2026.02.13
東大将棋部員が語る大学将棋の世界 第2回「奥深き団体戦オーダーの仕組み」
前回は大学将棋部の普段の活動について紹介しました。
前回:東大将棋部員が語る大学将棋の世界 第1回「大学将棋部の生態」
今回は大学将棋の大会について、なぜ大学将棋が特別なのか、その秘密である団体戦を中心にお話ししていきたいと思います。

大学将棋の大会は春/秋にそれぞれの地区(北海道、東北、関東、北信越、中部、関西、中四国、九州)で個人戦と団体戦が行われます。
春の個人戦で6月の学生名人戦の代表が、秋の個人戦で12月の学生十傑戦(別称学生王将戦)の代表が決まります。
これが学生タイトルと呼ばれるもので、2025年度は慶応義塾大学の嶋村拓夢さんが両方獲得し、いわゆる「学生二冠」になりました(その後嶋村さんはオール学生戦将棋選手権戦(個人戦)でも優勝し、「学生三冠」となった)。
嶋村さんは将棋情報局のYouTubeチャンネルで詰将棋関連の動画で出演されているので、ご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そして、団体戦です。春の団体戦で各地区の代表が合計10校(各地区1枠、関東・関西地区は2枠)決まります。
これが9月に集まり、戦う全国大会がトリプルアイズ杯です。
秋の団体戦でも同じように代表が10校決まり、12月に学生王座戦を戦います。
ちなみにこれらの全国大会は大学生の団体である全日本学生将棋連盟によって運営されます。
それぞれの地区予選も、関東大学将棋連盟、関西学生将棋連盟などの団体が各地区にあり、それぞれ学生自身で運営されているのも大学将棋の大きな特色でしょう。
大学将棋の団体戦はリーグ戦です。
トリプルアイズ杯と学生王座戦の2大大会は10校が1回戦から9回戦まで、1日に3回戦ずつ、3日間かけて戦います。
大学将棋の大会は多くのアマチュア大会で採用されている一手30秒の秒読みではなく、一手60秒のものが多いです。
棋力だけではなく、戦い続ける体力、精神力も重要な要素になります。これは各地区の大会でも同じことがいえます。
団体戦では棋力も当然ですが、オーダーがとても重要になります。
どんなチームもエース、レギュラー、準レギュラーで構成されます。
相手校のエース選手に対して勝算が低いと判断した場合には当て馬としてチーム内ではやや棋力の劣る選手を起用してそこは「捨てる」というのも立派な戦略となりえます。
ではどのように相手のオーダーを予測し、オーダーを考えるのでしょうか。
その秘密は大学将棋独特のオーダーの仕組みにあります。
少しややこしくなりますが、説明したいと思います。
下の図をご覧ください。大学将棋では7人の団体戦であっても、14人登録します。そして、出場選手は試合ごとに選んで変更することができます。もちろん連続出場も可能です。
下の図では登録順1~14に対してA選手、B選手……N選手と名付けました。次の試合の出場選手にB選手、C選手、E選手、I選手、L選手、M選手、N選手を選んだとしましょう。すると、B選手が大将、C選手が副将、E選手が三将……と自動的に決まってゆくのです。そして同じようなシステムで決まった相手校の選手と、大将同士、副将同士……七将同士、それぞれ並んで戦い、勝ち数の多い方の大学が勝利となります。
ここで重要なのは、選んだ選手同士の上下の順番は固定されるということです。なので、例えば1番で登録されたA選手は出場するとしたら必ず大将での出場となります。
例えばもしA選手がエース選手だとすると、A選手はほぼ確実に出場することになりますよね。
すると相手校としてはA選手の出場位置が読めるので、当て馬を使ってA選手にはやや棋力の低いメンバーを当てて他の当たりで勝ちにいくといった戦略が取りやすくなるわけです(もちろんエース対決を作りにいく判断もありえます)。
昔は大将から棋力順に並べて大将戦といえばエース対決、といった時代もあったようですが、近年は前述したようなオーダーの駆け引きからエース選手は登録時は真ん中あたりに配置される傾向にあります。
真ん中あたりに登録すればエース選手が何将で出てくるか読みにくく、オーダーの駆け引き上優位に立てるとの考えからです。
このように、オーダーの駆け引きと盤上の勝負の2つの側面こそが、大学将棋の醍醐味なのです。
こうしたオーダー戦略の中には他校の選手の棋力の評価といったセンシティブな面もあるので、各大学ともXやブログで発信する際に「ここはこっちが有利な当たり」などとは表立ってはあまり書きません。
しかし全ての大学が相手となる大学の選手の実績や得意戦法などの情報を調べ、少しでもオーダーの駆け引きで優位に立とうとしているのです。
皆さんも大学将棋通になってきたら、大学将棋部のXでの実況や大会の振り返りブログを見る際に、オーダーにも注目してみてはいかがでしょうか。
以上の通り、大学将棋では独特のオーダーの仕組みのおかげで熾烈なオーダーの駆け引きが繰り広げられます。
登録した14人のうち7人が出場するということですが、出場していない選手はどうしているのでしょうか。
こうした選手は、仲間の対局を観ながら応援したり、Xで「実況」を行ったり、あるいは、オーダーを考えたり、次の出番に備えて休んだり序盤研究を見直したりしている場合もありますが、1%でも次以降の試合の勝率を高めるため、他校の対局を観戦して他校の選手の指す戦法の情報を集める「戦型チェック」を行う場合もあります。
情報は部内で共有され、次以降の試合のために対策が練られるのです。
14人のメンバーに入っていない部員も応援に来て戦型チェックを行う場合もあります。
このようにまさに部一丸となって勝利を目指す空気感こそ、本当に大学将棋独特のものなのではないでしょうか。
次回は大学将棋界の勢力図と展望についてお話ししたいと思います。
次回:東大将棋部員が語る大学将棋の世界 第3回「大学将棋の勢力図とこれからの展望」
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