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ECサイト業界研究 Web Designing 2019年6月号

ECの企画力 制作会社がお金を生み出す力

ECを始める、もしくはもっと売上を上げたいといった場合にECサイトの制作依頼の引き合いが発生します。この場合、どこから手を付ければよいのでしょうか? 今回はもっと売上を上げたい場合に絞ってお話します。

打ち合わせ前から差をつける企画提案

ECも業務領域としてカバーする制作会社に、「ECで売上を上げたい」といった相談がクライアントから舞い込んできたとします。そんな時、当然ながら最初にすることの1つといえば、現在のECサイトを調査し、課題を特定することだと思います。もちろん、クライアントから直接ヒアリングもすると思いますが、打ち合わせの前に多方面から調べた上で臨むことが多いでしょう。

私の場合、以下の6つの調査は最低限行ってから打ち合わせに臨んでいます(01)。

①「Google」で企業名、店舗名を検索します。検索結果の3ページ程度までは見ておくようにします。
②「aguse.jp」でサーバがどこにあるか、フィッシング対策やSSLなどはできているかを確認します。
③「SimilarWeb」でトラフィックやアクセス先、検索キーワードなどを調べます。
④「builtwith」でどのようなプログラムやデータベースで構築しているかを見ます。
⑤「ahrefs」で被リンクを調査します。
⑥楽天やアマゾンに出店している場合にはレビューを把握しておきます。

この中には有料版を設けているサービスもありますが、無料版でもかなりのところまで調査が可能です。その上で、案件となるECサイトで実際に購入してみます。どのようなメールが来るか、商品はどのように届くのかがわかります。私はスマホで注文しています。これはPCでの利用だけを想定しており、スマホのUIが非常に悪いことも多いからです。

それだけでなく、届いた商品を入れたダンボールに足跡がついていたり、納品書しか同梱されていなかったり、メールの文章が接客になっていなかったりすることもあります。こういったタッチポイントを知っているのといないのとで、提案の幅が大きく広がってくることは想像に難くないでしょう。

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01 ECサイトの課題を見つける
ECサイトの改善の相談などの場合、私はクライアントとの打ち合わせに臨む前に上の6つの手段で該当するサイトの情報を調べておきます。この情報をインプットしておくと、初めての打ち合わせでも提案の具体性やスピードが変わってきます
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aguse.jp 
URLを入れると、そのサイトがどこのサーバに置かれているのかがわかります。その際、同じサーバ内にどのようなサイトがあるかも調べておきます。なぜサーバの場所を知っておくかというと、同じサーバに大規模ECサイトがあったりすると、トラフィックにも影響が出るからです。つながりにくいので早朝や深夜などの空いている時間帯でチェックすることをオススメします
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similarweb
競合サイトの情報がわかるサービスです。トラフィック状況、検索キーワード、流入出先、広告などの状況を調べられます。Google Chromeの拡張機能が公開されているので、インストールしておけば作業が早く済みます
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builtwith
案件のECサイトがどのようなシステム、プログラム言語、さらにはデータベースを使っているかを調べることができます。事前にしておくことで、改善の提案にもより専門性・具体性が出てきます
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ahrefs
検索の被リンク調査ができます。被リンクが生まれた日や数、失った数などもわかります。被リンクしているキーワードで狙ったキーワードになっているか、どこのサイトから被リンクされているかも調べることができます

 

EC独特の構築フロー

次に前調査から得た情報をもとに、戦略から構築、運用という3つの大きなフローから主な作業、作業内容、成果物を書き出してみます。P118に簡単なフロー図を掲載しましたのでご参考にしてください(02)。デザイン制作だけの場合でも前後にさまざまなフローや作業があります。上流工程の戦略から入ることができればRFPの作成に携わることができ、ベンダー選定でも有利に運べることが多くなります。

事業コンサルティングの内容でも、デザインがブランディングを考える上で重要なポイントになります。専門の事業コンサルティング会社まではいかないかもしれませんが、ブランディングの視点を持つことはとても大切です。

また、運用を軸にしている制作会社もあります。運用の場合には契約が切られない限り仕事が続きますので、売上の基盤ができることは経営的にも安心です。もちろん、戦略から構築、運用まですべてできればよいのですが、中小零細の制作会社にとってはリソース配分をきっちりやらないと大きな問題につながりかねませんので、どこかに特化したほうが有利に運べることが多くなります。「運用もできます」ではなく、「運用が得意です」くらいの方がクライアントの印象はよくなります。

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02 ECサイトの構築フロー
一般的なECサイト構築のために考えるべきフローが上図になります。戦略から構築、運用という3つの大きなフローから主な作業、作業内容、成果物を書き出してみると、どこにどのような改善ポイントがあり、どんな施策が考えられるかが整理されます

 

制作会社の仕事につながる3ポイント

ECの制作会社がお金を生み出すポイントは「ブランド力を付けるところから意識して提案する」「コンサルティング提案を行う」「運用保守まで提案を行う」の3つと考えてよいでしょう。

まず「ブランド力を付けるところから意識して提案する」の例です。(株)フラクタ(03)は、もともとEC-CUBEの構築がメインでしたが、現在ではブランディングを意識して戦略から構築を行っています。スマートフォンでの魅せ方もブランディングを意識していると言ってよいでしょう。

次に「コンサルティング提案を行う」。(株)ECコンサルカンパニー(04)はその名のとおり、ECの戦略から行っています。市場規模の分析やファイブフォース分析、SWOT分析などはもちろんUSP(Unique Selling Proposition=独自のウリ)の打ち出しでも他とは違う成果を出すことができています。

最後に「運用保守まで提案を行う」では、S&Tパートナーズ(株)(05)を例に挙げたいと思います。同社はECの構築はもちろんですが、SNSのプロモーション、インフルエンサーの手配・運用も行う運用保守がメインで活動をしています。特にファッションジャンルに強い制作会社と言ってよいでしょう。

3つの事例でわかるのが「どこに力を入れているか」です。戦略なのか、ブランディングなのか、運用保守なのかが明確になっています。

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03 ブランド力を付けるところから意識して提案
株式会社フラクタ
クリエイティブとデジタルテクノロジーを強みとするブランディングエージェンシー。2013年の創業以来、さまざまな分野に精通したメンバーを集結しWebデザイン、システム開発、ECサイト構築、Web担当者育成などブランディングのためのあらゆるプロジェクトを実行しています
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04 コンサルティング提案を行う
株式会社ECコンサルカンパニー
18年間で1,000社以上の豊富な実績からノウハウを培い、ECサイトの運営だけでなく、Webシステムの開発まで行う。代表の江藤正親さん(写真奥)は1999年の段階でワインを月商4,000万円売り上げた実績を持ちます
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05 運用保守まで提案を行う
S&Tパートナーズ株式会社
代表の松本順士さんは2007年にレディースアパレルブランドを立ち上げ、4年で年商30億の売上をつくった経験があり、運用視点に立って解決に貢献できています。2006年の設立以来、「Web・ECの総合、運用支援型コンサルティングファーム」として、Web・ECの多彩なコンサルティング業務に取り組んでいます

 

EC業界は制作会社の「狙いどころ」

EC業界はようやく20年くらいになってきていますが、まだまだ未成熟な業界と言ってよいでしょう。もっと長く行っている業界、例えば広告業界やシステム開発のフローや人材リソースなどのフローを参考にしてみると、足りないところがまだまだ多くあります。

私が受ける相談で最近多いのが、「ECのクリエイティブディレクターはどんな方がいますか?」「ECのUI/UXの専門家を教えてください」などがあります。広告業界でしたら、クリエイティブディレクターは当然おりますし有名な方も多いです。しかし、EC業界でWeb検索しても誰も出てきません。今後ECが成熟すればするほど他の業界のフローやリソースを意識せざるを得ない状況になってくると予想できます。そう考えるとECで制作会社の技術が活かせるポイントはまだ多くあると考えられます。

ECサイトも長く運営していると、システムのアーキテクチャ部分が古くなってきてカスタマイズでは追いつかなくなってくる時期があります。最近ではリプレース案件も多くなっていると言ってよいでしょう。

この場合、新規構築はどちらかというとこれからのサイトづくりになりますので、メンバーも楽しい感じなのですが、意外な点で一番ネックなのは、データ移行です。特にフランチャイズ展開している会社は、データが各社でバラバラになっており、名寄せすることすら難しくなっています。

例えば、登録者の名字と名前がくっついていたり、分かれていたり、住所も1行だったり、複数行だったりします。もっと古くから事業を行っている場合データ量が半端なく、データ移行用にシステムをつくることも多々あります。当然移行リハーサルも1回だけでなく、複数回行うことも普通になってきています。また、パスワードが平文でデータベースに入っていることもあります。データ移行で考えるのならば楽だとも思えますが、セキュリティ上は絶対によくありません。こういったところも制作会社が力を発揮できるポイントとして考えられるのではないでしょうか。

 

ECの課題解決に制作会社の知見を

今回は、制作に関連する課題について紹介しました。戦略やブランディング、保守運用だけでなく、データ移行やセキュリティにも課題があります。他にも撮影、採寸、原稿制作の「ささげ」やプロモーション設計、運用、インフラ設計や構築、テストもあります。プロモーション設計では、Web広告だけでなくSNSのプロモーションやCRM、MA(マーケティングオートメーション)、LINEやSMSの活用などもあります。インフラ設計や構築もクラウドでの話も多く、テストは単体自動化テスト、結合テスト、統合テスト、受け入れテストだけでなく、脆弱性のツールやホワイトハッカーによる手動での脆弱性発見テストもあります。

さらに、今回は取り上げませんでしたが、EC周りで重要なファクターは、決済と物流です。決済と物流だけでも書くことは多いのですが、制作会社が物流分野もカバーする、決済分野もカバーして施策を打ち出すことも最近ではよく見られます。

これだけではなく、EC周りはまだまだ課題がたくさん、AIやIoT、RPA、VR・AR・MRなど新たな技術の浸透も期待できる業界です。

 

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Text:川連一豊
JECCICA(社)ジャパンE コマースコンサルタント協会代表理事。フォースター(株)代表取締役。楽天市場での店長時代、楽天より「低反発枕の神様」と称されるほどの実績を残し、2003 年に楽天SOY受賞。2004年にSAVAWAYを設立、ECコンサルティングを開始する。現在はリテールE コマース、オムニチャネルコンサルタントとして活躍。 http://jeccica.jp/

掲載号

Web Designing 2019年6月号

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2019年4月18日発売 本誌:1,530円(税込) / PDF版:1,200円(税込)

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「自信に満ちた企画であってもなぜだか通らなかった」「用意周到に進めたつもりでもコンセンサスが得られなかった」。企画に関しては、そういった類のことが社内外を問わずに起こりうるものです。考えが浅いのか、企画が甘いのか、それともコミュニケーションが足りないのか。いろいろと頭の中で考えを巡らせてみるもののその答えはよくわからないまま、なんてことも多いと思います。
とは言っても、「誰も思いつかないエッジのたった企画を!」「すごい発想力が必要!」と意気込む必要はありません。

企画(力)は、①発見(インプット) ②立案 ③提案(アウトプット)の3段階でそれぞれの手順を踏めば見違えるほどレベルアップするのです。

本特集では、大きく3つの段階で考えるべきこと、やるべきことをステップ化し、Webビジネスの現場で「仕事につながる=お金になる」企画力の鍛え方を、順を追ってチェックできるように構成しました。
スピード感がもっとも重要な特徴の1つであるWebビジネスで「より速く」「より確度高く」「より効果の出る」企画を実現させるノウハウを凝縮しています。

【イントロダクション】
なぜ、あいつの企画書は通るのか?
クライアントの心を鷲掴みにする、勝つための「企画術」


【インプット】
●クライアントは頼りたくなる本当の「インプット」とは?
●課題明確化のためのヒアリング術
●意見を引き出すためのブレストノウハウ術


【企画立案】
●やるべきことを見誤らないために、正しく課題を洗い出す
●速く繰り返すアジャイル開発で答えを探ろう
●クライアントの反応からわかる企画提案の落とし穴
●デザイナーが主導する、企画のあり方


【アウトプット】
●読み手目線で伝える企画書づくり
●「聞かせる」「見られる」を意識したプレゼン術
●佐藤ねじ式・「企画」の流儀


●戦国武将から学ぶ、ビジネスに活きる“11”の企画
●チームで企画を生み出すためのTips「12」

など


※記事内容は変更になる場合があります。


【こんな方にオススメ!】
■競合他社に先んじて有力な企画を打ち出していきたい企業担当者、プランナー
■Webのスピード感に乗って数々の課題解決を提案する制作会社ディレクター、アカウント、クリエイター
■上司やクライアントに「費用対効果に見合う」と判断(納得)させ予算を引き出すノウハウを知りたい
■面白い企画なのにうまく実現できない、企画はバッチリのはずだけど承認されない・・・
■企画を提案しても、クライアントに即決してもらえない&値引きなどの注文をつけられてしまう

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