2026.03.30
【将棋ニュース】藤井聡太竜王・名人が衝撃のW逆転防衛 2タイトルカド番からの防衛はどれくらい珍しい?
3月29日に行われた棋王戦五番勝負第5局で藤井聡太棋王が勝ち、棋王防衛を果たしました。
王将戦と棋王戦はそのスケジュールから、どちらにも登場すると番勝負を並行して行うことになります。ただでさえ大変なタイトル戦が過密スケジュールで行われる過酷さは、その当人ではないとうかがい知ることができません。
それでも、タイトルを多く持つ棋士の力はまた別格ですから、王将戦と棋王戦を同一年に制した例はいくらでも(例えばここ数年の藤井六冠がそうです)あります。しかし、双方ともにカド番からの大逆転劇となると近年では例が浮かんできません。
2005年度の羽生善治
さかのぼって調べてみると、並行する二つのタイトル戦で両方カド番、という例はいくつかありました。まず2005年度の羽生善治九段。この年の羽生は王位・王座・王将・棋王の四冠を保持して年度末を迎えていました。王将戦では佐藤康光九段を相手に3連勝の好スタートでしたが、そこから3連敗して失冠の危機を迎えます。そして棋王戦では森内俊之九段の挑戦を受け、こちらは2連敗スタートとやはりピンチに。時系列順にいうと棋王戦第3局で一矢を報いた直後に王将戦第6局で敗れ、ダブル失冠の危機となりました。王将戦第6局の4日後に行われた棋王戦第4局で敗れ、棋王失冠。さらにその5日後には名人挑戦プレーオフを谷川浩司九段と戦い、敗戦。名人挑戦を逃します。プレーオフの5日後に王将戦第7局が始まり、なんとも流れが悪そうな状況で迎えたことになりますが、ここでは踏ん張って王将を死守し、三冠を守りました。つまりダブルカド番のうち、一つは失冠、もう一つは防衛、という結果です。
2006年度の佐藤康光
もう一つの例は06年度の佐藤康九段。年度初めに保持していたのは棋聖一冠ですが、王位、王座、竜王、王将、棋王のタイトル連続5挑戦を実現しました。ですが棋聖防衛こそ果たしたものの、王位、王座、竜王はいずれも敗戦。王将戦でも1勝3敗からフルセットまで持ち込みましたが、第7局を羽生王将に敗れてしまいます。その3日後に行われた棋王戦第4局でも森内棋王に敗れてタイに持ち込まれました。5連続挑戦を決めながらいずれも奪取に至らずという踏んだり蹴ったりな結果になる可能性もありましたが、第4局の5日後に行われた第5局を勝利して、二冠となりました。二冠になったその日の夜、棋王奪取の原動力となった角交換振り飛車(当時はまだそのネーミングがなかったような気もします)について「あれは優秀な戦法なんです。JTとNHKと棋王を取ったんですよ」と雄弁に語っていたのが思い出されます。2つのタイトル戦で一つは挑戦失敗、もう一つは奪取ということですね。
1965年度の大山康晴
羽生九段や佐藤九段をもってしても2つのカド番を跳ね返すのは難しかったことになりますが、さらに調べてみると今回の藤井六冠に近い例が1つありました。1965年度の大山康晴十五世名人です。当時はまだ棋王戦が開催されていませんが、その代わりに棋聖戦が前期と後期の年に2度行われていました。前期が現在と同様の6~7月に行われていたのに対して、後期は12月~2月の開催でした。後期棋聖戦は十段戦(竜王戦の前身です)や王将戦と並行で行われることになります。65年度の大山十五世名人は当時の全五冠独占の3年目に当たり、まさしく無敵の強さを誇っていましたが、年末の十段戦からピンチを迎えます。十段戦は二上達也九段に3勝1敗としていましたが、第5、6局を連敗して追いつかれました。第5局の直後に棋聖戦五番勝負(対戦相手はまたも二上九段です)が始まっています。十段戦は第7局を制して死守しましたが、息つく間もなく棋聖戦、そして山田道美九段が挑戦してきた王将戦七番勝負が始まりました。棋聖戦は1勝2敗、王将戦は1勝3敗といずれもカド番に追い詰められましたが、そこから全部勝ってタイトル防衛、終わってみたらいつものように?五冠を堅持しました。
大山十五世名人は自戦記で以下のように振り返っています。
「山田さんに1勝3敗と追い込まれたときは、一つくらいタイトルを失ってもいいや、という気持ちになった。ところが2勝3敗と持ち直したら、“五冠王”の文字が頭をかすめた。四冠王だって大した変わりはないのだが、やはり“五冠”の方が響きがいい。そろいのコーヒー茶わんでさえ、一つ欠けると、残りが使えるのに価値がなくなったように思えてくるもの。そんなわけで、この一戦には珍しく、気が入った。といっても、堅くなりはしなかった。思う存分手足を伸ばし、深呼吸してから、グルグル手を回して石を投げる気持である」
これはまさに2つの並行するタイトル戦でカド番からのW逆転防衛、ということなので、今回の藤井聡太竜王・名人の例と重なります。
筆者の調査があっていれば、藤井竜王・名人の劇的な防衛劇は1965年度の大山康晴十五世名人以来の快挙、ということになります。
2025年度の藤井六冠は王座こそ失冠しましたが、その他のタイトルは全て守りました。休む間もなく、新年度からは糸谷哲郎八段を挑戦者に迎える名人戦七番勝負が始まります。これからも藤井六冠の戦いぶりに注目です。
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