社員のアイデアを形にする3ステップ 事例詳細|つなweB

STEP 01:アイデアの種集め

提案が生まれる場をつくる<セラク・セラク情熱大学>

ITソリューション企業のセラクでは、セミナーやハッカソン・アイデアソンを定期開催する社内制度「セラク情熱大学」に約8年前から取り組んでいる。同社メディア戦略室の吉田空寛さんは、「IT企業では、独自のアイデアを持って入社してくる人が多いです。そうした社員の成長を促すとともに、アイデアを提案してもらえる場をつくることが企業の役割です」と話す。

セラク情熱大学はもともと、受託開発の案件が多かった同社で、それぞれのプロジェクト経験を自社サービスに還元させる狙いで始まった。経営戦略室の清水宏樹さんはこう話す。「開発、デザイン、組み込みなどに携わる多様な人材がいるので、交流を生み出せば、個々人の視野が広がると思いました」 2019年2月には18講座が開かれ、238名の社員が参加したという。「講座を開くのは各部署の社員です。企画者・参加者ともに、業務外でも積極的に関わってくれます。『自身の知見を会社にフィードバックすること』および『自身が成長すること』を評価する会社の風土も影響していると思います」(清水さん) いまや単なる社内制度にとどまらず、一部の講座はセラク社員でなくても参加可能。清水さんは最後に、「オープンイノベーションの時代ですので、社外とも積極的に交流したいです」と話してくれた。社員のインプット・アウトプットを促進する場の提供は、新規事業の企画を生み出す第一歩といえそうだ。

情熱大学では、社員や外部講師を招き、セミナーやハッカソンなどを開催中。一部の講座は「みんなの情熱大学」として、社員以外にも開放されている

 

STEP 02:選定して種まき

ポイントを明確にして審査<ネットワンシステムズ・社内ベンチャー制度>

ネットワークインテグレーターのネットワンシステムズは、2018年夏に「社内ベンチャー制度」を開始。7~8月の応募受付、9月の1次審査をすでに終え、2019年4月に最終審査、6月以降に事業化が予定されている。

同社新規事業推進室の岸上要太さんは、「応募総数は18件。書類審査では、必須で書いてもらった『解決したい課題・解決策・提供価値』『収益性・拡張性』『実現可能性』『市場の大きさ』『情熱』の5項目をそれぞれ数値化して総合点を出し、上位9件が通過。1次審査は、約5分間のプレゼンを実施しました」と教えてくれた。1次審査の審査員には、取締役や各部署の部長など、ビジネス経験の豊富なマネジメント層を各方面から集め、審査の結果、1件のみが残った。

「ポイントになったのは、『実現可能性』と『情熱』の2点です」

実現可能性という点では、自由な発想を求めながらも、ビジネス展開のイメージがあるかを重視した。応募アイデアの中には、具体的な協業先まで構想に入っているものもあったという。情熱という点では、原体験が語られているかを重視した。「課題を捉える際に、『社会的に大きく報じられている』ではなく『体験をきっかけに問題意識を持っている』ほうが強い動機を感じられます」アイデアを選ぶ過程では、あらかじめ重視するポイントを明確にしたうえで審査したい。

ネットワンシステムズの場合、アイデアを選ぶポイントは「実現可能性」と「情熱」だった。事前に何を重視するかはっきりさせておくことが重要だ

 

STEP 03:事業化に向けて育成

MVPで素早く仮説検証<TIS・U-Studio>

システムインテグレーターのTISは、以前より新規事業創出に注力しており、2019年2月、あらゆる組織・人材のアイデア実現を支援するスタートアップスタジオ「U-Studio」を開始した。

同社インキュベーションセンターの岡本奈央美さんは、「U-Studioでは、有望なアイデアに開発者やノウハウといったリソースを提供し、6カ月という期限を決めて具現化します」と話す。U-Studioに持ち込まれたアイデアは、「ブラッシュアップ」「マネタイズ方法も含めた仮説の構築」「仮説検証に必要なMVP(実用最小限の製品)設計・開発」「アイデアを試行するためのPoC(概念実証)」「PMF(マーケット適合)の見極め」という手順でサービス化を目指す。PoCで結果が思わしくなければ、再度ブラッシュアップまで戻る。

「さまざまな技術を有するエンジニアやデザイナーがチームを組むことで、MVPを最短工数で開発します」(岡本さん)

“実用最小限”を素早く形にすることで、仮説検証をスピーディに回すことが可能だ。そのためには開発力が鍵になる。

さらに、インキュベーションセンターの福井孝太郎さんは、「アイデアを出した当人の熱意が結局は大切です」と話す。アイデア実現のためには多くのメンバーが関わるが、主役はあくまで立案者。アイデア段階から関わっている立案者が、責任と情熱をもってチームを引っ張っていくのが理想かもしれない。

U-Studioでは、5つのプロセスでアイデアの具現化を目指す。期間は6カ月で、検証結果によって、プロセスは複数回実施される

 


※Web Designing 2019年6月号(2019年4月18日発売)掲載記事を転載

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