2026.08.14
【究極の一手コレクション】第3回 谷川浩司「意表の桂打ち」
将棋史に名を刻んだ棋士たちの名手・妙手を紹介する「究極の一手コレクション」。勝負を決した一手、時代を象徴する一手など、語り継がれる名場面を取り上げます。
本記事における棋士の肩書はいずれも当時のものです。
七冠王誕生を許した棋士・谷川浩司
1996年2月。第45期王将戦七番勝負で、谷川浩司王将は挑戦者・羽生善治六冠に4連敗。羽生の七大タイトル独占を許しました。
一冠とはいえタイトルホルダーとして羽生に次ぐ序列2位の座にあった谷川も、ついに10年ぶりの無冠となります。
このとき谷川の中で何かが変わったといいます。
2年半続いた、王将一つだけという中途半端な立場よりも、九段に戻ってゼロからスタートする事で、本来の積極的な将棋が戻ってきたのである
谷川浩司(『将棋世界』1997年11月号)
その後、自分の将棋を取り戻した谷川は第9期竜王戦で挑戦権を獲得。
立ちはだかるはもちろん羽生善治竜王です。当時の羽生は、棋聖位を三浦弘行五段に奪われたものの六冠を堅持。依然として圧倒的な力を見せ続けていました。
王将戦の雪辱を期す谷川は、将棋界最高峰の舞台で宿敵との再戦に臨むのでした。
第9期竜王戦七番勝負第2局
▲羽生善治竜王―△谷川浩司九段(1996年10月29,30日)
主催:読売新聞社・日本将棋連盟
七番勝負第1局は羽生の先勝で迎えた第2局。
羽生の角換わりに谷川が棒銀で積極的に主導権を握りにいき、激戦で迎えた終盤戦。後手は6二の飛車と5九の角が質駒になっており忙しい局面です。
ここで後手に勝負を決定づける鋭手がありました。
谷川らしい「光速流」を体現するその一手とは?
解答はこちら
解答 △7七桂
玉のコビンに桂を放り込むのが気づきにくい鋭手。
この桂が打ち込まれた瞬間、控室では一斉に驚きの声が上がり、やがてそれは嘆声に変わっていったといいます。
谷川が後に「7七の地点が光って見えた」と語ったのは有名な話です。
解答図で①▲7七同桂なら△6三飛▲同飛成△7六歩▲7三竜△7七歩成▲同金△6八銀(参考1図)が厳しい狙いとなります。
②▲7七同金は△7六歩がいよいよ手抜けず、▲7八金に△6八銀(参考2図)が絶品。6九の飛車取り、△7七歩成の強襲、6三の馬取りなど、先手は複数の狙いが同時に受かりません。
実戦で羽生は▲5九飛と角を取りましたが、△6三飛▲5四角の切り返しに△6八角(第1図)がそれを上回る切り返し。
▲同金は△同飛成が王手飛車取りなので▲5八飛としますが、△8九桂成▲同玉△7六歩▲6八飛△同飛成▲同金△7七銀(第2図)と一直線に進めて先手玉は既に寄り筋。数手後に羽生が投了しました。
「光速流」を体現した強手で流れを引き戻した谷川は、 勢いそのまま怒濤の4連勝。
シリーズを4勝1敗で制し、ついに将棋界最高峰のタイトル・竜王位を奪取しました。
無冠の屈辱を振り払い、谷川は再び将棋界の頂へと立ち上がったのです。






