佐藤ねじ式・「企画」の流儀 事例詳細|つなweB

 

侮るなかれ!企画を通しやすくするための土壌づくり

佐藤ねじさんのもとに寄せられるオーダーは、商品企画や話題化・PR、コーポレートサイトのWeb制作など多岐にわたります。それぞれに企画のアプローチ法がありますが、特にコーポレートサイトの場合、「どの土壌で戦うのか」ということが企画の良し悪しに大きく影響すると言います。コーポレートサイト制作の打ち合せ時に、クライアントから「こんなコンテンツを入れたい」というアイデアをもらうことも少なくありません。その場合、佐藤さんはそれらの一つひとつに答えることはせず、まず「なぜそうしたいのか?」を問うのだそうです。

「今はコーポレートサイトだけですべてのPRが完結する時代ではありません。本当はコーポレートサイト以外の方法で、クライアントが抱えている課題を解決することの方が有効かもしれない。だからこそ、お題の『本質』を問うことはとても大切なのです」(佐藤さん)

サイトをつくるということは、「採用したい/何かのPRをしたい/知ってもらい/売りたい(販促)/ブランディングしたい」という本質を実現するための手段のひとつ。「何かおもしろいことをしたいんだよね」とお題が届いたとき、その本質がどこにあるのかをぶつける必要があります。ここでのクライアントとのコミュニケーションの質が、企画を進めやすくするための土壌・環境づくりに大きく影響します。

「例えば打ち合せの場に、意見の強いマーケティング担当者と決定権を持った立場の人が同席した場合、議論の軸が2本になってしまうこともあります。軸が2本あるブレストは途端に濁ってしまうので、『そのプロジェクトのキーマンは誰なのか?』を掴むことはとても重要です」

キーマンに信頼してもらえるためのねじ式コミュニケーションは、無茶なアイデアだと思っても頭ごなしに否定せず、一度乗っかるコト。

「『そういう考え方もありますね』から入り、できることとできないことをその場で返答できると、距離が近づき信頼されやすくなります。営業のみのチームだと、できるできないの判断がつかず、一度持ち帰ることも。数日後に『できませんでした』となると双方イライラしますよね。しかも、そのアイデアそのものを実現したいわけではないことが多い。具体的な提案であっても、その本質は『何か変わったことがしたい』『もう少しおもしろいことがしたい』ということが結構あります。そこを見極めながら、技術的にできるできないの判断をその場で下せるというのは、企画者兼制作者の強みだと思います」

 

バズPR依頼が、商品名変更の提案に!?

お題の本質を探った結果、クライアントからの依頼とはまったく違った企画を提案することも。

「格安モバイルLIBMOのPR事例なのですが、当初は『LIBMO』を紹介するバズ記事を期待されていました。しかし、ただバズっただけでは、LIBMOのことは知られない。そもそも数多くある格安モバイルの中で、商品名も覚えてもらえず埋もれてしまっているのでは? と感じていました。そこでPR企画を展開しやすく覚えやすい商品名に変えたらどうかと、静岡を中心にした企業ということで『富士山モバイル』と提案。こういった提案をするときには、しっかりイメージができることが大切です。資料の中に、『最終的に世の中で定着することがゴールですよね』と話ができるよう、家電系の雑誌の表紙に特集されるイメージ画みたいなものを入れました」

制作者が先のことを見越した提案をしていることが伝われば、クライアントの信頼感アップにつながります。

 

目指すは、議題の抜け漏れがないファシリテート

クライアントからのお題のゴールがイマイチわからなかったり、まったく知らない業種だったり、勘が働かない場合、本質がなかなか探れないこともあります。その場合は、「何をやるのか、タスクを決めるためのブレストを何回か行うことを提案」することも。本質を的確に捉えることが、クリエイティブに集中するためには欠かせないからだそうです。

「タスク決定のためのブレストを何回行うかは、ファシリテート次第。僕のファシリテートの法則のひとつは、本題のブレストの前に必ず1回、何の話をするかのブレストをすること。最初に何の話をしなきゃいけないかを決めておくと、議題の抜け漏れが防げます。僕は、ホワイトボードの左上に、やることリストを書いて、何分ずつ語ろうと目標を決めて進めていきます」

ブレストの基本は30分~1時間。クライアントで決定権がある立場の人など時間をあまりもらえない場合は、2時間ほど時間をかけて1回で終わらせることも。その際にはホワイトボードをうまく使って整理し、頭の中で考えていることを見える化しながらブレストを進めることが大切。その場にいる人たちの想いや考えをきちんと共有できるようなファシリテートを心がけているそうです。

 

制作チーム内でのブレストは、自分の立ち位置を把握する

一方、制作チームで行うブレストもあります。その場合、佐藤さん自身が主となるか、パーツとして参加するかで大きな違いがあるといいます。

「本来はひとりで企画を進めることができるけれど、あえてチームでブレストすることもあります。例えば、僕では勘が鈍くなっている20代前半の感覚が知りたい、など『アイデアのエフェクトが欲しい』場合です。僕が主となる場合、メンバーは手ぶらで参加してもらってもいいかもしれませんが、ブレストの質を高めるならみんなが1回考えたものを持ち寄る方が断然いい! ブレストは同じリテラシーを持つ仲間で行うことが望ましいので、そういった人たちと出会うことや環境をつくることも大切です」

また、座組みとしてチームでやる場合の佐藤さんはエフェクト担当として参加。

「自分が主でやっていたら、議題の仮説を崩すこともありますが、パーツで参加の場合はそれをしません。仮説は正解であるという前提で始めることが大事。プランナーにも種類があり、パーツとして力を発揮する人と、主となり大きくディレクションもする人といます。僕の場合は、両方のチャンネルでやっていて、主でやるかパーツでやるかで振る舞い方を変えています」

 

ファシリテートの極意は、話を構造化することと時間感覚

いいブレストには、いいファシリテートが欠かせないという佐藤さん。

「ブレストを行う上で、もっとも大切なのは、話を“構造的”に捉えることです。ブレストは、単にお題に対してのアイデアを返す場ではありません。今、どの話をしているのか、この辺りの話をしておくと役に立つとか、話の構造化ができると理解スピードが格段に上がります。また、効率的に議題を進めるために、時間の感覚はとても重要です。この2つを試してうまく行かなかったら、そのブレストの課題が見えてくるはず。例えば議題の抽出の仕方がよくないとか、議題に対する時間設定がよくないとか。あるいは発想できるだけのお題の咀嚼が足りなかったとか。課題が見えたら、そこを補う人材をうまくアサインするなど、いいブレストに向けて動くことができます」

これから企画をしたいデザイナーやエンジニアは、まずはファシリテートを覚えるのがよさそうです。

八波志保(Playce)
※Web Designing 2019年6月号(2019年4月18日発売)掲載記事を転載

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