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角さんのこと

『風鈴 角建逸詰将棋作品集』の発売に際して、詰将棋作家の若島正さんにご寄稿いただきました。

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角建逸さんは、詰将棋作家だっただけでなく、詰将棋界や将棋界に対して多大な貢献をした人だった。2005年4月から2007年3月までの2年間、『将棋世界』の編集長を務めたというのも、あまり知られていないが、大きな貢献のひとつである。その短期間に、角さんは『将棋世界』の付録として、『上田吉一短編名作集』、『小林敏樹短編詰将棋名作集』、『片山倫生短編詰将棋集』といった、詰将棋ファンなら垂涎ものの作品集をやつぎばやに世に出した。その当時、口の悪い連中は、『将棋世界』の付録が実は本体で、本体が付録だとよく言っていたものだ。本誌と付録を合わせて750円だったが、マニアには付録だけで750円でも安いくらいだった。そんな夢の企画を、角さん以外のいったい誰が思いついて実現できるだろうか。いまでは入手が難しいそうした付録には、どこにも角さんの名前が書かれていないが、角さんがプロデュースして作者と一緒に作り上げた「作品集」だと言ってもかまわない。このことをいつまでも忘れないようにしたい。

角さんの詰将棋作品の特徴は、合駒が多いことだとよく言われる。合駒と聞いただけで、解くのが難しそうだと、多くの人が敬遠してしまうが、そんなことはない。角さんの詰将棋はどこまでもソルバー・フレンドリーで、合駒が何度も出てきても易しい。たぶん、それは角さんも自認していたはずで、「難しいのは〇〇や△△に任せて、こっちは易しいのしか作れんから」と、角さんが笑いながら言う顔が目に浮かんできそうだ。

角さんの詰将棋を並べていると、なんとなく角さんの好みがわかる。こう言うのは変かもしれないが、わたしも似たような好みの持ち主なので、よくわかるような気になってしまう。早い話が、角さんもわたしも、ベタつくような感触が嫌いで、あっさりしている。それはどんな物事に対してもそうだったのかもしれない。性格が知らないうちに作品に出てしまうのだ。

例を挙げよう。第49番(初出 : 「将棋世界」2002年4月)。

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2三銀成 同 玉  2六飛  2五銀合 
同 飛  2四銀合 3五桂  1四玉  
2三銀  1三玉  1五飛  同 銀
1四歩  2四玉  3四馬まで15手詰

もちろん、創作の出発点は、2六飛に対して2五銀合という、中合いの妙手を見つけたところだったはず。さらに、3一には角を置けば、2四銀合も限定になって、連続銀合が成立することになる。うまくいった……と、ここで角さんは笑みを浮かべたに違いない。 

しかし、わたしが興味を持つのは、その連続銀合というテーマに、2三銀成捨てという、味のいい序奏を付けたことだ。問題図で、2四の銀がいかにも軸になる駒に見えるだけに、この初手には意外感がある。

そうは言っても、気になることがひとつ。この初手は、銀を成っても成らなくてもいい。つまり成生非限定で、一手一手を重視する短篇作品として見れば、小さいキズでも気にする人がいてもまったくおかしくはない。だったら、2四の銀は金にすればキズが消えるのではないか。仮に、詰将棋作家10人にたずねてみたとしたら、8人くらいは金を選ぶだろう。

でも、角さんは銀を選んだ。思うに、角さんはもともと、金よりも銀という駒のほうがずっと好きだったのではないか。念のために、この作品集の全128局で、持ち駒も含めた使用駒の頻度を調べてみたら、金の91に対して銀は173と、ほぼ2倍だった。印象としては、創作初期の頃よりも晩年(この言葉は使いたくなかったが)に近づくにつれてこの傾向が強くなっているように感じる。付け加えておくと、金も銀も使わない、俗に言う「貧乏図式」が多くなるのも特徴だろうか。

第49番だと、わたしも角さんと同じように、2四の駒は金ではなく銀を選びたい。なぜかと言えば、テーマが連続銀合だからだ。多少のキズは気にしない。そんなことよりも、もっと大切なことがある、と思う。自分の好みに忠実であること。詰将棋作家10人のうちの少数派、栄光の2人として、角さんと一緒になれたような気がする。

最後にもう1局、わたしの好きな作品を挙げておく。第81番(初出:「詰将棋パラダイス」2019年1月)。角さんに、「これ、いいですねえ」と言いたかった。そして、ドングリがはじけたような角さんの笑顔を、もう一度見たかった。

手順を見る

2四銀成 同 玉  3五銀  1三玉  
1一龍  1二桂合 2四銀  同 玉  
3三銀不成1四玉  1二龍  1三桂合
2四銀成 同 玉  2五歩  同 桂  
1五銀  同 桂  1六桂まで19手詰

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