2026.05.02
【将棋世界】女流棋士の現在地 加藤結李愛女流二段
2018年のデビュー以降、着実に実績を重ね、2022年度には第7回YAMADA女流チャレンジ杯優勝も経験した加藤結李愛女流二段。結果を残してきた一方で、本人は自身の将棋を冷静に見つめてきた。研修会時代、あと一歩で女流棋士資格に届かなかった経験や、デビュー直後の実感が伴わなかった時期を経て、現在は勝ち切る難しさを感じている。その歩みについて聞いた。
研修会時代の挫折──あと一歩を6回逃して
──まずは、女流棋士になる前のお話をお聞かせください。研修会時代は苦しい時期があったそうですね。
「はい。あと1勝で女流棋士の資格が取れるというチャンスを6回も逃してしまいました。いま振り返ってみるとただただ実力不足だったと思いますが、当時は気持ちが折れてしまい、研修会を3か月ほど休みました」
──大きな決断だったのではないでしょうか。
「いま思うと、自分の弱さを感じる部分もあります。ただ、休んでいる間も棋譜並べは毎日続けていました。復帰してすぐに昇級できたので、一度立ち止まったことは結果的に無駄ではなかったのかなと思います」
棋戦優勝と将棋観の変化
──女流棋士になられてからは、1年で2級から初段へと順調に昇級を重ねています。
「その頃がいちばん『怖いもの知らず』でした。若かったので勢いよく臨めたという点ではよかったのかもしれません。ただ、勝っていてもどこかふわふわしていて、自分の実力が伴っている感覚はありませんでした。結果に対して自分がいちばん驚いていたと思います」
──2022年度には第7回YAMADA女流チャレンジ杯で優勝されました。その時の心境はいかがでしたか?
「準決勝は内容的には苦しい将棋だったので、運がよかった部分はありましたが、結果が出せたことはとてもうれしかったです。いろいろな方からお祝いの連絡をいただきました。特に、福島に住んでいる祖母が応援に来てくれていたのが印象に残っています。研修会に入るときからずっと支えてくれていて、今でも対局のたびに『勝てますように』と願ってくれているそうで……。祖母によい結果を報告できたことが、いちばん幸せでした」
──デビューから現在までで、将棋のスタイルに変化はありましたか?
「デビュー当時は攻めることばかり考えていましたが、最近は攻めと受けが半々くらいになってきました。そのくらいのバランスで指していきたいという意識があります。強い相手と当たる機会が増えて、年々勝つことの難しさも感じています」
──ご自身の将棋の特長はどのように捉えていますか?
「自分ではあまり分からないのですが、『筋がよい』といっていただくことがあって、落ち込んだときにはその言葉を思い出して頑張っています」
──理想としている将棋や棋士像はありますか?
「米長先生の将棋を並べていた時期もあって、『泥沼流』のように簡単に勝たせない将棋に憧れがあります」
──得意な棋戦はありますか?
「そこまで意識したことはありませんが、マイナビ女子オープン予選は自分に合っているかもしれません。30分60秒という持ち時間が、早指しですが短すぎず、じっくり考えられるので、相性のよい棋戦だと感じています」
──現在の課題について教えてください。
「前のめりになってしまうところがあって、一点だけを見てしまうことがあります。一歩引いて、全体を見渡せるような将棋が指せるようになりたいです」
──盤面を俯瞰してみるというか・・・…
「そうですね。優勢な場面ですぐに勝ちにいこうとせず、一度力をためるような手を指して勝てたときは、内容も伴っていると思います」
女流順位戦と自身の現在地
──続いて、女流順位戦についてお聞きします。棋戦が創設されたときはどんなお気持ちでしたか?
「夢みたいだと思いました。もともと順位戦はかっこいいなと思っていて憧れがあったので、女流棋戦にもできたのは画期的だと感じました」
──プレッシャーはありませんでしたか?
「プレッシャーよりも、その存在そのものがうれしいという気持ちのほうが強かったです。階級や順位が付けられるというシビアな面はありますが、それよりも昇級という目標ができることが大きくて、モチベーションも上がりました」
──ご自身の女流順位戦B級という現在地についてはどのように見ていますか?
「正直、A級に上がれる力はまだないと感じています。B級に上がったことで、持ち時間が3時間になったのはうれしいポイントでしたが、ここからさらに昇級するには、もう少し力をつける必要があると思っています。負けが増えると降級が見えてきてしまうので、いまはとにかく踏みとどまりたいという気持ちです」
──トーナメント戦との違いは感じますか?
「順位戦は負けてもリーグ戦が続くので、引きずっていられない面があります。次に向けて気持ちを切り替えることが大事だと思っています。昇級や降級が絡むと、手が伸びなくなって守りに入ってしまうこともあり、平常心を保つのが難しいと感じることもあります。年々、一局の重みと勝つことの難しさを実感しています」
「勝ちたい」よりも「強くなりたい」
──女流棋界では福間香奈女流五冠と西山朋佳女流三冠の2強時代が続いています。
「お二人は本当に強くて、対局したときにも力の差を感じました。まだまだ自分には足りない部分が多いですが、同世代が勝っている姿も見ているので、自分も強くなって、そこを目指していきたいです」
──「強くなりたい」というお言葉をよくおっしゃっている印象があります。
「強い人が勝つと思っているので、『勝ちたい』よりも前に『強くなりたい』という思いがあります。強い先生方の読みは本当に深くて、自分がまだ届いていない世界があります。強くなれば、その景色が見られるのではないかと感じています。もっとよい景色を見たいという思いを言葉にすると『強くなりたい』になるのだと思います」
デビューから8年。積み重ねてきた時間の中で、勝ち切ることの難しさを年々感じている。「強くなりたい」という言葉は、そうした実感の上にある。試行錯誤を重ねながら、どこまで自分の将棋を高めていけるのか。これからの対局が、その過程を示していく。
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