2025.07.25
お気に入りの作品について語る藤井竜王・名人の、あまりに難解な言葉を紐解く ~将棋年鑑2025ダイジェスト
『令和7年版 将棋年鑑 2025』の発売が、いよいよ2025年8月1日に迫りました。
前回に引き続き、将棋年鑑の特集記事『藤井聡太インタビュー「将棋のこと、詰将棋のこと」』の内容をご紹介します。
実戦に生きた詰将棋の手筋
藤井聡太七段(当時)のタイトル戦の初陣となった第91期棋聖戦第1局。将棋大賞の名局賞を獲得したこの一局で、詰将棋特有の手筋である「打診手筋」から着想した手順があったと藤井竜王・名人は明かしています。
「打診手筋というのは、お互い2つ以上の選択肢があるときに、先に相手の選択を聞いてから自分の手を選ぶということです。あそこの局面でいうとお互いの選択がちょうど2択ずつに近いような局面で、最初▲同歩と取るか▲同銀と取るか悩ましいなと思っていました。また、角を成ったときに合駒されるか玉が逃げられるかという選択があって、考えているうちにそれぞれ指す手が違うんじゃないかという気がしてきたので、だとするとじゃあ先に成るという手があるのかなという順番で考えました。そうなるとこれは、典型的な打診手筋の考え方と一緒なのかなと思いました。」
――対局中に打診手筋という言葉が頭に浮かんだんでしょうか?
「どうでしょう。でも考えていて似てるなという感じがしたような気がします」
――これはすごい話だなと思っています。詰将棋というのは実戦とはまったく別個なんだというふうに思っていると、なかなかこういう発想はできない気がするんですね。
このあたりの詳細は、YouTube「将棋情報局チャンネル」の動画で解説しています。詳しく知りたい方はぜひご覧ください。
驚異的な作品
藤井竜王・名人が9歳の時に発表し、谷川賞を受賞した作品(下図)について語る一コマ。――これは9歳の時の作品としては驚異的だと思っています。2枚飛車の利き筋の交点に中合して逃れる(5手目に▲2二飛は△2三歩合で不詰)というのは、どこかで見たことがないと思いつかないはずです。(略)藤井竜王・名人の詰将棋の特徴は、余詰消しのためだけに置かれているような無駄駒がほとんどない。必要最小限で作られている気がするんですけど、そのあたりに関してはいかがですか?
「そうですね、それは自分の癖で、逆算で作ることが多いんですけど、その中で配置の効率性を落としたくないというところがあって、そうなると単純に余詰を消すだけの駒はなるべく置かないという方向性に必然的になってしまう……」
――それはよくわかる気がします。
お気に入りの作品
――これまでの藤井竜王・名人の作品でいちばんお気に入りの作品があれば教えてください。
「詰パラの入選2回目の、高校に出したものを改良した……」
――あれは相当に良くなっていますね。もともといいんですけど、さらに良くなった。
「成銀の移動合で、4七を開けるために移動合をするということで、3六を開けるためというのが意味づけとして若干重複してしまっている、配置の制約からちょっと重複してしまったような感じはあるんですけど、前後の振り付けも含めてうまくまとまったかなという感じがしています」
しかし本作について藤井竜王・名人が発した言葉は、無駄がないゆえにあまりにも難解です。
詰手順を説明しつつ、少しだけ解きほぐしていきましょう。
本作のハイライトは、10手目の△5七成銀という移動合です。無駄な捨て駒にしか見えない、目を疑うような一手ですが、4七のスペースを開けることで延命に成功していますね。以下銀・馬・銀を連続で捨てる収束も軽やかです。
また6手目の△4七銀成という移動合は、10手目を実現させるための重要な伏線です。本作の主役となる成銀がこの移動合で登場することで、ハイライトの局面がより鮮烈なものとなっています。
代えて△4七桂成でも同じように見えますが、本手順と同じように▲4八馬~▲6六馬と迫り△5七成桂と合駒した際に、3六のスペースが埋まっているから▲3九銀から早く詰んでしまうのです。
つまり△4七銀成には、3六のスペースを開ける、という役割も含まれているわけですね。
ただ、藤井竜王・名人にとっては、ここが気がかりに映っているようです。
ここで改めて藤井竜王・名人が語った言葉を振り返りましょう。
「成銀の移動合で4七を開けるために移動合をするということで、3六を開けるためというのが意味づけとして若干重複してしまっている」
この言葉はつまり「伏線である6手目の移動合に、『3六のスペースを開ける』という余分な役割ができてしまったことから、主眼である10手目の鮮やかさが多少薄まっている」と、本作についてのわずかな不満点について語っているわけです。えーこれが不満点なの?と思わず首をかしげたくなりますが、どうやら詰将棋の目が肥えた方々にとっては共通の認識のようですね。
ここまで理解すると、
「気に入っている作品について教えてほしい」と尋ねられているにもかかわらず、ほとんど気に入らない部分について語っているじゃないか、ということにようやく気づきます。
しかしそこがまたなんとも藤井竜王・名人らしいなと、クスリとしてしまうのです。
※2025/7/25修正 解説の内容を一部修正しました。
限定記事や限定動画など特典が盛り沢山!将棋情報局ゴールドメンバーご入会はこちらから
