2026.10.03
【将棋世界こぼれ話】「何といわれようとも振り飛車はよい戦法です」鈴木大介九段 インタビュー
振り飛車はいつの時代も亜流
──昨今、振り飛車が厳しいという声を聞くのですが、率直に鈴木九段ご自身はどう感じていますか?
鈴木 最近はSNSなどでそういう声を目にする機会が増えたなとは感じています。そもそも振り飛車が主流になった時代ってあったでしょうか。大山先生(康晴十五世名人)の全盛時代でも人数比率で言ったら居飛車党のほうが多かった。藤井システムやゴキゲン中飛車が流行ったときがいちばん増えたと思うんですけど、それでも全体の3割を超えてはいなかったでしょう。いつの時代も2割から3割の間ぐらいで変わってないはずですね。師匠(故・大内延介九段)も振り飛車党でしたが、自分が奨励会に入ったときに「振り飛車は亜流だから」的なことは言われました。それはいまも変わらないですね。
──AIは、飛車を振った瞬間にマイナスの評価をする傾向があります。厳しいというのは実感としてありますか。
鈴木 振り飛車は基本的に後の先の戦法。飛車を振る一手もそうですが、角道を止めること自体が初めからディフェンシブな構えといえます。なぜ角道を止めるかというと、玉を固めるために(開戦まで)時間を稼ぐっていう思想なんです。AIは常に最短で勝つことをよしとして究極の手を選び出すので、戦いを先延ばしにするような手は評価しない。手損というより攻めの形を作っていないと見ているんでしょう。テニスに例えるとサーブ権を失っているというか、主導権を相手に渡してるっていうニュアンスだと思います。それがいまの時代には合わないのかもしれないですけれど、これはこれで戦術的にはありだし自分の好みなんです。振り飛車は自分の土俵で戦える、相手より経験値が高いフィールドで戦えるっていうのがいちばんのメリット。飛車を振って100点下がる150点下がるっていわれても、そうなんだとしか思わない。それぐらいの差だと正直、自分レベルなら結果が真逆になることもある。居飛車側を持って5割勝てるかどうか。将棋もだんだんチェス化してきていて、手数が短くなる傾向にあるのは、プロの終盤力がみんなついてきたから。チェスは駒を引く手があまりなくて1局平均80手くらいで終わるんですけど、40手ずつしか指せないので、基本的にはアグレッシブな手が多い。将棋もそれに近づいているように感じます。
振り飛車党は長生きできる
──評価を低めに出すことに不愉快な気持ちになりませんか?
鈴木 何でそれを言っちゃうんだよとは思いましたけどね(笑)。私は子どものときから飛車を振っていますけど、初めからプラスになると思って振ってるわけじゃなかった。得意戦法だから、美濃囲いが好きだからやっているわけですよ。プロは全体的には振り飛車党のほうが長生きできていると思います。なぜなら、自分のフィールドで戦い続けられるから。逆に居飛車党になると、分母が大きい側に入るわけですから淘汰されやすく、選手寿命も短くなると思う。
──鈴木九段が若い頃に学んだ、振り飛車のセオリーが、AI時代のいまでは通じなくなった部分もあると思うんですけど。どんなところがいちばん変わったと感じましたか?
鈴木 定跡手順が深くなりましたよね。従来「これにて互角」「これにてよし」と判断を下していた局面が、いまはAIによってその10手先くらいまで答えを出せるようになった。これまで五分と思っていたけれど実際はそうじゃなかったっていう局面は結構ありますよね。ネガティブな話ですけど、将来的には振り飛車もかなり終盤のほうまで突っ込んだ定跡ができるでしょう。振り飛車党はみな独自の得意なスタイルや勝ちパターンを持っているので、それが数字で可視化されてしまうのが面白くないと思うところではあります。自分は子どもの頃から奨励会を通じて連敗が少なかったんです。棋士になってからも9年間は5連敗したことがなかった。振り飛車は玉が堅いから、(少々苦しくても)終盤で逆転が起きやすい。普通にやっていれば5割ぐらいは勝てる安定感はあります。振り飛車党で十何連敗する人ってなかなかいないですけど、居飛車党はちょっと定跡がしっくりこなくなっただけで連戦連敗になることがある。だからメンタル的にも自分は振り飛車が楽でいいと思います。振り飛車はよくも悪くも手数が長引く=勝ったり負けたりする戦法。ようするに力勝負になりやすいっていうのが大きいですね。それが醍醐味ではあります。
この続きは『将棋世界11月号』でお読みいただけます。
本誌では、鈴木九段の語る飛車を振るメリット、振り飛車人生の始まり、永瀬九段から受けた進言についてたっぷりと語っていただきました!
振り飛車党の方はもちろん、居飛車党の方でも楽しめる話は、ぜひ本誌でお楽しみください!
