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トップ棋士対談「石田流の現在と未来」 佐藤康光九段×鈴木大介八段

2017.02.15

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石田流の現在と未来

佐藤康光九段×鈴木大介八段


初手から▲7六歩△3四歩▲7五歩。わずか3手で始まる石田流は、アマチュアファンに高い人気を誇る。プロの公式戦でも盛んに指されて試行錯誤が繰り返されているのだが、居飛車と振り飛車のせめぎ合いは、全く収束を見せようとしない。今回、この石田流の使い手であり、著書も多数執筆している鈴木大介八段と、石田流を相手に多くのタイトル戦を戦った佐藤康光九段が登場。石田流の魅力に始まり、居飛車の対抗策の変遷、そして未来像を大いに語った。

【構成】鈴木健二
【写真】将棋世界編集部

※『将棋世界3月号』に掲載した「いま石田流があつい!」の特集より


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石田流の魅力

――まず最初に石田流の魅力について、お話を伺いたいと思います。
鈴木 やっぱり攻撃的なのがいちばんの魅力だと思いますね。振り飛車は基本的には受け身になりやすい戦法だけど、石田流なら振り飛車から先攻できるじゃないですか。入り方も▲7六歩△3四歩▲7五歩(基本図)と、たった3手。手順がわかりやすくて攻撃力があれば、高勝率につながりやすい。プロアマ問わず、人気があるのは自然なことでしょう。


佐藤 私は基本的に▲7五歩を居飛車で受ける側なのですが、石田流は数ある振り飛車の中でも「いちばん主導権を握りにきている戦法」というイメージがありますね。また、石田流の攻撃陣は大駒と飛び道具が主役で、独特な形をしています。類型がほかにはなく、非常に美しい形だと思いますし、派手な展開になりやすいのもアマチュアファンにとって人気の要因ではないでしょうか。昔の振り飛車は受動的な印象も強かったのですが、鈴木さんや久保さん(利明九段)が石田流を指すようになってから、イメージがずいぶんと変わってきました。
鈴木 以前は基本図から△8四歩が強力すぎて、なかなか石田流の本組みにできないという大前提がありました。狙っては組めないので、▲7六歩△3四歩に▲6六歩と角道を止めておく。そこで△4二玉や△6二銀なら▲7八飛と回って石田流を目指す。そんな感じでした。私を含めた四間飛車党の人は、結構、狙っていたはずです。しかし▲6六歩に△8四歩と突かれると、石田流には組めません。だから実戦に現れる局数は少なかった。でも現在は基本図から△8四歩に対し、振り飛車も十分戦えることがわかってきて、石田流を目指しやすくなりました。
佐藤 私はもともと2手目に△8四歩と突くことが多かったので、石田流を受けることはほとんどありませんでした。だけど12~13年前に△3四歩と突くことが増え、ちょうどその頃に鈴木さんや久保さんとタイトル戦でぶつかった。指した局数は他の棋士と比べたら少ないはずですが、大きな舞台で連戦したので『佐藤康光の石田流破り』(日本将棋連盟)という本まで出させていただきました。
鈴木 付け加えると、石田流本組みは、「攻めは飛車角銀桂。玉の守りは金銀3枚」という、将棋の格言を実践できるのもいいですね。堅い美濃囲いに組めるので実戦的にも勝ちやすいと思います。(編集部注:鈴木大介八段も『石田流の極意』(マイナビ出版)など、石田流に関する著書が多数あり)

居飛車、4手目の選択

――基本図の▲7五歩に対する居飛車の指し手は△8四歩、△4二玉、△6二銀、△3五歩、△4四歩、△5四歩、△1四歩、△8八角成など多岐にわたります。
佐藤 この対談に備えて、直近3年分の実戦データを調べてきました。公式戦は316局あって、△1四歩が109局で一番人気、次が△4二玉で80局。この2つが圧倒的に多数でした。次に多いのが△5四歩で47局、ほかはすべて20局にも満たないので、かなり偏っていますね。また女流棋戦では177局あって、一番人気は△5四歩で66局、次が△3五歩の40局、△4四歩が23局と、相振り飛車模様が人気でした。△1四歩は10年くらい前に山崎隆之八段が初めて指した手なのですが、ここ数年は公式戦の主流になっています。
鈴木 プロは難しい手が好きですからね(笑)。アマチュアで△1四歩を指す人は少ないと思いますよ。
――△1四歩の意味を教えてください。
佐藤 これは「少しでも得をしよう」という発想から生まれた手でしょう。変な言い方かもしれないけど、普通に石田流に組まれると、居飛車に得はないじゃないですか。だから端を打診して、先手が受けなければ端の位を取って居飛車で戦う、受けてきたら相振り飛車にして端攻めを狙うといった感じで、少しの得を求めています。だから△1四歩を突くなら、居飛車も振り飛車も指しこなせなければなりません。▲1六歩に対して居飛車でいくなら、何も得はありませんから。居飛車、振り飛車にこだわらないところは、ある意味、現代的ですね。
鈴木 後手番なのに主張を作ろうとしているわけですから、これは難しい手なんですよ。プロ的な手です。
佐藤 それで、基本図からの居飛車の4手目について、最初に挙がった8手の勝敗についても調べてきました。すると驚いたことに、△1四歩だけが勝ち越していたんですよ。あくまでこの3年だけの話ですが、△8四歩や△4二玉など、ほかの7手はすべて居飛車がわりと大きく負け越していました。私はデータにはこだわらないタイプなのですが、さすがにちょっとびっくりしましたね。
鈴木 やっぱり△1四歩を突く人は、オールラウンダーですから。棋士の中でも居飛車、振り飛車、何でもOK、つまり将棋に自信があって、強い人がやっているからじゃないですか(笑)。

※続きは「将棋世界3月号」をご覧ください。
ちなみに里見香奈女流名人と上田初美女流三段で争われている「岡田美術館杯第43期女流名人戦五番勝負」では、里見女流名人が先手番の2局で、▲7六歩△3四歩▲7五歩△1四歩スタートになりました。注目の第5局は2月22日に東京「将棋会館」で行われます。石田流いまもっとも熱い戦型ですね。
また、早くも「将棋世界4月号」(3月3日発売)の予約も開始いたしました。こちらもお楽しみに。