将棋駒師:燈月さんにインタビュー 『ギターと音楽と将棋駒』|将棋情報局

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将棋駒師:燈月さんにインタビュー 『ギターと音楽と将棋駒』

将棋駒の巨匠・富月(ふげつ=本名:大澤建夫=82)率いる駒師養成集団「富士駒の会」の秘蔵っ子として売り出し中の新進駒師・燈月(ひづき=本名:遠藤知宏=45)さん。長野県の松本盆地南西部にある東筑摩郡山形村に住む燈月さんの本職は、ギター職人です。そんなユニークな経歴を持つ燈月さんの自宅工房を訪ね、話をうかがいました。                 
(取材:田名後健吾)

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ギター職人を目指して上京

燈月さんは、中原誠十六世名人の生まれ故郷として知られる宮城県塩釜市の出身。少年時代から手先が器用で細かい作業が大好きだったそうです。
「特に木を削って物を作る木工が好きでした。中学3年の時にエレキギターを始めて高校の時にバンド活動をしたことから、将来はギター造りを仕事にできたらと考えていました」
高校卒業後に上京した燈月さんは、楽器製造を学ぶ専門学校に通います。
「学校では、材料となる木の選び方からボディーやネックの木工、仕上げの塗装まで、ギター造りに関するひと通りの基本を学びました。初めて自分のギターが完成したときは、達成感がありましたね」
2年間の専門学校生活を終えた燈月さんは、長野県松本市に拠点を置く国産ギターメーカーに就職し、山形村に移り住みました。
「就職して20数年。これまでいろんな部署を経験しましたが、今は塗装をメインに担当しています。塗装はとても難しい工程で、例えばグラデーションなどは機械では無理で、手作業で感覚的にやるしかありません。それだけにやりがいを感じています」
燈月さんの自宅部屋には、アコースティックギターとエレキギターが飾られていました。いずれも燈月さんが手掛けたギターです。実は燈月さんは音楽活動もしており、地元の仲間たちと組んだバンドで松本市内のライブハウスによく出演していたそうです。コロナ禍がきっかけでバンドは休止状態ですが、いまでも呼ばれればギター一本の弾き語りでライブを行っているそうです。バンドでレコーディングしたCDを聴かせていただきましたが、作詞作曲も手掛ける燈月さんの世界観は文学的で、その多才さに驚かされました。




 

将棋駒づくりに目覚める

さて、そんな燈月さんが、なぜ駒作りを始めたのでしょうか。
「10年ぐらいでしたか、漫画『3月のライオン』(羽海野チカ)を読んだのがきっかけで将棋に興味を持ち、NHK杯戦やニコ生の電王戦を観てハマってしまったんです。木村一基先生のファンで、ネット将棋も楽しんでいますが、やがて盤上の勝負よりも、将棋駒に興味が移ってきて、木工技術を生かして自分でも作れないかなと思ったんです。駒字を1つ1つ彫るのが楽しそうだなと」
コロナ禍で自宅にこもっている間もインターネットで将棋駒の製作法を調べていた燈月さんは、山梨県の都留市で「富士駒の会」の駒作り体験教室が開かれるのを知り参加します。2023年8月のことでした。
「都留市在住の駒師・寉峯先生(本名:遠藤正己氏=72)に『君は筋がいいねえ』と褒めていただき、同じ遠藤姓だったこともあって気に入ってもらえたのか、富士駒の会に誘っていただいたんです」
これが燈月さんにとっての転機となりました。



それから約1ヵ月後、燈月さんは、富士山を望む静岡県富士宮市で月に1回開かれている「富士駒の会」の例会を見学しました。
富士駒の会は、1992年に地元在住の駒師・富月(本名:大澤建夫氏=82)さんが指導者となって発足された、駒師の育成を目的とした集団です。
当初は同好会のような集まりでしたが、現在では会員数30名を超えており、その多くが高齢者。経歴もさまざまで、定年退職後に趣味で駒づくりを始めた人が多いようです。しかし、技術向上著しい会員の中からは、寉峯、富石、隆月、友生、梢月といったプロの駒師が誕生しています。
燈月さんは和気あいあいとした雰囲気が気に入って入会すると、彫りに必要な道具と駒木地、字母紙(駒字を彫る際のガイドとなる書体が印刷された紙。木地に貼って使う)などをもらって彫り駒作りからスタートしました。平日は、会社から帰宅後、食事とお風呂を済ませた午後10時から午前0時まで。会社が休みの土日は一日中、机に向かっているそうです。
「没頭する性格なので、全然つらさは感じません。どんなに時間がない日でも、彫りなり磨きなり、必ず机に向かうようにはしています。1日でも休んでしまうと、感覚を戻すのに時間がかかるんです」
子どもの頃から木工に親しんできた燈月さんの熱心さとセンスは、たちまち会員たちの目を引きます。



富月師は、燈月さんの彫りの丁寧さと飲み込みの早さに驚いたそうです。
「富士駒の会に初めてきたときは、木地と道具を渡して簡単なレクチャーをしただけだったのですが、遠藤君(燈月)は次の例会の間にかなりのところまで作り込んできたのでとても驚きました。さらに、2作目ぐらいにはすでに彫り駒の見本になるような出来栄えだったのでびっくりしましたね。入会して2年足らずですが、彫りに関しては中堅どころの腕前になっていると思います。そろそろ盛上駒を作って、将来は私を超えてほしいですね(笑)。それぐらいの逸材ですよ」(富月さん)
いっぽう寉峯師は、燈月さんの個性的な彫りに注目しています。
「都留市の駒づくり体験教室で初めて会った時から、彼は異彩を放っていましたよ。本職がギター職人というから木の見極めはしっかりできるだろうし、本気で取り組めばすぐに伸びるんだろうなと思って富士駒の会に誘ったんです。同姓(遠藤)だったので、会の皆に『有望新人です』と紹介しました(笑)。彼の彫りを見た時にまず感じたのは、関西系の深彫り駒のような力強さ。そこを伸ばしていけば、きっと他の駒師にない魅力的な個性になるのではないかと期待しています」(寉峯さん)
燈月さん自身も「両先生に彫りに特徴があると仰ってくださっているので、そこを押し出していければと思っています」と話すいっぽうで「ただ、細くてキレイな柔らかい線もちゃんと出せるようにならなければいけないとも思っています」とのこと。さらに「早く盛上駒が作れるようになって、将来はタイトル戦で使ってもらえるような作品を作りたいですね。富月先生や寉峯先生の作品のように、ぱっと見てその人の駒だとわかる個性を自分も持てるようになりたいです」と夢を語ってくれました。



 

商品紹介




燈月作 彫駒
【書体】錦旗 ※最もポピュラーで人気の高い書体。初めて手にするにはピッタリです。
【木地】中国黄楊「赤柾」 ※赤柾は主に盛上駒に使用される高級部位ですが、大胆にも彫り駒に採用しました。中国産の黄楊は日本産より赤みの強い赤柾が採れやすいことで注目されています。丁寧な磨きと面取りが施され、高級感たっぷりです。
作者コメント「錦旗はオーソドックスな書体だけに個性が出しにくい書体なのですが、線の柔らかさを出すように意識して彫りました」
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