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新刊案内「大山VS升田全局集」 ~マイ・ベスト・大山升田~

2016.11.30 | 島田修二

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こんにちは。
編集部に送っていただいた「詰めパラ」のキッズルームに30分費やした編集部島田です。

気がつけば年の瀬。本日は2016年のクライマックスを飾るにふさわしい新刊案内いきます。その名も「大山VS升田全局集」。





本書は大山康晴十五世名人と升田幸三実力制第四代名人の全対局、174局の棋譜を解説付きで収録した記念碑的一冊です。

昭和14年に行われた木見会勝ち抜き戦の角落ち対局から始まり、高野山の決戦、升田の三冠独占、大山の復活と絶頂、そして升田石田流で戦った最後の名人戦まで。将棋史に永遠に残るであろう名勝負の数々を堪能することができる内容になっております。

中身はこんな感じになってます。





有名な対局があまりにも多くてどれを紹介しようか迷ったんですが、今日は私的に一番「すげーなー」と感動した第11期名人挑戦者決定戦三番勝負第1局(昭和27年4月27日)を紹介したいと思います。

この三番勝負を制した大山先生が木村名人に挑戦し、名人を奪取、時代が大きく動いた年です。三番勝負は大山先生が勝ったんですが、この第1局は升田先生の勝利に終わります。

では、早速みてみましょう。

序盤はこう進みます。




先手の大山先生の矢倉中飛車です。振り飛車のイメージが強い両先生ですが、最初の方は相掛かりや矢倉をよく指されています。

ここから大山先生が5筋から積極的に仕掛けたんですが、升田先生も反撃して下図に。





ひと目痛いです。玉が薄いですし、これを食らってはだいたい負けとしたもの。
しかしこれは当然大山先生の読み筋。

以下、▲8七同金△8六角▲同金△同飛で8筋を突破されてしまいましたが、そこで▲9五角!が用意の反撃。





飛車銀両取りがかかりましたが、これは升田先生の読み筋。以下△8七飛成▲6二角成△6七竜▲6八歩△8七竜(下図)で角取りが受けにくいです。





玉の近くに竜と馬ができて、一気に終盤戦になりました。大山先生の方に適当な受けがないようですが、ここから▲5三馬と詰めろを掛け△5二歩に▲9七馬!(下図)がこれまた用意の受けで見事にピンチを脱出します。





陣形的に飛車を取らせるわけにはいかないので升田先生は竜を引き上げます。その間、大山先生が5筋から待望の飛車の成り込みを果たし(この辺の応酬もすごい)下図の局面を迎えます。





大山先生のこの▲5三歩が決め手級の一手で△同銀は▲5一竜なので取れませんし、△同歩は▲5一銀成△同銀▲5二香△4二銀打▲5一香成△同銀▲5二銀で寄り。かといって放置すると▲5二歩成が激痛。これは困りました。

しかしかかし!!

ここで大山先生が見落としていた絶妙手が飛び出します。それが△1五角!!





まさか!こんないい手があったとは!

これで5一の香にヒモがついたので▲5八玉に△5三銀と取れました。





以下▲7七桂△6二銀▲同竜△4三竜で後手陣が鉄壁に。▲5七銀左として迎えた下図でまたすごい手が出ます。





ここから△5四金▲8八馬に△5五金!が目の覚めるような一手。





鮮やかなタダ捨てで、▲同銀には△6九銀以下寄りです。

△5五金の前に△5四金と一回寄って▲8八馬とさせたのが見事な組み立て(と解説に書いてあります)。確かに一手で△5五金といけるところ△5四金~△5五金ですからね。△5四金のところで△5五金といってしまうと▲6四馬と出られるので、あえていったん△5四金で「6筋をケアしましたよ」と見せて▲8八馬と方向転換させてから△5五金。うーん、味わい深い。私には一生思い浮かばない手順。

▲6四竜△4六金以下、升田先生が大山先生を追い詰めて下図の局面に。





竜に当てられた局面。先手玉も広いので一気の寄せは難しいかなー、と思いますよね?

しかしここからの升田先生の切れ味がまたすごい。

竜取りを放置して△8六桂!!!





▲同歩に△8七銀と縛り、▲7八金の受けに△3九竜!と切り飛ばします。





▲同金に△5九角成!▲7九玉に△6九金まで、升田先生の勝ちとなりました。




はぁ~。なんという鋭さ。

投了図以下は▲8九玉△7八銀不成▲同玉△6八馬以下の詰みです。


振り返ってみると、大山先生の5筋からの仕掛け→升田先生の8筋からの反撃→大山先生が▲9七馬でピンチ脱出、飛車成り込み→升田先生の△1五角の妙防からの△5五金→最後は鮮やかな寄せ。

ということになるでしょうか。もちろん書籍にはもっと細かく解説が書いてあります。そして本書にはこんな将棋が174局収録されているわけですが、正直、この一局だけで御飯3杯はいけます。

みなさんもぜひ本書を購入していただいて174局全て堪能してください。
そしてみなさん自身の「マイ・ベスト・大山升田」を見つけていただければ幸いです。

発売は12月14日です。

最後に内藤國雄先生に書いていただいた本書のまえがきを掲載いたします。


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まえがき 内藤國雄  
 動対静、不滅の対戦
 大山升田の御両人は私の少年時代から長い間最高峰の人であった。初めて2人の対局の記録係をしたのは17歳三段のときで第17期王将戦第3局(本誌第80局)。奨励会員は連盟で月2回記録係を務めるがその頃は一般棋戦も持時間が多かった。長考が続いて退屈すると私はよく(頭の中で)詰将棋を作っていたが、この日は全然違った。動の升田対静の大山。名優のパントマイムを観ているようで、最後まで無言の対局に飽きることがなかった。
 新聞の観戦記で印象深いのは、第16期名人戦第6局(本誌第70局)だ。升田さんが時間はたっぷり残っているのに相手の時間切迫にあわてたのか逆転負けを喫する。その辺のことを観戦記は(仏法僧)「形勢のひっぱく、険悪な空気」と書いている。当時は終盤に入っても特別なファンは観戦できていて、2人の殺気立っている様子に副立会人の原田八段が「報道関係以外の方御退席願います」と云った。と同時に「『全部だ』と升田が切りこむようにいう。ぴーんと張った室の空気がぴりりとする。升田はいらいらしている。」
 忘れられない観戦記である。勝ちがありそうなのにはっきり掴めないのでいらいらしたに違いない。負けかかったときの大山さんはそういう指し方が実にうまかった。それにしても升田さんの「全部出ていけ!」はすごい気迫だ。
 棋譜で印象深いのは第8期九段戦第2局(本誌第73局)だ。升田さんの飛車の使い方が芸術的と思える1局である。
 升田大山戦の人気が高かったのは升田将棋の魅力によるものと思ってきたが、大山将棋には独得の味と強さがあった。大山あっての升田といえなくもない。
 江戸時代に作られた宗看、看寿の詰物は名品で現在も色褪せていない。同じように升田対大山の名局は棋界が続くかぎり不滅であろう。
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