2026.04.21
『将棋AIのゆくえ』レビュー
はじめに
今回は、2026年4月に発売される新刊『将棋AIのゆくえ』(松本博文著)のレビューをお届けします。著者の松本氏は、記者として各棋戦の中継に携わり、また数多くの将棋関連の著作があります。長年にわたりコンピュータ将棋(将棋AI)関連の取材も続けられていて、本書は、その取材内容や将棋AI関連の記事を凝縮した一冊となっています。
このレビューを書いている私は、ニコニコ生放送で「電王戦」が開催されている時期に将棋に興味を持ち始め、「電王戦」や「電王トーナメント」を観ていました。深く将棋AIにかかわっているわけではないですが、HEROZの棋神アナリティクスで自分の将棋を調べたり、電竜戦をYouTubeで観戦したりしています。システムエンジニアという職業柄、技術への関心はありますが、将棋AIの内部構造や高度なアルゴリズムに関する専門知識があるわけではありません 。
本書は、技術書ではないので、将棋AIの仕組みを詳説しているわけではないですが、将棋AIがいかにして強くなっていったかや、今後の見通しについてを多角的な視点で描き出しています。将棋AI開発者へのインタビューを通して、彼らの思想に触れられる点も大きな魅力です。
本書の概要
本書は、目次を見ていただくとわかる通り、
第1章 過去~コンピュータ将棋の歴史~
第2章 現在~進化する将棋AIとそれを取り巻く環境~
第3章 未来~将棋AIのゆくえ~
と、過去・現在・未来の3章立てで整理されています。
もう少し具体的にどのような内容について記述されているかを紹介します。
第1章 過去~コンピュータ将棋の歴史~
やねうらお氏のブログ記事を引用しながらコンピュータ将棋が進化した変遷を辿っていきます。
さらに、「Bonanza」が登場し、コンピュータ将棋に技術的なブレイクスルーがもたらされました。BonanzaがWCSC(世界コンピュータ将棋選手権)で優勝し、プロ棋士と対戦するまでに至る経緯や、ソースコードが公開され、コンピュータ将棋の発展に寄与したことについて述べられています。
やねうらお氏開発の「やねうら王」が登場し、オープンソース化されることで、やねうら王ライブラリを用いた「やねうら王チルドレン」が競技会の上位を占めることが多くなりました。
「水匠」開発者の杉村達也氏のインタビュー記事を通じ、水匠にどのような工夫をしたかが述べられています。2020年頃に話題となった「AI超え」という言葉についても、詳細に語られています。
渡辺明九段と杉村氏の対談の中で、ディープラーニング系のソフトが台頭してきたことについて、その特徴が語られています。将棋AIがコンピュータのCPUやGPUをどのように利用しているかについても解説されています。
第2章 現在~進化する将棋AIとそれを取り巻く環境~
山岡忠夫氏の開発したディープラーニング系将棋AIの「dlshogi」や、大森悠平氏の開発したNNUE系将棋AIである「氷彗」について紹介されています。(NNUE系の説明も本書内に載っています。)
また、「知識蒸留」という手法により、将棋AIがさらに強くなったという話が解説されています。
2024年11月に行われた杉村氏のインタビューを通じて、将棋AIの変遷が改めてまとめられています。
第3章 未来~将棋AIのゆくえ~
「将棋の結論は?」という究極のテーマについて、棋士や将棋AI開発者の意見がまとめられています。
将棋AIにも影響を与えているチェスソフトの「Stockfish」について、やねうらお氏や大森氏への取材から深掘りしています。
「推定選択率」や、LLM(大規模言語モデル)を用いた対局解説の仕組みなど、最新のトピックについてまとめられています。
印象に残った箇所
全体を通して印象に残る記事が多かったのですが、特に印象に残った箇所を引用させていただきます。
やねうらお氏がチェスエンジン「Stockfish」のソースコードを初めて読んだ時の衝撃を語る場面です。
「彼らは単にチェスを強くする以上に、もっと普遍的な、"知的な問題解決のエンジン"を作ろうとしているように見えたんです。......強いチェスエンジンを作ろうとすると、結果としてゲームに依存しないアルゴリズムに収束していくんですね。」
この一節は、将棋AIに関しても、将棋に特化しているAIを作っているように見えて、実は汎用的な知能の探求に繋がっていることを示唆しているように感じました。
おわりに
今回は、『将棋AIのゆくえ』のレビュー記事を書かせていただきました。
本書は、技術的な知識の前提がなくても読んでいける内容ですのでご安心ください。将棋AIに興味がある方、さらにいえば、将棋に特化していなくてもAI全般に興味がある方は楽しく読めると思います。また、観る将の方が、将棋界のAI関連の情報を仕入れるのにも役立ちます。
興味を持たれた方は、ぜひ本書を手に取っていただければと思います。
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