将棋はどこへ行くのか? 第36回世界コンピュータ将棋選手権で見た先手勝率0.839の衝撃|将棋情報局

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将棋はどこへ行くのか? 第36回世界コンピュータ将棋選手権で見た先手勝率0.839の衝撃

将棋は先手が勝つゲーム?

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5月5日、神奈川県川崎市「川崎市産業振興会館」にて第36回世界コンピュータ将棋選手権の決勝リーグが行われ、氷彗が優勝して幕を閉じました。

見ていて驚いたのは先手勝率の高さ。結局、この日行われた全28局の先手番の成績は21勝2敗5引き分け。勝率は0.839!という驚異的な数字になりました(引き分けを0.5勝として計算)。

ソフトの開発者の皆さんも先手有利は前提になっており、「先手番を落としたら優勝はない」「後手番でいかに頑張れるかの勝負」「後手番の引き分けは勝ちに等しい」といった言葉が聞かれるほどでした。

先手勝率0.839

これは将棋というゲームを考えたときに見過ごすことはできない数字です。
Xでたくさんの反響をいただきましたので、論点を整理してみます。

(1)この数字は永続的なものか、一時的なものか

そもそも「先手勝率0.839」という数字自体がどうなの?という話です。これは先手勝率1に向かう過程が可視化されたものなのか、一時的な上振れに過ぎないのか。
この点について、優勝した氷彗の開発者の大森さんは「先手有利の傾向は今後ますます強くなる」という考えを述べていらっしゃいました。一方で当日解説をされていた瀬川晶司六段は「後手番の巻き返しに期待したい」とおっしゃっていました。瀬川先生の言うように、今は見えない後手番のブレイクスルーがあるのかもしれません。かつての中座飛車やゴキゲン中飛車のような後手番の画期的な戦法が現れる可能性は確かにあります。
ただ、現状はそれが見えないので、しばらくは先手有利の傾向は続くという大森さんのご意見も納得です。

また「先に1手指せるのだから先手有利」という原始的な考えもあるので、先手有利の傾向が強まっていくという論には感覚的にも説得力があります。

(2)人間の将棋も同じようになるのか

次の論点は人間界もコンピュータの世界と同じように先手勝率が1に近づいていくのか、という問題です。プロ公式戦においても先手の勝率は高く、0.52前後で推移しています。0.52前後であればそこまで深刻な問題ではなさそうですが、タイトル戦や、竜王戦1組、A級順位戦といったトップ棋士同士の戦いではその傾向はさらに強くなります。
現在最強の棋士である藤井聡太竜王・名人も、先手と後手では勝率が2割近く違います。

また、いまは多くの棋士がAIを研究に取り入れているため、コンピュータ将棋の傾向が人間に与える影響は大きそうです。
特に角換わりなどのAI研究がさかんな戦法については、ますます先手勝率が上がっていくのは間違いないでしょう。

ただし、コンピュータ将棋界と人間界で決定的に違っている点があるのには注意が必要です。それは入玉時の点数計算による勝敗判定。コンピュータ将棋では27点法を採用していますが、プロ公式戦では24点法が使われています。

24点法は引き分けになる範囲が広いため、コンピュータ将棋とは違って、人間の将棋は引き分けに収束していく可能性もあります。
藤井聡太竜王・名人も、将棋の結論について「プロの公式戦では24点法を採用しているので、結論としては『引き分け』になる可能性が高い」と述べています。

※『藤井聡太完全データブック 令和5年度版』(日本将棋連盟発行)より
 

(3)先手勝率が上がっていった場合、ルールをどうするか

最終的に引き分けに収束する可能性があるとはいえ、現実的には、少なくともここ数年は、人間界でも先手勝率が上がっていくというのが蓋然性の高い未来です。

先手勝率が5割後半を超え、6割近くなれば、さすがに現行のルールを変える必要が出てくるでしょう。将棋には囲碁のコミのようなうまい仕組みがないため、先手にどうやってハンデをつけるかは悩ましいです。

個人的には、将棋の本質的なところはなるべく変えたくはないので、先後で持ち時間に差をつける(先手の持ち時間を少なくする)というのが無難なのかなと思っています。とはいえ、他にもいろいろな方法があるので、この辺りは議論の尽きないところです。



・・・以上です。いろいろ考えさせられた第36回世界コンピュータ将棋選手権でした。
ぜひ皆様の考えも教えてください。

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