パナソニック株式会社 エコソリューションズ社 ー デジタルと紙を使い分けた顧客とのコミュニケーションを目指して
パナソニック エコソリューションズ社は、キッチン、バスルーム、洗面、トイレ、照明、給湯、暖房、空調等の住宅設備や、オフィスの電設資材を提供するパナソニックの社内カンパニーだ。取り扱う商品は40万品番以上におよび、これらの商品情報は紙のカタログやWebコンテンツを通して工務店や顧客に届けられている。
同社は現在、Webコンテンツの情報構造の見直しと、取扱説明書(トリセツ)、施工説明書を含む製品情報のデータベース化に取り組んでいる。必要に応じてWebと紙のアウトプットを使い分ける、来るべき時代に備えた取り組みだ。
情報設計をみなおしてサイトをリニューアル
パナソニック エコソリューションズ社の一般消費者向け製品情報サイトが、この6月に大きくリニューアルを実施した。これで同社の一般消費者向けサイトは、リフォーム情報サイト、コンテンツマーケティングの役割を担うサイト「すむすむ」とともに、ひと通り新しくなったことになる。デジタルコミュニケーションセンターの本橋 豊氏は、製品情報サイトのリニューアルの経緯について、こう語る。
「弊社は直接の顧客が工務店や住宅会社の設計部門になります。そのため、従来からある、分厚い住宅部材のカタログが『営業マン』としての役割を担ってきました。カタログの制作には、それぞれの商品カテゴリーごとの担当がいて、その担当が『この商品はこんな伝え方をするのがベストだ』という方法で作ってきたのです。そのため、一方では同種の部材でも見せ方が大きく異なったり、伝える言葉が違ってきたりした、という課題がありました。Webに掲載するコンテンツも、基本的にはカタログの内容をもとに作っていたので、同じ住宅会社や工務店に見ていただくにもかかわらず、情報構造や訴求の仕方がばらばらで、分かりづらいサイトになっている部分があったのです」
そんななか、たまたま出会ったのが、ネットイヤーグループが執筆した『IAシンキング Web制作者・担当者のためのIA思考術』(ワークスコーポレーション刊)という書籍だった。
「Webサイトのデザインは、要は情報構造の整理なんだということに、あらためて気づいたわけです。このサイトは一見、統一されているようにみえるかもしれないけれど、情報構造はまったく整理されていないと。そこですぐにこの本の著者にお会いして相談することにしました」(本橋氏)
ちょうどそれまで運用してきたCMSが切り替えを迎える時期だったこともあり、サイトのリニューアルはトントン拍子に進んだ。目標として掲げたことは3つある。一つは多様化するデバイスへの対応。それまではPC向けとスマホ向けに別のページを用意していたのだが、手がかけられない、費用が捻出できないなどの理由によってスマホへの対応が行われていないカテゴリーもあった。新しいサイトではリンクエリアを大きく取るなど、PCやスマホ、タブレットなど、どのデバイスでも使いやすい構造とレイアウトにした。
二つ目は最重要課題であるサイト構造(情報構造)の改善だ。コンテンツの置き場がばらばらで、内容もカタログから持ち込んだものが多かったために、「言いたいことを並べました」という状況だった。それらにルールを定めて内容を整理し、同時にコンバージョン(別サイトへの誘導など)を明確にした設計とした。三つ目はデザインだ。これまでは個々のプロモーションの影響を受けやすく、見た目が揃わないといったことが起きていたため、パナソニック共通のヘッダに負けない強いビジュアルを伴ったトーン&マナーを決めることにした。
住まいの設備と建材
リフォーム
パナソニックの住まい・くらし方情報「すむすむ」
情報設計でコンテンツエリアの刷新を行う
リニューアル後のサイトの各カテゴリーページは、「キービジュアルエリア」「商品検索エリア」「ソフト情報エリア」「関連情報エリア」「ニュースエリア」で構成されている(次ページ参照)。これは消費者の行動への配慮と、誘導したいコンテンツへのコンバージョンを考えた結果だ。
「サイトに訪れた人の目的を分析すると、商品情報を見るために来る人が圧倒的に多いことがわかりました。その人たちのために商品のラインナップを最初に見せなくてはならないと考え、カテゴリーを象徴する強い『キービジュアルエリア』を、ページの先頭に置くようにしました」(本橋氏)
「商品検索エリア」は消費者が調べたい商品情報に到達するための導線で、「商品一覧から選ぶ、プランから選ぶ、関連商品を選ぶなど、それぞの商品カテゴリーに沿った複数の選び方による検索が、タブメニューで切り替えてできる」(本橋氏)ようになっている。その下は「ソフト情報エリア」で、商品の選び方やコーディネート提案など、ユーザーに役立つ情報をまとめた企画ページヘのリンクが並んでいる人気のエリアだ。さらにこの下に「コンバージョンエリア」を設けた。このエリアは、消費者が「実際にショップやショールームを探す」「カタログを見る」といった、購入までの道筋を一歩進めてもらうためのコーナーだ。そして、ここで消費者がアクションを起こしてもらうことをゴールと位置づけた。同時期に、Webをビジネスと直接結びつけるための施策として、リフォーム施工会社のオンライン紹介サービス「パナソニックのリフォームショップ紹介サービス」も開設した。
一方で、過去のサイトでは、左メニューに商品一覧やカテゴリのメニューが存在したが、これはページ右上のコンパクトな「ハンバーガーメニュー」に置き換えることにした。ハンバーガーメニューはスマホ用のインターフェイスで普及したものだが、最近ではPC向けのサイトでも一般的になりつつあるUIだ。このサイトでは、サイト内のさまざまなメニューにダイレクトに移動するときに使ってもらうことを想定している。
各カテゴリーのフォーマットも統一された。たとえば「商品検索エリアのタブは最大4つまで」というガイドラインが設けられたが、Webコンテンツの取りまとめを行った辻 綾子氏は、「コンテンツの設計時に担当者にアクセス解析の結果やガイドラインの必要性などを説明することで、各カテゴリーとも違和感なく受け入れてもらえました」と話す。
「そもそも、特長を説明する際にポイントが9つもあったら、見る側も理解できませんよね。であれば、『ポイントを3つずつに区切って説明しましょう』というように、情報構造を決める際のルールのようなものを伝えて、あらゆるケースに適用していきました」(本橋氏)
この、Webサイトで行った構造設計は、今後は紙の情報構造を決める際にも反映していく可能性があるという。現在はまだ顧客向けの情報は紙カタログをメインに制作をしているが、今後はデータベースに情報を蓄積し、そこから紙やWebに書き出すというフローを構築することを想定しているからだ。
「商品の品番やスペックは早い時期からデータベース化されていますが、商品特徴などの販促情報は遅れていました。これがデータベース化されると、Webサイトのコンテンツも自動的に出力できるようになります」(本橋氏)製品情報サイト、リニューアルのポイント
新しい製品情報サイトのエリア区分
デジタルと紙の棲み分けを考える
現在、同社の商品を収めたカタログは600種類を超える。これらは直接の顧客である工務店や設計事務所、建築現場などに置かれ、設計の際に活用したり、注文主(住宅購入者)との打ち合わせ時の資料として使ったりしている。「設計や建築の現場に1冊ずつないと発注できない、電話帳のようなところがある」と、本橋氏は言う。紙メディアからはなかなか抜け出せない業界なのだ。
「いちばん分厚いカタログは電設資材を扱ったものなのですが、2,000ページあります。電気工事屋様は(このカタログの)扱いに慣れていらっしゃいますので、指の感覚で見たいページをぱっと探りだすことができるんです。そういうことはデジタルではできません。それに、紙だとその場に残るというのも大きい。『眺めて想像を膨らませる喜び』みたいなものもあると思います」(本橋氏)
だが一方で、情報のデジタル化が進めば、大きな革新をもたらすことができるとも考えている。
「現在、600種類あるカタログのうち、300種類くらいは頻繁に流通するものではありません。そういったカタログはデジタル化して紙を排除していく。一方で、ほんとうに現場に配布すべきものについてはさらに量産し、今以上に多くの現場へと届ける。僕らとしては本当は、全国の設計事務所や建築現場にこの紙カタログがあって、実際に発注したり、より詳しい商品情報が欲しいときにWebを開くというのが一番なのです。最新の商品情報を確かめるとか、参考事例や更新される情報を確認する、施工説明データをダウンロードするといったことはWebから行うけれど、最初に商品を知る役割はカタログが担う、というイメージです」(本橋氏)
このフローを高品質なユーザー体験とともに提供するためには、内部的にコンテンツの共通化やデータベース化を進めておき、統合的に運用する必要がある。
「デジタルのトリセツでも、自分が困ったときにすぐ知りたい箇所に行き着けるなど、使い勝手さえ向上すれば、デジタルへ移行する価値は高いと考えているんです。工務店などは頭領や社長が世代交代するタイミングで、大きな変革が起きるかもしれない。そのときになってからでは他社に遅れをとるので、デジタル化は事前にやっておくことが重要なのです」(本橋氏)
デジタル化による可能性
ところで、紙のカタログは、新製品情報を反映して毎年新しいものを作り、配布をしている。
「製品カタログには何年版と書かれているので、何年も前のカタログを見ている人はいません。新しいカタログができたときにお客様に直接届けることができるのは、弊社の大切な販促活動にもなっています」(宮本氏)
カタログを顧客に直接持っていくことが、営業と顧客をつなげるコンタクトポイントにもなる。一方、Webサイトの特長は「情報をストックできること」だ。ここにも紙とWebとの役割分担の可能性がある。デジタルソリューションセンター 取説・パッケージデザイングループの中原司郎氏が指摘する。
「取扱説明書には紙でお届けすることに悩みの種があります。5年前、10年前に商品を買ってくださったお客様(施主)の手元には、その時点での説明書しか残らないことです。その商品について、もっと便利なお手入れ方法や新しい消耗品の情報があっても、紙で説明書をご提供している限り、お客様に情報を届ける手段がありません。そこでWeb化といいますか、説明書をネット上で公開し、お客様に利用していただくことに可能性を感じています。最新の情報を提供して買い替えにつなげることもできるでしょうし、購入時期から計算して『そろそろ10年経ちますね』とリフォームのご提案もできるかもしれません」
そのためにも、トリセツを含めた商品情報がしっかりとデータベースで管理され、情報が統合されている必要があるのだ。今はカタログとして作ったものをデータベースに収めているというフローだが、将来的にはWebファーストでデータベースを構築していくことになるだろう。
「たとえば、これはBtoBの照明器具の例なのですが、オフィスのリニューアルという需要に対してオフィスの広さや現在の照明器具、明るさなどを入れると、置き替えに適した商品の品番がポンと出てきます。それが省エネ効果があるものなのか、コストの安いソリューションなのかといったことも選べ、その場で見積書まで出すことができる。工事屋さんが現場でリニューアルの提案までできるのです。このような仕掛けはまだまだ考えられるでしょう」(宮本氏)
紙がよいのかWebがよいのかという議論ではなく、データは一元管理しておき、必要に応じてWebと紙を使い分けることで、大きな可能性が生まれる。このポリシーをベースに、エコソリューションズ クリエイツでは今後も、コンテンツのデジタル化、Web化を積極的に推進していくという。
さまざまな顧客に向けた導線づくり
テクニカルコミュニケーションシンポジウム2015
共感のテクニカルコミュニケーション
〜誰のために、何のために、どうやって〜
- 【東京開催】
- 2015年8月25日(火)、26日(水)
場所:工学院大学(新宿)/基調講演者:佐藤尚之氏 - 【京都開催】
- 2015年10月7日(水)~9日(金)
場所:京都リサーチパーク/基調講演者:西村貴好氏
事務局:東京都新宿区北新宿4-22-15 TEL 03-3368-4607 FAX 03-3368-5087