2026.09.03
【将棋世界】女流棋士の現在地 岩崎夏子女流初段
現役最年少の女流棋士・岩崎夏子女流初段は、第19回、第20回白瀧あゆみ杯争奪新人登竜門戦で2年連続の優勝を果たした。ヒューリック杯第6期女流順位戦D級では6勝2敗、史上最年少で進出した第37期女流王位戦挑戦者決定リーグでも3勝2敗で残留を決めている。現在は奨励会5級として研鑽を積む。
着実に実績を重ねる一方で、本人は「いまは調子がよくない」と語る。勝敗だけでは測れない手応えや課題を、どのようにとらえているのか。棋戦での戦いと、棋風、勉強法について聞いた。
自信がない中でつかんだ白瀧あゆみ杯2連覇
──白瀧あゆみ杯2連覇、おめでとうございます。率直な気持ちを聞かせてください。
「正直、優勝できる自信はなかったです。自分の力を出し切れば優勝できる可能性はあると思っていましたが、その前の公式戦の成績がよくなくて、自分では調子が悪いと思っていました。当日に対局してみないとわからないことなので、けっこう不安ではありました」
──昨年と今年では、心境に違いがありましたか。
「昨年は1日制だったということもありましたし、勢いに乗って調子よく進むことができました。今年は決勝だけ2日目に行われる2日制ということで、その分の調整が難しかったです」
──2年連続で、誕生日と優勝が重なりました。
「そうですね。たまたまだったんですが、しばらく連絡を取っていなかった奨励会員の子たちからも『おめでとう』と連絡が来ました」
斬り合いを好む棋風
──ご自身の棋風をどのように捉えていますか。
「角換わりを指すことが多いです。攻めるのが好きで、対振り飛車でも斬り合いや攻め合いになる将棋が好きなので、急戦を選ぶことが多いです」
──事前研究よりも、実戦の中で考えることが多いのでしょうか。
「最初の頃は結構、研究していたんですけど研究した形になることがほとんどないので、いまは実戦を重視しています。実戦で指した将棋を研究して、『ここはどうなるんだろう』と考えることが多いです」
──持ち時間は長いほうが好きですか。
「長いほうがいいです。自分は考えることが多くて、先に持ち時間がなくなることもあるので、長いほうが好きです」
──周囲から、自分の強みについて言われることはありますか。
「自分ではあまり感じないですが、『勝負強い』とか、『考えれば最善を指せる』と言われることがあります」
棋譜並べで中終盤を考える
──普段の勉強で大切にしていることはありますか。
「詰将棋もやりますが、棋譜並べはとても大事にしています。自分が指す戦型だけではなくて、矢倉など、ほかの戦型の棋譜も並べます」
──棋譜を並べるときは、何を意識していますか。
「手順を追うだけではなくて、中終盤の局面で『自分だったらどう指すかな』と考えます。終盤で自分の頭で考えることで、読む力がつくんじゃないかなと思っています」
──特によく並べた棋譜はありますか。
「藤本渚先生がデビューされた頃の棋譜は、よく並べていました。急戦の将棋が多いので参考になりましたし、『こういう指し方があるんだ』ととても勉強になります」
憧れていた人と同じ舞台へ
──目標にしてきた女流棋士はいますか。
「姉弟子の内山あや先生や、渡部愛先生の棋譜は、アマチュアの頃から並べていました。以前から棋譜を見ていた方々といま、同じ舞台で指していることは、よく考えると幸せなことだと思います」
──お二人の将棋のどのようなところに惹かれたのでしょうか。
「自分と将棋の感覚が似ているところがあると思っています。特に渡部先生の将棋は、自分が読んでいた手と合うことが多かったです。自分と感覚の近い方の棋譜を参考にした方が、自分の形や棋風を磨きやすいのかなと思っています」
最年少で臨んだ女流王位リーグ
──女流王位戦挑戦者決定リーグに史上最年少で進出したことも話題になりました。ご自身ではいかがでしたか。
「いままでとは全然違う環境でした。持ち時間も3時間と長いですし、強い方と指せるので、自分としては経験させてもらうという気持ちで戦っていました」
──3勝2敗で残留を決めました。この結果には何点をつけますか。
「高くて80点くらいです。自分の思うような将棋を指せたことは大きかったと思います」
──残りの20点は、どのような点でしょうか。
「結果的には、あと1勝できていたらリーグ優勝だったので、そこは少し悔しいです。また、最終局の1週間前にインフルエンザになってしまって、体調管理にも課題が残った感じです。でも、勝ち負けよりも自分の将棋を指すことに集中できたので、それはよかったと思います」
女流順位戦の現在地
──女流順位戦は、年間を通して戦うリーグ戦です。この形式をどのように感じていますか。
「ほかの棋戦と変わらず、一局一局全部頑張るという心境です。1カ月に1局、対局があるので、それはすごくありがたいです」
──対戦相手と先後が事前に決まっています。相手に合わせた準備もしますか。
「直前は確かに相手に合わせた準備をしますが、かなり前から入念に準備するという感じではないです。奨励会もありますし、自分の棋力そのものが上がれば勝てるようになると思っているので、いまはそこを重視した方がいいと思っています」
──今期は6勝2敗でした。手応えを感じた点はありますか。
「しっかり勝ちきれた将棋もありましたし、粘り続けて逆転できた将棋もありました。そういった点ではよいところも出たと思いますが、昇級することが目標だったので、それを達成できなかったことは悔しい部分ではありました」
──負けた将棋から見えた課題はありますか。
「自分の力を出しきれないまま負けた将棋が多かったです。自分の指している形を相手に研究されたときの対応力も、そろそろ考えないといけない時期になってきたのかなと思います。序中盤で崩れてしまうことがあったので、そこは課題です」
──来期の女流順位戦での目標を教えてください。
「昇級することです。対戦相手や1年を通したコンディションにもよりますが、理想は全勝です」
結果に一喜一憂しないために
──現在、ご自身の将棋でいちばんの課題は何でしょうか。
「結果に一喜一憂してしまうことですかね。勝ったときは、すごくほっとして力が抜ける感じで、自分に甘くなってしまうことがあります。逆に負けると、『何のためにやっているんだろう』と、すごくショックを受けてしまいます。いまは、そこが一番の課題だと思っています」
──福間香奈女流五冠※と西山朋佳女流三冠※が二強といわれていますが、将来、ご自身もタイトル戦線に加わっていきたいという思いはありますか。
編集部註:肩書は取材当時のものです。
「その気持ちはありますが、そのために頑張るというよりは、まずは自分自身の棋力を上げることがいちばん大事だと思っています。棋力向上の結果としてタイトル挑戦が見えてくると思っています」
大きな目標を持ちながらも、目の前の課題を一つずつ乗り越えようとする言葉からは、地に足のついた姿勢がうかがえる。史上最年少で女流王位リーグ入りを果たした岩崎女流初段が、これからどのような記録を刻み、タイトル戦線へ近づいていくのか。その歩みに注目したい。
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