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2011年5月号 緊急特集:震災とWeb

Interview: 震災発生から約6時間というスピード対応ができた背景 被災者支援「SAVE JAPAN! PROJECT」が目指す復興へのグランドデザイン

Text:遠藤義浩

東日本大震災が発生後、国内のWebクリエイティブ業界からも多数のサービスが生まれた。なかでも、被災者のための情報提供で社会的な機能を果たしているのが「SAVE JAPAN! PROJECT」だ。サービス公開の経緯や運営体制、そして今後の復興を見据えた将来的な関わりについて、運営の中心人物であるムラカミカイエ氏に語っていただいた。

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SAVE JAPAN! PROJECT

ムラカミ氏が中心となって開設した被災者支援プロジェクト。2011年3月11日(金)、東北地方太平洋沖地震の発生から約6時間後にTwitterやFacebookを通じて、地域別の震災情報をまとめたポータルサイトを開設し、被害状況や安否情報、被災者への有用な情報提供に貢献しつづけている。Twitterのハッシュタグ(#save_+県名、地域名)で寄せられた情報をエリア別に集約するほか、10カ国語対応、携帯電話やスマートフォン対応など、サービス内容を日々拡張。今後は国内にとどまらず、世界各国に支援の輪を広げて、チャリティなどの継続的な復興策へと活動領域を進めていく

(写真: 代官山に本社を置く、ファッションブランディングエージェンシー「SIMONE INC.」の代表、ムラカミカイエ氏)

社員それぞれに「動かねば」という強い衝動

 地震当時、SIMONE本社にいたというムラカミ氏は、震災直後に見たTwitterのタイムラインが尋常でない早さで流れていくのを見て、危急の事態が生じたと直感したそうだ。自身が静岡県の海沿いの街で生まれ育ち、幼少の頃から数多くの地震訓練を受けていた経験から、津波の恐ろしさも浮かんできたという。社員の安全や社員の家族や親類の安否が確認できたあたりから、ムラカミ氏自身だけでなく、社内が「何かやらねば」という空気に包まれ出していく。

「僕だけでなく社員のみんなが、震災直後の約1時間、悶々としていました。大地震の壮絶さや津波による甚大な被害がわかりはじめるなかで、何かやるべきだ、となったわけです」(ムラカミ氏)

 即座にムラカミ氏と社員の有志2名を加えた3名で、サービスの骨子となるプランニングを開始する。特に生存者救出には被害発生の72時間が勝負という救急のガイドラインも念頭に置き、「可能な限り素早いサービス公開」「被災者に必ず有益な情報の提供」「誰が見てもわかりやすいユニバーサルデザイン」の3つを軸に、社員6名、さらには(株)キュービットの協力も得ながら、Webサービス制作に取りかかっていく。

「スピード感」優先のサービス公開

 有益な情報源には、Twitterを最大限活用することにした。Twitter上に次々に挙げられるツイート、ソースとともに提示される膨大な情報を見ていて、これらを整理して見やすく提供できれば、被災者に有益で強力な情報源になると考えたからだ。そこで、Twitterのハッシュタグ「#」を使ったサービスの提供に向けて、ムラカミ氏がサイトとなるデザインフォーマットを制作する傍ら、社員スタッフがTwitterやFacebookのアカウントを申請。当日即座に対応するサーバや取得できるドメインがないため、自社サーバで自社ドメインでの運営も決めた。

「万全を期して公開という悠長な事態ではないので、少々粗い状態でも公開に踏み切れるように大至急で進めました。被災地の状況を考慮して、可能な限り軽快に見られる状態で実装して、公開したのが震災6時間後でした」

人力による情報選別で“有益さ”の精度を向上

 公開後の反響がすさまじかったという。最初はムラカミ氏のアカウントからTwitter上でサービス公開を告知すると、たちまち情報が拡散。自社サーバだったためすぐにサイトがダウンしてしまう反響ぶりだった。より堅牢なサーバを求めてTwitterで支援を求めると、短時間に数えきれないほどの助言や賛同、支援の声が寄せられる。
「会ったことのない方々からも次々に支援の声を投げかけていただきました。あまりの多さにすべてにご返信ができませんでした。この場を借りて御礼を申し上げます。200社以上の声が集まるなかで、国内有数のホスティングサーバ会社4社からも具体的にサーバ提供のお話がありました」

 AWS(Amazon Web Services)のサーバを使ってサービスが復旧すると、次にハッシュタグを使ったサービスの作法の浸透に心血を注ぐ。例文を100以上のツイートとして流しながら、ハッシュタグを用いてエリア別での情報集積ができるようになることをアナウンス。やがて作法に則った情報も集まりはじめるなか、被災者にとって有益な情報が揃うよう、SIMONEスタッフが情報を選択しながら掲載。そこから得られた情報を参考に、サービス内容は数時間単位でアップデートを重ねていった。

継続的な取り組みへと動き出す

 すでに「SAVE JAPAN! PROJECT」は、復興に向けての次のフェーズに進み出してもいる。3月中に、VOGUE JAPANやGQ JAPANなどを発刊するコンデナストとメディアパートナーを提携。支援の輪を海外にも広げ、より多くの結集を呼びかけている。

「被害の甚大な規模を考慮すると、復興には5年、10年という実に長い期間も予想されます。この動きをけっして一過性に終わらせたくありません。まだまだやるべきことが足りていませんが、システムに強いと思われていない弊社でもここまでできます。Webは立ち上げから公開まで自分たちで完結できるメリットがあるし、何よりスピード対応に優れたツールです。国内には、数多くの素晴らしいWeb制作会社やトップクリエイターがいらっしゃるので、僕たちとは違った形でも、復興に向けて参画の輪が広がるとうれしいです」

 復興に向けてのあるべきチャリティを模索して「4月以降も具体的なアクションを続ける」とインタビューの最後にムラカミ氏は明言した。まだ始まったばかりの道のりに、「SAVE JAPAN! PROJECT」は力強く、とことん突き進んでいく。

震災 約1時間後 プロジェクト開始

  • デザインフォーマットの制作
  • TwitterやFacebookのアカウント取得
  • サイト仮公開と軽量化の模索

SAVE JAPAN! PROJECTのTwitterアカウント(@SAVEJAPAN0311)取得後に、サイトの開設が告知された。すでにサイト開設前に、ハッシュタグの使い方を広めはじめていた

震災 約6時間後 サイト公開

  • 自前のサーバで緊急公開するも、アクセス集中で一時サーバダウン
  • 多数の支援の声で、早急にサービス復旧
  • サービスのハッシュタグを周知活動

サイト開設当初のデザイン。
「デザインフォーマットは約30分で作成しました。一覧性、視認性を重視し、後ろ向きな気分にならないデザインとしました。当初の区分けは、東北・関東・その他。寄せられる要望に応じて、エリアを細分化していくことにしました」(ムラカミ氏)

Twitterで情報が拡散し、一度にアクセスが集中してしまったために自前のサーバがダウン。急遽、ムラカミ氏が自身のTwitterアカウント(@kaie _murakami)からサーバ提供の協力を呼びかけたところ、多くの声が返ってきた

震災〜3日 サイトを機能拡張

  • 寄せられた情報から、地方・地域を細分化
  • 携帯電話やスマートフォン対応版を公開
  • 被災地の外国人や海外に向けて10カ国語対応

「携帯電話にも対応したことによって(上)、ユーザー層にも変化が現れました。Google Analyticsのレポート(下)ではユーザーの地域の分散が見られるようになり、何よりも、寄せられる声の内容に変化が。それ以前は安否情報の拡散に関するツイートが集中していたのですが、被災地の物資不足に関するツイートが増えました」(SIMONE小野田鷹生氏)

「携帯電話やスマートフォン対応と同じ頃に、大手メディアがハッシュタグを広めてくれるようになって。茨城県の情報が足りなかったので、それをツイートすると、一気にどの地域よりも情報が寄せらたのです。自分たちのツイートの重みを知った瞬間でもあります」(小野田氏)

英語、スペイン語、フランス語など計10カ国語に対応。
「本業での人脈のおかげで、海外からの問い合わせも多数寄せられました。支援や復興の輪を広げるために、国内の外国人や海外にも情報を提供する必要が急務です。他国語にも対応できたことで、海外系のファッションサイトにもバナーを掲載していただくなど、広がりを見せています」(ムラカミ氏)

震災〜2週間 メディア連携

  • コンデナストとの提携でメディア横断
  • 学生有志などによる連携サービスへと派生

ハッシュタグを利用して、さらに細分化した情報提供に立ち上がるサービスが続々と登場した。 「僕たちのもとに寄せられたなかで、もっとも活発だったのが学生のみなさん。次に地方のWebクリエイターやシステムエンジニアのみなさん。SAVE MIYAGIをはじめ、我こそはという有志の輪の広がりを実感できたことも、サービスをやったことでの発見にもなりました」(ムラカミ氏)

4月以降 復興に向けた進化

  • ファッション、アート業界にチャリティ賛同を呼びかけ
  • 継続的なチャリティとするべく、国内外への働きかけ強化

「今後は、被災地の復興策につなげるチャリティ活動へもつなげていきます。“自分たちにも何かできないか”というWeb業界関係者の皆さんのご賛同やご支援もあれば、とても心強いです。フォームを用意していますので、ぜひともお声がけください」(ムラカミ氏)

ご賛同やご支援、そのほかSAVE JAPAN! PROJECTに関するお問い合わせは、以下までお寄せください。

savejapan311[at]gmail[dot]com(SIMONE 小野田宛)

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この記事は、2011年5月号「緊急特集:震災とWeb」の上記のページをWeb用に再構成したものです。