才能とは努力や根性に近いのか|上野裕和六段インタビュー③|将棋情報局

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才能とは努力や根性に近いのか|上野裕和六段インタビュー③

将棋界ではよく才能という言葉が使われる。将棋の才能とはどんなものなのか、才能ある子どもはすぐにわかるのか、棋士は才能の差を感じるものなのか、いろいろな立場の方にインタビューして、才能について探っていくのがこの連載企画。

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上野裕和六段インタビューの3回目は、羽生善治九段の名言から「将棋の才能とは根性に近いものなのか」を探った。AI研究が当たり前の時代、「将棋が好き」でいられるタイプは変わったのか、上野六段が奨励会時代に「才能がある」と感じ研究会をお願いした年下の棋士についても聞いてみた。

前回の記事:才能は子ども大会実績でわかるのか|上野裕和六段インタビュー②

上野裕和六段
1977年4月生まれ。中学2年の夏の奨励会試験に合格。22歳で三段昇段。三段リーグ2期目の2000年度前期で2位になり10月1日付で四段(23歳)。2023年5月フリークラス規定により引退。以後はアマチュアの指導と執筆に力を入れている。平手OKで、天使、普通、鬼の3段階からレベルを選べる指導対局は人気がある。

同じ情熱で継続できるのは才能

──ロングセラーになった羽生善治九段の著書『決断力』には「何かに挑戦したら確実に報われるのであれば、誰でも必ず挑戦するだろう。報われないかもしれないところで、同じ情熱、気力、モチベーションをもって継続してやるのは非常に大変なことであり、私はそれこそが才能だと思っている」という名言とも言える一文が登場します。

もっともだなと思う一方、才能とは特別な能力ではなくて、やる気や根性に近いものなのか?と不思議に思います。凡人が羽生九段並みに将棋に情熱をもって取り組んでも、決して羽生九段にはなれないと思ってしまうのですが。

上野 私は羽生九段より7歳下で、羽生九段は仰ぎ見るような存在でした。羽生九段は才能も努力も別格だと思います。確かに、一般の方が羽生九段と同じことをやっても、羽生九段のようになるのはとても難しいでしょうね。多分、根性だけではどうにもならない。

将棋が好きでないと才能は生かせない

──人の頭の中はのぞくことができない。だから、自分の脳内将棋盤が人よりはるかに高性能でスイスイ動くというのはなかなかわからない。

上野 それはわからないはず。なんというか「やればできるよ」と言っているのに近いのかも。
もちろん、羽生九段の努力や根性もすごいのだと思います。普通の人が「継続してやる」と聞いて認識することと、羽生九段が考えている「継続する」のレベルはおそらく、ものすごく違います。続けることが大変なのも間違いないです。

──棋士であっても、高いモチベーションをずっと持って何十年も将棋に打ち込み続けるのは難しいのでしょうか。

上野 プロでも難しいですね。私にはできませんでした。

ところで、将棋の才能について整理して考えると、

  1. 将棋が好きで、ずっとやり続ける才能。
  2. 将棋の様々な技術を素早く理解する才能。1を聞いて10を知る。
  3. ほかの人にまねができないことができる才能。これは糸谷哲郎九段や山崎隆之九段のような、人がまねできない将棋を指したり、藤井猛九段のように緻密な理論で一つの戦法を開発する才能。

でしょうか。

1を聞いて10を知るといっても、棋士になるような子どもは難しいことも簡単に覚えてきたとは限りません。田村康介七段が何かのインタビューで「同じ手筋を5回も10回もくらって覚えた」と語っていた記憶があります。失敗してもくよくよせず、次は気をつけようと反省し、どんどん実戦をこなす。そういう性格があって理解が深まりますし、棋士になる子はそういうタイプが多いと思います。

将棋が好きで、面白いと思うのはすごく大切な要素で、それがないと他の才能があっても生かせないと思います。

──羽生九段は2は当然のようにあって、その上で1ができているということなのでしょうね。納得しました。3については自分にはできないことができる人に才能を感じるということでしょうか。

上野 私が奨励会時代に「才能あるな」と思ったのは阿久津主税八段です。自分には思いつかない、きらめくような一手を指されると私は才能を感じますね。

私が1991年に奨励会に中学2年で入会し、1994年に小学校4年生だった渡辺明九段、小学校6年生だった阿久津八段、橋本崇載元八段が鳴り物入りで入会してきました。

阿久津主税八段は小6のときに鳴り物入りで奨励会に入会し17歳で棋士になった(写真は2012年)(撮影:週刊将棋編集部)

阿久津八段はまだ小学生の時点で、オリジナリティのある将棋を作り出すことができた。四間飛車に対して右玉で戦う作戦を考えて「鬼岩城」という名前をつけていました。一緒に研修会指導に行ったときは、開始5分で入玉していて驚きました。駒落ち上手の指し方を研究してるのです。もちろん阿久津勝ちです。

私の奨励会同期に飯島栄治八段がいます。すごい努力家だと思います。そして、努力の積み重ねがわかるような手を指してくる。阿久津八段だって努力はしているのでしょうけれど、それを飛び越してくるような手を指してくるのです。その違いが何か説明するのは難しいのですが。
私が高校3年生くらいだったか、5歳年下の阿久津八段、橋本元八段に頭を下げて将棋を指してもらうようになったんですよ。島朗九段が年下で才能ある羽生九段、佐藤康光九段、森内俊之九段(まだ新人棋士や奨励会員だった)に声をかけて始めた島研が有名ですよね。私もそれのまねをしました。

AI時代で「将棋が好き」は変わるのか

──ここで気になるのですが、いま、常人には思いつかないような一手を指されたら、それはその人が考えたのか、AIが示した手なのか、わからないのではないでしょうか。

上野 そうなんです。今はもうAI研究が当たり前ですから、考えつかないような一手が出たらAI研究の手かなとまず思われてしまいます。

──そういう将棋界になると、将棋に必要な能力も変わってくるのではないでしょうか。

上野 AI が出てきてからいくらでも研究できる時代になりました。みんな、序盤とか一生懸命研究するから、時間さえかければみんなと同じ知識は得られるようになっています。でも、それで差がつかないわけですよね。

互角の局面からスタートするような感じ。しかもその互角の局面がめちゃくちゃ難しい。そうなると逆に終盤力が大事に、絶対必要になってくる。

羽生九段の高速道路理論ってありましたよね。上達するのに途中までは高速道路が整備されていて、そこまでは行ける。高速道路を降りてからが差がつく。AI時代はそれと同じように序盤はAI研究で他の棋士と同じところまで行ける、その先の終盤で差がつくということだと思います。

序盤の才能というかセンスがあって、人とは違う研究をして序盤で差をつけていた棋士はいました。そういうことができなくなってきました。

──序盤の研究で差をつけていた棋士というと?

上野 藤井猛九段はそうだったと思います。先ほどの才能の3にあたる人。藤井システムは序盤の緻密な研究で一世を風靡しました。藤井システムで竜王を3期獲得されたのは、よく知られていると思います。ああいう独創的な戦法を編み出して勝つことはいまの時代なかなか難しい。序盤型の棋士にとって、自分の得意分野がAI 研究によって潰されちゃって生きなくなってしまいかねません。

AI研究にかける時間がものを言う時代

──序盤は才能ではなくて、AI研究の努力が大事な時代になったということですか?

上野 努力の量というかAI研究にかける時間がものを言うようになったと思います。そうなると起きている時間は全部つぎ込むとか、そういう方向になってしまいかねない。だって、AI研究は24時間好きな時間に好きなだけできる。パッとAIが正解を教えてくれたら、今度はなぜそう指すのがいいのか一生懸命考えなくてはいけない。やってもやっても研究が終わらない。

人生観の問題でもあると思います。どこまで将棋に時間を割くことができるのかという。

──将棋が好きで努力を継続できることは才能の要素というお話でしたけれど、将棋を好きでい続けることの条件にAI時代との相性が関係してきたのではないでしょうか。少し前は、将棋が好きで、毎日道場に通って指しまくって腕を磨き、奨励会に入っていく子どもたちをよく見ました。でも、人と指すのが好きでそこまで上達したわけで、AI研究が好きなわけではないですよね。逆に指しまくるような仲間や環境に恵まれない人でも強くなれるわけで、悪いことでもないのかもしれませんが。

上野 そうですよね。将棋を好きであり続ける前提条件は確かに変わってきたのだと思います。将棋指導者には子どもがAIに触れるのは遅いほうがいい、強くなってからがいいという方もいて、一理あるとは思いますが、いまの時代、奨励会員も棋士もAIと無縁ではいられないです。1人でAI研究をして、どんどん進んでいく。それが性に合っている人なら、こんなにいい時代は無いと思います。


次回は10月10日掲載予定

努力に比例して強くなるのか?|上野裕和六段インタビュー④

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著者

上野裕和(出演)
1977年4月生まれ。中学2年の夏の奨励会試験に合格。22歳で三段昇段。三段リーグ2期目の2000年度前期で2位になり10月1日付で四段(23歳)。2023年5月フリークラス規定により引退。以後はアマチュアの指導と執筆に力を入れている。平手OKで、天使、普通、鬼の3段階からレベルを選べる指導対局は人気がある。
宮田聖子
2008年から将棋大会運営に関わる。スイス式トーナメントと2勝通過2敗失格の手合い付けが得意。2025年にマイナビ出版から「アマ最強への道 将棋強豪の勉強法と習慣」を上梓。子どもやアマ将棋界を盛り上げたいとペンネームで執筆してます。