2025.11.13
飯塚一門の個性派新人棋士2人の門出を祝う! 岩村凛太朗四段・片山史龍四段の昇段祝賀会
飯塚祐紀八段門下からプロ入りした岩村凛太朗四段(19)と片山史龍四段(21)の四段昇段を祝う祝賀会が、11月7日に都内で開かれました。
会場には、両四段にゆかりのある人たちのほかに、伊藤匠二冠・西山朋佳女流二冠らタイトルホルダーや清水市代日本将棋連盟会長・佐藤康光九段・郷田真隆九段を始め大勢の棋士・女流棋士も出席。その数なんと45人(!)と訊きました。中には関西からこの会のために駆け付けた若手も。飯塚一門の人望の厚さと人脈の広さを感じました。
パーティーの様子をレポートします。(取材・田名後健吾)
飯塚八段が主宰する「江古田将棋教室」は、いまから18年前の2007年に立ち上げられました。当初は近所の子どもたちに将棋の初歩を教えることを目的とした小規模の教室でしたが、徐々に人数が増えて有段者の子が出てくると指導スタッフが増員され、全国大会で好成績を挙げる子も出てきました。そんな2012年頃に入会したのが片山四段と岩村四段です。二人は入会当初から抜きんでた才能を持っていて、プロを目指して腕を磨き合いました。奨励会に入っても順調に昇級昇段を重ね、ともに三段に上がりましたが、そこから昇段までは苦難を味わいました。
9月の三段リーグ最終日、師匠は教室の日でしたが、スマホで二人の結果をハラハラしながらチェックしていたそうで、同時昇段というこれ以上ない結果になりました。あいさつの口火を切った飯塚八段は、喜びと安堵が入り混じった感慨深い表情でこれまで支えてくれた関係各者に感謝を述べ、「二人には(公式戦で師匠に勝つ)恩返しは固くお断りしたいと思いますが(笑)、彩り豊かな棋士人生を歩んでください」と激励しました。
続いて、片山史龍四段があいさつに立ちました。
片山「私は小学2年生から江古田将棋教室に通い始めまして、今回同時昇段となった岩村さんや同世代の将棋仲間たちとそこで出会いました。切磋琢磨していくうちに、自然と棋士を目指すようになりました。奨励会には10年間在籍し、三段昇段までは順調だったのですが、そこからあと一歩のところで5年ほど足踏みし、昇段のチャンスを逃すこともあって歯がゆい思いをさせてしまったのではないかと思います。でも、常に励ましてくださった師匠や、温かく見守っていただいた皆様のおかげで、こうして棋士になることができました。改めて深く感謝申し上げます。これからは棋士として、まずはやはりフリークラス突破が目標となりますが、いずれはA級棋士になれるような実力をつけたいと思っています。また、見ていただいている方に面白いと思ってもらえる将棋を指しますので、ぜひ内容のほうにもご注目ください」と述べました。
そして、岩村凛太朗四段のあいさつ。
岩村「初めましての方は初めまして(笑)。10月から新四段となりました、岩村凛太朗と申します。本日はお忙しいなかお越しくださり、誠にありがとうございます。また、企画してくださった将棋教室の皆さまに感謝申し上げます。そして片山先生、ご昇段おめでとうございます(笑)。片山先生とは三段リーグの最終日の朝にお会いしまして、片山先生が『将棋世界』の三段リーグ表をまじまじと見ておられて、私も自分の心配をしなきゃいけないなと思いました。今日はありがたいことに遠方からお越しくださった方々のもいらっしゃいまして、本当に環境に恵まれているなあと改めて実感しています。中高の友だちと将棋の大先生が同じ空間にいるというのも、何だか不思議な気持ちになります。えー、最後に、せっかくの機会ですので、少しだけ例に習って、歌わせていただこうかなと思います(笑)」
・・・と、挨拶もそこそこに両手でスタンドのマイクを引き寄せた岩村四段は、Mrs. GREEN APPLE(ミセス・グリーン・アップル)の人気曲『僕のこと』のサビの部分を高らかに熱唱。普段の声より2オクターブくらい高いのではないかと思う美声を響かせ、会場は笑いと拍手に包まれました。歌詞をご存じの方はお分かりと思いますが、岩村四段の今の心情を表していてグッドチョイスでした。
乾杯の発声は、清水市代会長が行いました。
清水「岩村さん、片山さん、ご昇段誠におめでとうございます。先ほどのお二方のユニークなご挨拶を拝聴いたしまして、師匠の飯塚八段が豊かな個性をのびのびと愛情たっぷりに育てられたからこそ、このような四段昇段祝賀会に結びついたのだなと思いまして、私も大変嬉しくなってまいりました。飯塚八段のお顔を拝見いたしますと、嬉しいような、そしてまたホッとしたようなところが印象に残っております。実は、飯塚八段とは幼馴染と申しましょうか。お互いの師匠が大変交流がございまして、私の師匠であります高柳敏夫名誉九段の道場に、修業時代通われていました。大変礼儀正しくて、人当たりがよくて、物腰が柔らかで、そして言葉遣いが丁寧で、気も使われて……あ、止まらないですね(笑)。本当に先輩から可愛がられ、仲間から信頼され、そして後輩からは慕われる本当に素晴らしい飯塚八段ですが、ご自身には大変厳しくて、皆には優しい。そういう人柄の表れかなというふうに思っております。片山さん、岩村さん、夢を叶えられて、これから大きな目標に向かってスタートラインに立たれたことと思います。夢を叶えるにはいろいろな要素があると思うんですが、飯塚八段は三段リーグを突破するには、精神力とほんの少しの運が必要だと仰っていました。それにプラス、私が思うに、良き指導者との出会いがいちばんの財産ではないかなと思っております」
郷田真九段の祝辞では、いまは亡き兄弟子のことについて話しました。
郷田「今日の祝賀会を主催されている江古田将棋教室にはたくさんの指導陣がおりまして、その中の一人に私の兄弟子で指導棋士の故・田畑良太六段(2022年に逝去)がいらしたんですね。お二人もたくさん指導を受けたと思うので、少しお話ししたいと思います。もう40年以上前の古い話なんですけれども、私は子供の頃に豊島園の遊園地のそばに住んでいたのですが、そこから徒歩15分ほどの所に将棋道場がありまして、そこに通い始めたことがプロになるきっかけになりました。その道場で、師匠なる大友先生(昇九段)と田畑さんに出会いました。その田畑さんが3年前に早世されました。今日田畑さんがこの会場にいたら、お二人に対してどんな言葉をかけるかなとちょっと考えてみたんですけれども、おそらく多くを語る方ではなかったので、隅っこで大好きなお酒を飲んで、二次会・三次会になった時に初めて二人の昇段を喜ぶだろうなと、そんな姿が思い浮かぶのです。二人はこれまでたくさんの人たちに将棋を教わってきたと思うんですが、田畑さんのような方がいたことも、これから先も心のどこかに留めておいていただけたらと思います。先輩棋士として私が1つだけ言うとすれば、これから長い棋士人生がスタートするわけですが、昇級昇段を懸けた大一番で力を発揮することはもちろん大事ですが、それと同じくらい、誰も注目していないような対局でも一生懸命指すということが大事かなと思っています。まあ当たり前のことなんですが、その当たり前のことがなかなかできない時もあったりします。その積み重ねの先に花が開くということがあるので、そういうことも心がけていただきたいと思っております。お二人とも活躍を大いに期待しておりますので、ぜひ頑張ってください」
伊藤匠二冠も祝辞を述べました。
伊藤「飯塚先生のお弟子さんが二人そろっての昇段ということで、本当に喜ばしいことだなと感じております。私は、岩村さんとも片山さんとも練習将棋を指していた時期がありまして、本当に豊かな才能を持った方々だなと以前から注目しておりました。岩村さんは、詰将棋のほうでも物凄い才能を発揮されておりまして、また先ほども素敵な歌声を披露して、一体どういう方向に進んでいかれるのかなと非常に楽しみが尽きない存在だなと感じております(笑)。片山さんとは4、5年前から私がお願いして練習将棋を指していて、ある時、片山さんに学校の様子を聞いたら『学校は辞めました』というふうに仰って、それ以来、私としては同じ高校中退生として密かに応援しておりました(笑)。お二人とも非常に個性的で独自性の強い、面白い将棋を指されるという印象がありますので、その持ち味をこれからも存分に発揮していただいて、棋士人生を楽しんでいただければと思います」
続いて祝辞に立ったのは、元女流棋士の藤田麻衣子さん。片山四段によれば、6歳の頃に、藤田さんから将棋の基礎を学んでいたとのこと。
藤田「私は、片山四段の出身地の江東区で将棋の普及活動をしておりました。まだ幼稚園か小学校1年生だったぐらいの頃、お母さんと一緒に、どうぶつ将棋から始めて本将棋まで習える親子教室に来てくださったことが出会ったきっかけです。その後、清澄白河のほうで私が将棋教室を開いたところ、史龍君も熱心に通ってくれました。その頃の史龍君は将棋が大好きで、小学校が終わると走って教室に向かってくるような子でした。家でも一人将棋をしていたみたいで、ある日、史龍対史龍という一人将棋の棋譜を見せてくれたこともあります(笑)。初心者向けの教室だったので、私もある程度、勝ち方を覚えてもらうように手を緩めていい勝負になるようにするんですけれども、そうこうしていると史龍君は終盤で鋭い手を指して私に逆転勝ちしてくるんですよね。そんな子どもはいなかったので、当時からびっくりさせられておりました。いちばん驚いたのは、ある日、お母様から相談を受けまして『周りの友達はみんなポケモンなどに興味があるのに、史龍は24時間将棋のことしか考えてないんですけれども、大丈夫なんでしょうか?』という相談を受けました。私も同じぐらいの世代の息子がおりましたので、もうびっくりしまして、そんな子が世の中にいるんだなと、あまりの衝撃に何と答えたか忘れてしまいました(笑)。その後、うちの教室では手に負えないぐらい強くなったということで、飯塚先生の教室を紹介して、そこに移ることになりました。もう皆さん御存じのとおり、岩村君を始めいいライバルに恵まれて、大きく成長されたと思います。奨励会に入ってからは陰ながら見守っておりましたけれども、正直言いまして、ちょっとこの場で言うと怒られそうなんですけれども、勝ってほしいとかプロになってほしいと思ったことは実は一度もございません。私が当時から心配しておりましたのは、厳しい勝負の世界で、将棋のことが好きだった気持ちをいつか忘れてしまってしまわないかということでした。プロになって、これからも厳しい勝負の世界が続くわけで、つらいこともたくさんあるかと思いますが、将棋が好きだった子供の頃の気持ちを、いつまでも持ったままいてくれることが一番の願いです。そして、ファンに楽しくて素晴らしい世界なんだという姿を見せていただけたらなと願っております」
詰将棋解答王として知られる竹中健一さんは、岩村四段の詰将棋創作の才能について熱く語りました。
竹中「岩村四段との出会いは、彼が小学生低学年の頃だったと思います。将棋大会の会場で、詰将棋の好きな小学生がいるよということで紹介をいただきました。名前だけは覚えていたんですけれども、その後2017年の岩村君が奨励会入る直前ぐらいの頃に、『詰将棋パラダイス』に初入選作が載りまして、さらに翌月号には、なんと35手詰の素晴らしい作品が載りまして、この子は凄いなと思ったことをよく覚えています。幼稚園のときから『詰将棋パラダイス』を読んでいるという話を聞き、この子は詰将棋界の宝だなというふうに当時から思っておりました。彼の作品の特徴は、普通の詰将棋ではなく〈構想作〉というちょっと特殊なプロットが入った作品が多いんですけれども、それを作るのは非常に難しく、今まで見たことないようなことを考えてそれを実現するのは、本当に詰将棋のセンスがないとできない。将棋界に行くのは惜しいと、たぶん詰将棋界の方々は思っていると思います(笑)。これからも、まだまだ看寿賞などを取る方だと思っています。彼はこれまで3作の看寿賞受賞作がありますけれども、とにかく凄いので、皆さんにぜひ並べていただきたいなというのが自分の感想です。彼はとにかく人を楽しませることが使命と言い切っているので、詰将棋においても盤上(の勝負)においても、それ以外においても活躍していってくれるのではないかと楽しみにしております」

メインイベントは、両四段が親友とペアを組んでのリレー対局。片山四段・吉池隆真四段ペアと岩村四段・藤本渚七段ペアで行われました。
片山四段と吉池四段は、小学生時代からの親友でライバル同士。奨励会の昇級昇段でも抜きつ抜かれつ、切磋琢磨してきた間柄だそうです。
吉池「片山君と岩村君とは昔から親交があり、ずっと切磋琢磨してきた仲だと思っています。リレー将棋ということで、ちょっと緊張しています。私なんかは小学校の頃にポケモンをずっとやっているような子どもだったので、足を引っ張らないように頑張りたいと思います。片山君とは同い年、相手は年下のお二人ということで、ベテランの味を出していきたいと思います。(片山君とは)お互いに居飛車党ですが、けっこう系統が違う将棋かなと思っているので、戦形というよりも絆(きずな)で戦っていきたいなと思います」
片山「吉池君は右玉が得意なので、今回は王様を左側にお願いします(笑)」
一方、岩村四段と藤本七段は、東西に分かれているものの、三段リーグの対局後に連絡先を交換し、たちまち意気投合して親友になった間柄だそうです。
藤本「岩村さんに親友と呼んでいただき、自分の一方通行だと心配だったので非常に嬉しいです。リレー将棋ということで、仲の良いところをお見せ出来たらと思っています。(岩村さんの将棋は)序盤がすごく独創的で、岩村流と呼ぶべき戦法がたくさんあると思うので、今回はその気持ちを尊重したい」
岩村「僕の取り柄だと思っている終盤力すら藤本先生は上回っているので、足を引っ張らないように頑張ろうと思います」
戦形は、▲片山・吉池ペアの居飛車に△岩村・藤本ペアの向かい飛車の対抗形に。激しい攻め合いの熱戦になりましたが、最後は片山・吉池ペアの「絆」の強さが、岩村・藤本ペアの終盤力に打ち勝ちました。
佐藤「私も経験していない厳しい三段リーグの難関をくぐり抜けて、二人のお弟子さんが同時に昇段されました。ご家族の方々、飯塚八段はじめ関係者の皆様、誠におめでとうざいます。弟子がプロになることは、師匠にとって一つの勝ちと言いますか誇りであると思います。私には弟子がいないこともありますが、年間に4~5人しかなれない棋士の師匠になることも、実は難関だと思っています。才能豊かなお二人には、これからタイトル獲得や棋戦優勝を目指して将棋界を引っ張っていっていただきたいなと思います。私はお二人とはそこまで接点がないのですが、先ほど仕入れた情報では、片山さんは長考派だというふうに聞きました。実は私も若い頃は長考派で考えることが好きでした。無駄なこともけっこう考えてきましたが、そういう読みの積み重ねが今の自分を支えていると思っています。三段リーグと違って公式戦は持ち時間がたくさんありますから、(これからはしっかり考えて)自分の長所を伸ばしていってほしいなと思います。岩村さんは、先ほどの話にもありましたように詰将棋の創作でも凄いということで、私は解くのは無理なので鑑賞させていただきます(笑)。岩村さんは目標とする棋士の一人として私の名前を出していただいており、大変光栄なことだと思っています。今までにもそう言ってもらえる後輩は何人かいたのですが、5年10年たつとほかの棋士に名前が変わってしまうこともけっこうありまして(笑)。それはそれで本人の成長過程の一端ということで自分を慰めているんですけど(笑)。自分もいつまでも目標とされるように頑張っていきたいなと思っています。最後に先輩棋士としてお二人に2つ挙げますと、まずはやはり将棋界を支えてくださるファンの方を一人でも多く増やしてほしいということ。また、勝つということが棋士の一つの大きな源ですけど、これはお金で買うこともできませんし何にも代えがたいもの。強くなるためにこつこつ勉強して実力を身につけることは棋士の大きな役割なので、それをこれからも続けていってほしいなと思います」

