2026.08.03
【究極の一手コレクション】第1回 藤井聡太「驚愕の飛車捨て」
将棋史に名を刻んだ棋士たちの名手・妙手を紹介する「究極の一手コレクション」。勝負を決した一手、時代を象徴する一手など、語り継がれる名場面を取り上げます。
本記事における棋士の肩書はいずれも当時のものです。
2018年に行われた第31期竜王戦(主催読売新聞社・日本将棋連盟)ランキング戦5組決勝。
この前の準決勝で勝利した藤井聡太六段は、4組昇級を決めるとともに、竜王戦連続昇級により史上最年少・最速で七段昇段を決めたところでした。
前期の竜王戦では本戦トーナメントに進出するも、デビュー以来無敗の30連勝をかけた対局で佐々木勇気六段に敗れています。ファンからのより大きな期待を胸に、藤井は石田直裕五段との決勝に臨みます。
第31期竜王戦ランキング戦5組決勝 ▲石田直裕五段―△藤井聡太七段(2018年6月5日)
主催:読売新聞社・日本将棋連盟
角換わりの激戦で迎えた終盤戦。後手の藤井は▲6三銀成とされるとほぼ寄ってしまう上に、7六の飛車取りの忙しい局面。
ここで藤井がノータイムで放った、驚愕の一手は?
解答はこちら
解答 △7七同飛成
飛車をあっさり切り捨てるのが、飛車と歩の交換を恐れない驚愕の一手。既に先手玉は寄り筋に入っています。
▲同桂なら△7六桂(参考1図)が、△6八金からの詰めろになります。
先手の持ち駒では受けに窮しますし、▲6三銀成も間に合いません。
実戦は△7七同飛成に▲同金と応じましたが、今度は△8五桂(第1図)が△6八銀からの詰めろ。
後手優勢が明らかになり、ほどなくして石田五段の投了となりました。
妙手のちょこっと裏話
第1図で石田は▲7六金とかわしますが、ここで藤井は24分の考慮に沈みました。
というのも、第一感は△6七歩でしたが、▲同角△6六歩▲同金(参考2図)が、角の利きが通って桂取りになることをうっかりしていたと後の『将棋世界』の取材で明かしました。
しかし藤井は冷静だったようで、「▲7六金の局面では勝ちがあると思っていました。焦りはなかったです」と振り返っています。
本譜で藤井は△7八歩(第2図)から王手と詰めろの連続で迫り、見事に石田玉を寄せきりました。
ところで、この△7七同飛成は当時AIも発見できなった絶妙手と報道され話題を呼びました。
確かに当時検討に使われていたソフトが△7七同飛成を発見できなかったのは事実です。
しかしながら、この局面だけ見せられたら△7七同飛成を選べる棋士は藤井だけではないとされます。当時検討室にいた久保利明王将や、対局相手の石田も△7七同飛成は見えていたそうです(そして現在の最新将棋ソフトもこの手は真っ先に候補手に挙げるようになりました)。
本当に恐ろしいのは、藤井はこの寄せの組み立てをこれを10手以上前から読んでいたということ。本譜の進行以外にも難解な手順が複数あったところで、プロレベルの将棋でこれは驚異的なことです。この芸当ができる棋士は、長い将棋界の歴史をみてもかなり限られるでしょう。
やはりこの△7七同飛成は、藤井の異次元の読みと閃きを象徴する一手として今後も語り継がれていくことは疑いようがありません。






