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行動デザイン塾 Web Designing 2019年4月号

受け手のメモリーをコントロールする

マーケティングの競争は、受け手の記憶にどこまで残るかの競争でもある。情報量が爆発的に増加するデジタル社会において、記憶(メモリー)をどう扱うかが重要だ。

いかに長期記憶に残るようにするか?

記憶には、すぐ消える短期記憶と、消えにくい長期記憶の二種類があるとされる。ブランディングは、ブランドに関する情報を長期記憶として形成する活動だが、日々、膨大な情報が流れ込む今の社会で新たなブランディングは難しい。1980年代に活躍した伝説のロックバンドを描いた映画など、最近のヒット事例で「温故知新」型のリバイバルが目立つのはそういう理由からだろう。

人は長期記憶をネットワーク型に構造化して保持する。それで連想が生まれ、必要な時に記憶が取り出しやすくなる。「日本昔話」のようなナラティブ(物語的)な話は、思い出しやすくなるネットワーク構造の典型だ。文字のない時代、記憶はすべて人間の脳に保管され、物語を通じて他人と共有されていた。

今日、記憶は電子化され外付けになり、SNSで共有されるようになった。この技術進化が情報量の爆発的な増大を生み、こうした変化の中で人間の購買行動のプロセスも複雑化(01)。これらを示すモデルでメモリー(M)というステップがあるのは、AIDMAとAMTULだけだが、M(長期記憶)こそ重要なのだ。AIDMAでいえば、情報に触れて欲求が生まれる「AID」プロセスが、そのままA(行動)を喚起せず、一度その欲求は本人の長期記憶にプールされ、何かのきっかけ(ここが行動デザインの出番だ)で想起され行動化する。これがAIDMAモデルの正しい理解だ(02)。

今の情報過剰な社会では、長期記憶に残り、そこから呼び出すことはハードルが高い。今どきの記憶は、検索エンジンを活用して他人の記憶を活用する「外付け」型と言えて、内容以上に検索キーワードの刷り込みが重要なのだ。

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01 どんどん複雑化していく購買行動モデル
原始時代は動物と一緒で「お腹が空いたら(D:欲求)、狩りをする(A:行動)」シンプルなものだったが、現代は覚えるのも難しい複雑なモデルへと進化。モノも情報も飽和し、SNSに常時接続する社会での複雑な購買行動をモデル化すると、上図のようにならざるをえない
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02 「AIDMA」モデルの正しい理解
>このモデルが登場した1920年代のアメリカは、すでに情報も欲求も飽和した消費社会が生まれていたのだ

 

「フリクションレス」がキーワードに

情報過剰な環境は受け手にとってもストレスフルだ。情報探索から購買、購買後の保管や廃棄といった一連の消費行動プロセスを、「フリクションレス※」にして頭脳的コストを下げることが、今日的なマーケティングの命題だ。

受け手が処理できる情報量は、受け手の知識量や経験とも関連する。知識が増えるとより多くの情報を調べ、より効果的な意思決定を行えるし、さらに知識や経験のある人は、限られた情報で良い意思決定がしやすくなる(03)。

人の学習プロセスは、4段階あるとされる(04)。理想はSTEP4(いちいち考えなくても難しいことができる状態)、「達人」の領域だ。消費行動に置き換えれば、商品ブランドの特徴や機能への学習から理解が深まり、無意識的にその商品をフルに使いこなせる段階へ。こうなるとそのブランドを手放せない。

あるスマートフォンブランドだと、直感的な操作性にこだわっていることがファンが多い理由の一つだが、先の学習の4段階モデルに当てはめると、スマホ初心者でさえ、STEP2と3をショートカットして「何も考えなくても自然にうまくできる状態」(STEP4)に行ける、という価値を提供するとも考えられる。達人にしか体験できないはずの「フロー体験」の快感を、初めてスマホを手にした人でも一瞬、味わうことができるのだ。これも「フリクションレス」化の一例だ。

この事例のように直感的な操作性など身体的感覚が人の思考や嗜好に大きな影響を与えている。これも、行動でマーケティングを考える「行動デザイン」の重要な視点となるのだ。

(本連載は今回で終了となります。今までのご愛読に感謝を申し上げます)

※ 「摩擦がない状態」を指す

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03 情報検索行動の変化(「逆U字仮説」)
初心者は、最初何を調べたらいいかわからないが、学習が進むにつれ、情報探索の幅や深度が増大する一方で、情報探索コストも増加。さらに学習・経験が進むと、限られた情報で良い意思決定が可能で、情報探索コストも低減。情報探索量が最大限になるタイミング(p)に疲弊~離脱ポイントがあるので要注意だ ※ 03は、Bettman and Park(1980年)、Johnson and Russo(1984年)、新倉貴士(2000年)各3氏の論文を参考文献にしてまとめたもの
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04 学習の4段階モデル(消費行動に当てはめた場合)
学習プロセスは、STEP1~4をたどって熟達するとされている。購買行動も一つの学習プロセスの結果なので、このモデルはマーケティングにも応用できるだろう。STEP1では初心者向けのチュートリアルが、STEP2では「小さな成功体験」のサポートが重要になる ※ 「4 Stages Of Competence Model」あるいは「conscious competence matrix」として知られている、人の学習に関するモデルをベースに筆者作成
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Text:國田圭作
博報堂行動デザイン研究所所長。入社以来、一貫してプロモーションの実務と研究に従事。大手嗜好品メーカー、自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などの統合マーケティング、商品開発、流通開発などのプロジェクトを多数手がける。2013年4月より現職。著書に『「行動デザイン」の教科書』(すばる舎刊)。 http://activation-design.jp/

掲載号

Web Designing 2019年4月号

Web Designing 2019年4月号

2019年2月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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Webビジネスの成否に直結する!

CMS 2.0
新時代の常識

顧客との接点やエンゲージメントを高めるために必須のWebサイト。
その基盤となるCMSを、予算や自社都合だけで選んでいませんか?


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今や企業サイトの6割以上がCMS(コンテンツ管理システム)を導入していると言われています。
専門知識がなくてもサイトの更新や管理ができるのが特長のCMSですが、
これをただの「サイト運用ツール」だと思っているなら、
それは大きな機会損失を招いている可能性があります。

顧客へ認知やエンゲージを高めるために必須であるWebサイト、
そのコンテンツを有効に活用するための基盤となるCMSは、
今後のWebビジネスの勝敗を左右する大事なポイントなのです。
さらに、今あるサイト運用上のさまざまな課題も、
CMSを理解することで解消されるのです!


また、現在CMSと呼ばれるものは3,000以上存在しています。
中には業界や用途に特化したものもさまざまです。
そんなCMS、予算や担当部署の都合だけで簡単に選んでいませんか?

では、CMSをビジネスの基盤とし、武器として120%活用するためにはどんなことを考え、
どんな準備や選考基準が必要でしょうか。
そして、限られたリソースや少ないコストで成果を出すにはどうすればいいのでしょうか。



Web Designing 4月号(2月18日発売)では、
新規Webビジネスを立ち上げる際、どんなCMSを選べばいいか、今やりたいことを実現させるために
CMSを乗り換えるならどうすればいいか、既存のCMSをもっと活かすにはどうすればいいかなど、
もはやWebビジネスに欠かすことができないCMSの
これからの活かし方や課題の解決方法をさまざまなシチュエーションに立って解説します。


【対象読者&課題】
■とりあえず無料のCMSにしてみたものの、実際の運用にさまざまな課題が出てきた
■現在自社に導入されているCMSでは、やりたい新規Webビジネスが思うように実現できそうにない
■運用の使い勝手がいいCMSが知りたい
■予算は少ないが、企業サイトだけに素人が適当に作るのは抵抗がある
■CMS構築及びWebサイト制作、そしてその後の運用まで信頼できるパートナーを見つけたい
■「自社で簡単に作れる」という触れ込みを鵜呑みにした結果、現場が混乱&疲弊している


【予定内容】
●CMSこそがWebビジネスの勝敗を左右する

●CHAPTER1 CMSを“知る”
  01_CMSの定義や仕組みを知る
機能の違いやトレンド
02_WordPressが選ばれる理由と利用時の注意点
機能性、開発力で課題を解決
03_CMS導入がもたらすビジネスメリット
投稿の質と働き方を向上

●CHAPTER2 CMSを“選ぶ”
   01_ビジネス最適化につながるCMS選びのための準備
決め手は、選ぶ前の準備作業
02_具体例で学ぶCMSの選び方
「運用」や「保守」を意識した選択

【 CMSとセキュリティ 】 Web制作のプロが教える~CMSとセキュリティ“9つ”の金言
【 編集部が厳選! 】企業サイト・メディアで安心して使える商用CMS 17選!
【 Column 】 管理画面を変えたUXデザイン
【 Column 】 Webサイトのセキュリティのために~知っておきたいハッカーのこと

●CHAPTER3 CMSを“運用/活用する”
01_中長期的に考えるCMSの運用と体制づくり 
持ち腐れにしない、積極的な活用を!
02_これからの新常識は「CMSマーケティング」だ! 
まだWebサイトの更新にしか使ってないの?

【 CaseStudy 】 CMSで実現したリード獲得と新たな営業フロー/「Hint Clip」 共同印刷

ほか

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