dot by dot inc.の「クリエイター制度」 事例詳細|つなweB

 

クリエイター本位の制度を目指して

dot by dot inc.(以下dot)が導入する「所属クリエイター制度」は、平たく言えば、「所属」にはなるが個人活動の制限は一切しないという制度。dotの仕事は「やりたい案件ならやっていいし、断ってもOK」。クリエイターに対して、都合よくdotという組織や仕組みを利用してください、というスタンスだ。

「私たちの大前提として、優秀なクリエイターと仕事がしたい。でもそれは、必ずしも正社員として雇用することを意味しないと考えています。当のクリエイターにとって正社員が幸せなあり方とは限らないからです。私たちと一緒に働きたくなる仕組みでもあり、何よりクリエイターにとって理想的な働き方を築ける1つのツールとして、この制度をつくりました」(富永勇亮さん)

主な遵守すべきルールは、dotの名刺を持つことと、週1度の定例ミーティングへの参加。その場で、dotが抱えるプロジェクトが共有され、参加意思の表明が可能だ。興味があればコミットできる。基本は自由裁量で、個人名義のプロジェクト優先で断るのもあり、dot案件を優先してもOK。フリーランスとの違いは、所属クリエイターは希望すればdotにマネジメント代行を請け負ってもらうことが可能な点。困った時だけうまく頼るのがOKな仕組みになるので、自由裁量が担保された上で、組織の強みも活用可能というメリットも享受できる制度である(01)。

01 所属クリエイター制度とは?
dot by dotの経営思想との距離感を例にすると理解しやすいだろう。もっとも近いのが創業者や役員だとすると、次に近い層が社員、その次のレイヤーが所属クリエイター制度だと富永さんは説明する。決して帰属を求める制度でなく、フリーランスとして働き続けられるのがメリット

 

制度(精度)の肝はマッチング

富永さんの持論で、dotの哲学にもなるのが「仕事は良質な人材のもとに集まる」。この制度が徹底的にクリエイター本位を意識しているのはそのためだ。実際、dotの活動は他の点でも大きな説得力を発揮する。例えば、リモートワークが容認されていて、正社員の中にいる大阪在住者2名(デザイナー、プログラマー各1名)とは、直接会う機会は数カ月に1度だとか。通常業務は各種ツールでつながる仕組みが確立していて、不便は少ないという。シェアオフィスの運営も行っており、所属クリエイター制度ほどではないがdotに興味を持つクリエイターに対して、シェアオフィスで働く選択肢も提供できている。クリエイターの創造行為をメインに考え、一番打ち込みやすい環境の提供が目的のため、もっとも重視するのはマッチングだ(02)。

「スキルはもちろんながら、私たちとクリエイターが合うかどうか。ここが合わないと両者にメリットがないので、マッチングはかなり慎重に見極めます」(富永さん)

02 マッチングを最重要視する制度
クリエイター自身のスキルや自己管理力を徹底して信じることで成り立つ制度のため、両者のマッチングを非常に重視するという。互いに相性、適応を見ながら、必ず1度、案件を一緒にやってみて、現場での互いのフィーリングなどを最終確認して採用を判断する

 

「都合よく利用していい」というメリット

2017年から「所属クリエイター制度」を利用する、元PARTYのプログラマー、渡島健太さんに所属の実情を聞くと、「驚くほど拘束がない」と語る。

「結果が求められる立場だという自覚を強く持っているので、仕事への緊張感はあります。ただ、普段の仕事は自由裁量で、dot経由と自分経由の案件が五分五分くらいで調整しています」

渡島さんのもとには、定評のプログラムスキルを見越した依頼が個人宛で来ることが少なくないそうだ。だからこそ、「所属」の恩恵もあやかりやすいという(03)。

「個人で引き受けるにはリソースが厳しい場合や、クライアントによって法人でないと契約が厳しい場合、dotに相談できるメリットがあります。都合よく相談していいよ、というのも助かっています」(渡島さん)

その真意を富永さんに聞くと…。

「クリエイターには制作や開発になるべく集中してほしいので、僕ら経由で解決可能なハードルがあるなら遠慮なく相談してほしいし一緒に解決したい。基本的にマネジメントフィー(手数料)は取りません」

ケースA

ケースB

ケースC

03 所属クリエイター制度のメリット
所属クリエイターは希望によって参画の有無を決められる(ケースA)。本人に依頼があった場合、適宜dot by dotにリソースの相談も可能(ケースB)。クライアントはプロジェクト単位で優秀なクリエイターに依頼しやすいメリットがある(ケースC)。これら3例もあくまで関わり方の一部で、個人の動きやすさと法人のバックアップそれぞれの良さが活かせる

 

 

制度自体で利益を追求しない

この所属クリエイター制度について強調すべきは、制度自体で利益を上げるという発想がない点だろう。取材中に何度も富永さんが言ったのが「性善説に立つ制度」ということ。裏返すと、もしクリエイターのマネジメントで利益を上げることを優先し、コスト感覚が先立てば、性善説で成り立つ均衡が途端に崩れてしまう。

クリエイティブを重視する制度だからこそ、こうした風通しの良さや透明性が、所属クリエイターの万全な(気持ちのいい)状態を保つことにつながるのだろう(04)。

徹底した能力重視かつマッチング重視の所属クリエイター制度は、従来のマネジメント感覚と一線を画する仕組みだ。信頼があるからこそ、勤怠管理もしていないという。富永さんはこの状態を「管理しない状態こそ究極の管理」だとした。

「優秀なクリエイターが、同じ会社にいつまでも止まらなくなりつつありますし、優秀だからこそ採用側の負担やリスクも大きくなります。異なる環境で常に挑戦したいクリエイターにとって、この制度が適応すれば、それぞれの立場で望ましい状態が得られやすいはずです」

従来の利益への考え方とは異なる、クリエイター目線の制度が、業界を越えてクリエイティブの底上げへと寄与してほしい。この制度のさらなる飛躍を期待したい。

04 性善説で成り立つ「所属クリエイター制度」
従来のマネジメントで想像しやすいのは、制度自体での利益の追求だが、「所属クリエイター制度」は制度自体での利益を求めない。クリエイター本位がベースの仕組みで、制度に興味を持った優れたクリエイターが、制度に関心を示して集まってくるという好循環を狙っている
 
遠藤義浩
※Web Designing 2019年2月号(2018年12月18日発売)掲載記事を転載

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