2019.01.21
デザインの力は企業に何をもたらすのか クリエイティブ強化のための組織づくり
インターネットテレビ局「AbemaTV」や音楽配信サービス「AWA」などさまざまなサービスを展開するサイバーエージェント。同社では、クリエイティブ強化のため2016年にデザイナーの佐藤洋介さんを執行役員に抜擢しました。この人事は、同社にどのように変化をもたらしたのでしょうか。
ミッションは「クリエイティブクオリティの向上」
(株)サイバーエージェントでは、近年より一層クリエイティブを重視しており、2015年にはデザイナーのNIGO氏を総合クリエイティブディレクターに迎えコーポレートロゴなどを刷新。2016年には「クリエイティブで勝負する。」という一文をミッションステートメントに追加し、デザイナーの佐藤洋介さんを執行役員に任命しています。佐藤さんはこう振り返ります。
「2012年に中途入社したとき、各サービスの事業部ごとにデザイナーが所属していて、まったく横の繋がりがない状態でした。そのため、サービスごとにクリエイティブのクオリティの差が大きかったんです。それで2013年頃から、僕が小さく仕組みづくりを始めました。たとえば、アートディレクターを8人くらい決めて、それぞれ5サービスくらいのデザインを見るようにしたりと。その頃から、社長の藤田(晋)に『現場のクリエイティブのクオリティを向上させてくれ』というミッションをもらっていました。今もそれは変わっていません」
クリエイティブのクオリティが上がることは、会社にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。
「他社のサービスを見ても、クリエイティブを競争力にしているものが市場に増えています。また、各サービスの人気というのは、サービス自体の内容によるところが大きいのですが、使い心地が良かったり遅延によるストレスが少なかったりという地味なクオリティの積み重ねもユーザーのどこかに刺さっているのかなと思います」
経営層や他部署とのコミュニケーション
デザインが大事だということはわかっていても、経営層や上司、あるいは他の部署が理解してくれないというのはよく聞く話です。それを佐藤さんはどうクリアしていったのでしょうか。
「お互い違う立場なので、うまく理解してもらうための伝え方は必要です。たとえば2013年頃に流行り始めたフラットデザインの重要性を藤田に伝えた際には、既存サービスをフラットデザイン化して見せ、デバイスが増えたときに工数が3分の1になるという話も伝えました。相手に結果とメリットを先に伝えるというのは重要かなと思います」
そして、もう一つ大切な点を指摘します。
「各事業部ごとに紐づいたデザイナーを横につなげて束ねようとしたときも、最初は事業部長などから反発がありました。デザイナーの成長のためにこの仕事を任せたいと思っても、その事業部のリソースを奪われるという捉え方をされてしまって。でも、その分、僕や他のデザイナーが手伝うようにして、迷惑をかけず、むしろ新たなリソースが入るメリットがあるようにしたことで、徐々に理解を得ました。WIN-WINの関係をしっかりと築いていけば、対話でどうにかなるんですよ。コミュニケーションを諦めないことが大事ですね」
クリエイティブを向上させた成果
2016年にCIリブランディング、AbemaTV、AWAの3つがグッドデザイン賞を受賞。また、2016年にAbemaTVが、2017年にAWAがそれぞれGoogle Playのベストアプリを受賞するなど、実際に対外的な評価も得ていきました。
「デザイナーだけでなく、ビジネス職やエンジニアも含め、これくらいのクオリティが最低条件だよねという社内の美意識が上がりました。また、提案書類一つにしても、本当にこれでいいのかともう一度考えるように意識が上がってきました。そうやって、社員の価値観を変えられたのは一番大きな成果かもしれません」
その結果、採用でも、クリエイティブに惹かれ意欲のあるデザイナーが多く集まるようになってきたと言います。
デザイナーの意欲を高め力を発揮するための7つの取り組み
佐藤さんは、社内のクリエイティブ力を強化するため、デザイナーの意欲や実力を高めるためのさまざまな取り組みをしてきました。そのうち主な7つについて、その内容と狙い、効果をご紹介します。
Policy 1:デザイナーの意識を一歩先へ
最近は世にあるクリエイティブのクオリティが上がってきているので、ユーザーの目はとても肥えています。佐藤さんは、「ユーザーに対して、どう驚きをつくるのかというのが僕らデザイナーのミッション」と言います。それを実現するために、社内のクリエイターに「それ、ふつうになってない?」から始まるミッションステートメントを共有しています。
オーソドックスなデザインはユーザーが慣れていることもあり使いやすさという面では良いものの、印象に残りにくいという面もあります。一歩先をいく新しさを提示することは、サービスのエッヂになったり、ユーザーにとって替えの効かない体験になったり、あるいは情報過多な現在において目に留めて選択してもらうきっかけになり得ます。そのためにも同社では、デザイナーは常に新しい提案をすべきだという意識を浸透させています。こうした意識が、デザイン学習意欲にも繋がっています。

Policy 2:課題解決力を競い、サービスと人が共に成長する
「デザイナーロワイヤル」とは、既存の自社サービスの現状の課題を担当プロデューサーにヒアリングし、それを解決する施策を複数のデザイナーが考え、バトル形式で競う、サイバーエージェント独自の会議です。参加者は、「自分だったらこうデザインする」とか、「ここのリストが使いにくいからこういうモジュールに変えてみる」といった案をみんなの前で発表し、佐藤さんが点数をつけて、もっとも高得点だった人が優勝となります。
佐藤さんは、デザイナーは自分と他のデザイナーのアウトプットを横で比較して伸びるものだと言います。特に自分のアイデアを人に見せる経験がまだ少ない新入社員には、アウトプットを人に見せることに慣れるための場としても有効です。また、切磋琢磨して勝ち、スポットライトが当たることで自信にも繋がり、デザイナーにとって大事なモチベーションになります。
