Web Designing

ウェブデザイニング | Web Designing | 情報戦略でビジネスを加速させる 毎月18日発売

クライアントの魅力はこうして引き出す「それからデザイン」に学ぶ、
中小企業Webサイトを差別化する方法

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中小企業や個人経営ショップなどのWebサイトを制作する際、特徴や強みが乏しく、コンテンツや差別化に頭を悩ませている人は多いのではないだろうか?
しかし、考え方ひとつ、アイデアひとつで、Webサイトはもっと魅力的に見せることができる。
その方法を中小企業のWebサイト制作を多く手がける「それからデザイン」の代表、佐野彰彦さんに教えてもらった。

佐野彰彦(さの・あきひこ)
Webデザイナー / アートディレクター
株式会社山野楽器で商品開発・販促営業を経験した後、ワイピービデオ株式会社(現:株式会社ヤマハビジネスサポート メディアワークス事業部)で、Webデザイナーとしてのキャリアをスタート。2004年「それからデザイン」設立。「ブランド戦略型ウェブ制作」を掲げ、企画戦略の立案から、取材・執筆、デザイン、プログラミングまでをワンストップで行っている。

「価値」を「違い」に、そして「強み」へ
ブランディングへの確かな道筋

 モノや情報があふれているこの社会において、大企業や有名ブランドであっても、他社との差別化を意識し続けなければ、その存在がすぐに埋もれてしまう可能性がある。とりわけ情報が表に出にくい中小企業であれば、他社と異なる「違い」や「価値」を正しく理解してもらうのはなかなか難しいのが現状だ。

 「それからデザイン」のクライアントは、まさしく中小企業や、新規事業を持つ企業が中心だ。これまでに紹介してきた各種の取り組みからもわかる通り、同社で一貫しているのは、クライアント企業が持つ潜在的な価値を「違い」として掬い上げ、それを「コンテンツ」「デザイン」といったWebサイトの要素に仕立て上げる「ブランド戦略型Webサイト」を実践していることだ。そのプロセスで重視するのはなにより「他社との違い」を明らかにしていくことだという。代表の佐野さんはこう説明する。

「まず前提として、私たちは日頃、商品・サービスを購入する際、何らかの理由があってそれを選択しています。クライアント企業の商品・サービスも顧客が存在する以上、“選ばれる理由”があり、その一方で、“選ばれない理由”もあるはずです。それが何であるのかを突き詰めて考える姿勢が必要なのです」

 それからデザインでは、デザイン案を出す前に必ずクライアントと度重なるヒアリングを行う。クライアントを把握するため、ときには企業文化や雰囲気を肌で感じるためでもあるというが、主には掬い上げた「違い」を「強み」へと昇華させるために、ある視点を軸にしてヒントを手繰り寄せるためでもある。この“ある視点”を設けることこそが「強み」を引き出す方法であるようだ。

「ヒアリングではその企業の“過去・現在・未来”を様々な切り口から聞いていきます。たとえば“過去”は、起業時のエピソード、主要となる商品・サービスが現在の形となるまでの変遷など。“現在”については、抱えている経営課題のほか、現在の顧客の満足・不満足な点について聞いていきます。そして“未来”は将来のビジョンや究極の目標です。このようなことを深く掘り下げると、唯一無二の特徴でなくとも、他社と比較した際に強みと言える部分を見つけることができます。その強みを裏付けるエピソードや実績は、その会社ならではのものがほとんどです」

 ヒアリングでは一つの決めごとを自身に課しているという佐野さん。それは、経営者もしくは経営者と同じ目線を持つ担当者に、何度も会って密なコミュニケーションを繰り返すことである。

「お会いする中で、その企業が事業に込めている想いや世の中に伝えたいメッセージ、社風への理解が深まります。ヒアリングの過程を通じて、我々が経営者の代弁者になれるほどに理解を深め共感することこそ、クライアントが意識してこなかったその企業の“らしさ”を押し出すブランディングの提案へと繋がっています」

 「強み」を引き出すための道筋に確信が持てれば、ときには面識のないクライアント同士を引き合わせるといったトライアルな提案を行うこともあるという。 「たとえば、工務店様の新商品開発において、当社のクライアントであるインテリアメーカーの製品を使った住宅プランを作成してもらい、それを新ブランドとして我々がネーミングやロゴデザインをおこなったうえで販売する、といったことをしています」

 Webサイトの実制作だけなく、制作のプロセスにも意味を感じてもらったうえで成果が生まれると、「Web制作の外注会社という枠を超え、経営戦略を一緒に実現していくパートナー企業として信頼していただけます」と佐野さん。

 一連のフローを通して、クライアント自身が新たな“気づき”を覚えることも多いというそれからデザインのアプローチ。そこには、技術的な力とはまた違った、いまWeb制作者に求められる姿がくっきりと浮かび上がっているように見える。

デザイン・コンテンツのきっかけは
徹底したターゲット目線から

クライアント企業の「強み」をWebサイトへと落とし込む際に考えることは、「どう見せるか(=デザイン)」、「どう伝えるか(=コンテンツ)」だと語る佐野さん。

「まずは徹底的にターゲットの目線に立つことを心がけています。どのようなデザインであれば購入したくなるのか、どのようなコンテンツがあれば心が動かされるのかを考えます」

ケーススタディでは、製品のクオリティの高さを「働く人々の姿」を見せるという切り口から証明を試みた例と、BtoBの商品をあえてコンシューマー向けに見せるというアイデアで課題解決を試みた例をあげた。

いずれも、どうすればターゲットを振り向かせることができるのかを熟考して生み出された企画・コンテンツだ。これまでに紹介した佐野さんの言葉や実際の仕事からうかがえるのは、いわゆる「ビジュアルデザイン」を行う従来のWebデザインの範疇にとらわれず、「コンテンツ」や「コピーライティング」など、Webを構成するあらゆる要素をデザインしようという意思だ。そのプロセスをシームレスに実践できることこそが、それからデザインの特徴であると言えるのかもしれない。

ケーススタディ1 品質の高さをスペック以外で証明

株式会社ミズキ

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精密ネジやシャフトの製造・ 製作を手がける株式会社ミズキ。本格的な海外進出にあたり、多言語対応を含めたWebサイトのリニューアルの依頼が届く。 ヒアリングから「低い製品不良率」「海外と対等に戦える価格競争力」「高い品質」という差別化ポイント、つまり強みとなる要素が見えてきたが、そこをどう伝えるかが問題だった。

「“製品不良率○%以下”という言葉だけでは、そのすごさが伝わらないと感じました」(佐野さん)。そこで生まれたアイデアが「人にフォーカスを当てる」ということ。「ミズキさんで働く方々にはものづくりに向き合う真摯な姿がある。これを伝えることが、製品のクオリティの高さの証明になる、と気づいたのです」。ここから、現場の人々の声をドキュメンタリー風に綴る「STORY」、社長が中小企業診断士との対談を通じてビジョンを語る「TALK」という2つのコンテンツを生み出した。

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現場で働く人の声を取材して、ドキュメンタリー風に同社の強みを訴求した「STORY」コンテンツ。撮影も行い、「もの作りへのこだわり」を全面に打ち出している

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中小企業診断士と社長の対談を掲載した「TALK」コンテンツ。会社のビジョンを感じさせる内容で、グローバル色を打ち出すと同時に、ジャパンブランドも訴求。海外を意識したコンテンツになっている

ケーススタディ2 あえてコンシューマー向けにする

ペインティングウォール(安全塗料株式会社)

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塗料メーカー、安全塗料株式会社の壁材「ペインティングウォール」は、工務店や大手住宅メーカーを顧客に持つBtoBの商品だ。しかし、Webサイトは専門用語を極力排除し、コンシューマーに向けた内容となっている。その理由を佐野さんはこう語る。「住宅メーカーが、わざわざ新しい壁材を採用するのはどんな時でしょうか? 我々は、そのメーカーで家を建てる顧客に“この壁にしたい”と言われた時なのではないかと考えました。そこで、Webサイトはあえてコンシューマー向けにつくることを選択したのです」

Webサイトを通じて「ペインティングウォール」の魅力を知ったコンシューマーが自分の家を建てるメーカーに要望を出す。そうすると最終的には「ペインティングウォール」の発注が増える‥‥。そのような、情報の流れに着目した技ありコンテンツ作りの好例だ。

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何度でも塗り替えられるという大きな特徴を持つ壁紙だが、業界での認知度はまだまだ。そこでプロではなく、ユーザーから商品の裾野を広げる内容にした

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ユーザー向け情報とあわせて、ハウスメーカーや内装業者などのプロが必要な情報も「Manual」というコンテンツでしっかり網羅

コンテンツを生むためのコツ ONとOFFを切り替えない

「友人と会話している時や買い物中など、何気ない時に、デザインやコンテンツのアイデアを着想することが多いんです」と語る佐野さん。仕事も含め、日常生活のどこにアイデアの素があるのかが本人にもわからないため、ONとOFFをあえて切り替えず、面白いと感じたこと、気になったこと、考えさせられたことなどを常にEvernoteにタグ付けをしてストックしているそう。それを眺めているうちに、さらなるアイデアが生まれることもあるという。

〒156-0041 東京都世田谷区大原1丁目63−9 アーク笹塚ビル4F

Webサイトを企業成長のためのツールととらえ、包括的なブランディングを支援する「ブランド戦略型ウェブサイト」を提案するWeb制作会社。 現在同社では、プログラマーを募集中。詳しくはWebへ。

Web Designing2015年1月号より転載)

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