容に対して、「まさにこういう企画を求めていたんですよ!」と言われることは多々あります。このとき、ヒアリング内容とあわせて、企業が公式発表している情報やユーザーから集めた情報、市場調査といった世の中のデータなどさまざまなものを横断的に見ていき、編集目線で取捨選択していく必要はあります。そうしていくと、最終的に「こうした方が良い」というよりも、「これは絶対に実現したほうがいい」という企画になっていきます。それを具体的な対策や作業に落とし込めばいいのです。

ただ、問題が今あるマイナスをゼロにしたいという場合や、課題解決というよりはさらにプラスアルファのことをしたいという場合は、企画に何かしらのジャンプが必要になってきます。どんな方向で、どんな風にジャンプをするのがよいかを見定めるためにも、情報を整理しジャンプの方向性が狭まっていることが役立ちます。

新規事業の場合は例外で、情報や経験が未知数であることが多いので、ヒアリングや情報を整理しただけでは答えは出てきません。とても難しく、我々もチャレンジしているところです。こちらも情報整理やリサーチで考えるべき領域を狭くしていくことが大切です。きっと答えは、その中にあるでしょう。

企画を立てる際に悩んでも、クライアントの声などを適切に整理していくと、課題解決の方法が見えてくることは多いです
平田順子
※Web Designing 2019年6月号(2019年4月18日発売)掲載記事を転載

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