【期間限定公開】華やかに舞え!女流棋士たちのエモーション Vol.1 野原未蘭女流初段「目指すはタイトル、4強打破」|将棋情報局

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【期間限定公開】華やかに舞え!女流棋士たちのエモーション Vol.1 野原未蘭女流初段「目指すはタイトル、4強打破」

先日まで開催していた将棋の日フェスタ2024にて、記念動画やオリジナルポスターにご出演いただいた野原未蘭女流初段。
そんな野原女流初段の人柄を改めて知っていただくべく、『華やかに舞え!女流棋士たちのエモーション Vol.1 野原未蘭女流初段「目指すはタイトル、4強打破」』を期間限定で全文無料公開いたします。
(初出:将棋世界2022年12月号。本文中の段位・肩書は当時のものです【インタビュー】内田 晶【写真】本誌)

※無料公開期間:11月25日~12月8日 
※無料公開期限が終了した後、本記事はゴールドメンバー限定記事となります。

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はしがき


史上初の女性の中学生名人をはじめ数々のアマチュアタイトル獲得、女流棋戦の活躍によるプロ入り、英春流という独特な戦型。個性あふれる女流棋士たちの中でもひときわ目立つ存在が野原未蘭女流初段だ。華やかさの中に熱い思いがほとばしる、女流棋士たちの本音を聞いていく。

女性初の中学生名人

●2020年7月、アマチュア時代に出場した第28期大山名人杯倉敷藤花戦で、女流棋戦ベスト8進出の規定によって女流棋士資格を得ました。高校2年生でのプロ入りは野原さんの実力からすると遅いと感じていた人もいたと思いますが、ご自身ではどう考えていましたか。

「高校2年生で女流棋士になるというのは、個人的にはそんなに遅くはないと感じていました。最近は中学生で女流棋士になる子も多いんですけれども、高校2年生の私がデビューしたときは最年少でしたから。そもそも大学に入ってから女流棋士を目指そうと思っていたのですが、このタイミングになりました」

●野原さんはアマチュア時代の活躍が話題になりましたね。女性初の中学生名人戦優勝を筆頭に、史上初となる女流アマ名人戦で3連覇を達成されています。出場する大会では優勝を総なめにしてきましたね。

「中学生名人を取ったときは女性では史上初ということで取り上げていただいて自信になりました。ただ、重圧にもなって。女流の大会では負けられないというか、優勝候補として注目されてきました。それがプレッシャーに感じていたんですけど、そういった中で結果を出せたのはよかったと思います」


2018年、第43回中学生名人戦で優勝(左から2番目)。同大会で女子の優勝は史上初(提供:日本将棋連盟)


2018年、第39回全国中学生選抜女子の部でも優勝した(提供:日本将棋連盟)


●アマチュア時代から独自の力強い指し回しが有名でしたね。奨励会経験のある鈴木英春さんに師事していたことが影響していますか。

「はい。私は富山県の出身で、英春先生がお隣の石川県金沢市で『晩成塾』という教室を開いていました。北陸の強い子はその教室に通うことが多く、富山県代表やその先の女流棋士を目指すなら、そこにいくのがいいかなと思って。通い始めたのは9歳のころです」


金沢市の道場「晩成塾」を主宰する鈴木英春氏。元奨励会三段で英春流と呼ばれる独自の戦法を使う

●鈴木英春さんは「英春流」といった独自の力戦を得意にされています。どんな指導を受けていたのですか。

「個人的に一対一で教わることももちろんありましたけど、英春先生の教室で他の生徒とたくさん指すことで切磋琢磨して勉強してきました。他には詰将棋や棋譜並べなど、基礎的なことをしてました。私も英春流を指していたので、英春先生の棋譜を参考にすることが多かったです。プロの将棋は羽生先生(善治九段)の棋譜を並べていました」

●鈴木英春さんとは「激レアさんを連れてきた」に出演されていましたね。反響は大きかったのではないですか。

「恥ずかしかった記憶しかないので黒歴史だと思っていて(苦笑)。まぁでも、なかなか出られる番組ではないですし、テレビを見て知ってくださったという方も多いので、いまとなってはよかったのかもしれません」

●将棋はお父様に教わったそうですね。大学時代は将棋部に所属するほど将棋がお好きだったとか。

「父に将棋のルールから教えてもらいました。覚えたてのころに父がわざと負けてくれていたんですよ。父に勝つことで面白さを感じてのめり込みました。ゲームなどの勝負事をするのはそれが初めてでしたし、一対一の勝負で父に勝てたのがすごくうれしくて。それが大きかったのかなと思います」

●未蘭(みらん)という名前がとても華やかですし、響きがすごくすてきですね。名前の由来が気になります。

「両親の新婚旅行先がイタリアのミラノで、そこからミランという名前になりました。ミラノにはまだいったことがないので、いつか訪れてみたいです」
 

師匠や先輩たちとの交流

●野原さんの師匠は森内俊之九段です。どういったいきさつで門下生となったのですか。

「冒頭でお話しした倉敷藤花戦でベスト8に入る前でした。女流棋士になるには師匠が必要なので、どの先生にお願いすべきか考えていたときに、師匠の活躍をABEMAトーナメントの中継で観ました。棋風なども含めて、弟子になりたいと思ってお手紙を書かせていただきました。お返事には『まずは会ってみましょう』と書かれていました。その手紙で断られてもおかしくないと思っていたので、すごくうれしかったです」

●森内門下に入門してから師匠にはどんなことを教わっていますか。

「具体的なことや将棋の面での指導というのはないんですけれども、やはり師匠のためにも頑張らないといけないといった気持ちは常にあります」

●師匠に棋譜を見てもらうことはありますか?

「師匠は私の棋譜は見てくださっているとは思うんですけれども、特にダメ出しをされるということはないです」

●YouTubeチャンネル「森内俊之の森内チャンネル」は観ていますか?

「はい、いつも楽しく拝見しています。環那先生(鈴木女流三段)との掛け合いが面白いですよね」

●21年8月、第29期倉敷藤花戦で準決勝に進出し、女流初段に昇段しました。挑戦者決定戦では加藤桃子女流三段と対戦しました。その直後に行われたABEMAトーナメントの団体戦で同じチームの一員として参加することになりましたが、どんな心境で対局に臨みましたか。

「まずは挑戦者決定戦までいきたいという気持ちが強かったので、すごくうれしかったです。相手が桃子さんということで少し複雑ではあったんですけれども。挑戦者決定戦の対局は負けてしまいましたけど、のびのびと指すことができたのかなと思います」


2021年、第29期大山名人杯倉敷藤花戦では挑戦者決定戦で加藤桃子女流三段と戦い、あと一歩まで追い詰めた。この将棋で記録を取った香川女流四段と後のABEMAトーナメントでチームを結成する

●加藤女流三段からの指名は実力が認められた証ですね。

「正直、自分が選ばれるわけがないと思っていました。ですのでドラフトの日は知っていたけど気にしていなかったんです。桃子さんからのラインが入っていたので見てみたら選んでいただいた報告で。選ばれるなら事前に連絡があるのかなって私は勝手に思っていたのでびっくりしました。アマチュア時代の実績を買っていただいたんですね。うれしかったですし、頑張ってきてよかったです」

●ABEMAトーナメントの団体戦は加藤桃子女流三段がチームリーダーで、香川愛生女流四段と野原さんの3人で戦いました。どんなチームでしたか。

「いちばん仲がよかったというか、雰囲気がいいチームなんですよ。私が19歳なのでお二人とは10歳近く離れているのですが、本当に優しくて。甘えることができたのでのびのび指せましたし、それが優勝につながったのだと思います」

●チームの監督は渡辺明名人が務めました。緊張感はいかがでしたか。

「私も最初はすごく緊張していて。どんな厳しいことを言われるんだろうと心配していたんですよ。でも負けた将棋では『ここはよかったよ』とか『こうしたほうがいいよね』っていう優しいアドバイスをいただけて。トップ棋士の考え方にも触れることができましたし、すごく成長できたと思います。渡辺名人が監督で本当によかったです」


 

盤外でのリフレッシュ

●野原さんはTwitterで自分の情報を発信していて、普及面でもすごく貢献されていますよね。どういった経緯で始めようと思ったのですか。

「アマチュア時代からやってはいたのですが、やはりいまの時代はSNSを活用したほうがいいのかなと思いまして、積極的に利用しています。Twitterから情報を仕入れることも多いので有効に使っています」

●最近は観る将棋ファンが増えてきました。野原さんにとって〝観る将〟はどんな存在ですか。

「Twitterで応援メッセージをくださるのは観る将の方が多いのかなと思っていて。私は観る将や描く将の方のTwitterを見るのがすごく好きで。指すのが好きな人とは違った視点を持っていらっしゃるので、いつも楽しんでコメントを読んでいます」

●渡辺名人と明治神宮球場で野球観戦をしている様子が名人のTwitterに載っていましたね。野球観戦にはよくいかれるんですか。

「スタジアムには渡辺先生といったことしかないんですけれども、試合結果や内容はテレビやアプリなどで毎日チェックしています」

●最近になって東京ヤクルトスワローズのファンになったそうですね。

「東京オリンピックの野球が面白くてプロ野球の試合を見るようになりました。富山県出身の内山壮真捕手や石川県出身の奥川恭伸投手といった北陸勢を応援していた中で、ABEMAトーナメントが始まりました。渡辺先生が監督ということで、その話をしたら『もうヤクルトファンになっちゃえ』といわれまして。それがきっかけですね」


神宮球場で野球観戦。地元・富山県出身の内山壮真選手のファン(提供・内田晶)

●渡辺名人と観にいった試合では、村上宗隆選手がホームランを打ちました。いいタイミングで観戦しましたね。

「村神様がホームランを打った瞬間の音が他の選手と明らかに違うんですよ。迫力がすごすぎて楽しかったです!」

●他の趣味はありますか?

「野球以外は映画鑑賞です。ダニエル・クレイグが好きで、ダブルオーセブンシリーズを観ています。英春先生の自宅に伺ったときに、たまたまテレビで流れていたんです。それを田中沙紀女流1級と私とで見ていて、アクションシーンがカッコよくてはまりました」
 

大学生活と富山愛

●今年の4月から大学入学を機に東京で暮らすようになったそうですね。大学ではどんなことを学んでいますか?

「まだ1年生なので、多角的にいろいろなことを学んでいます。キャリアデザイン学部っていうちょっと珍しい学部です。ビジネスやライフといったキャリアに関わることを勉強しています」

●大学に入学して半年がたちましたが、東京での暮らしはいかがですか?

「自炊はバタバタしていますけれども、楽しいことのほうがいまは多いかな。テスト期間と対局が重なると大変ですが、友人と一緒にいることがすごい楽しいんですよね。勝負だけの生活だと苦しいと感じると思うんですけれども、私の場合は大学生活がいい息抜きになっています。友人とは一緒にカフェ巡りをしたり、浅草にいったりしています。さまざまな人に出会って大切な友だちができたので、大学にいってよかったです」

●差し支えなければどんなタイプの異性に魅力を感じるか聞いてみたいです。

「男らしい人が好きですね。女々しくないっていうか、自分の意見を言ってくれる人がいいです」

●故郷の富山を離れることに寂しさはありましたか。

「富山を離れるまでは早く東京にいきたいっていう気持ちが強かったんですけど、いざきてみると、富山のお寿司が食べたくなったり実家に帰りたくなったり、そういった寂しさはありますね」

●高校卒業まで過ごしてきた富山ではどういった生活をしていたのですか。

「うーん、難しいですねぇ。普通の高校生らしい生活を送っていました。何だろう、変わったことはしてなかったんですけど、山や海に囲まれているので、自然豊かなところで幼少期から育ってきたのは都会にはない魅力でしょうか」

●その自然豊かな富山県の地元愛について語ってください。

「地元愛はですね、東京にきたときは富山は何もないと思っていたんですけれども、何もないのが逆によかったんだなと感じています。何もないっていってもやっぱり富山にはおいしい料理や美しい自然がたくさんあって。物足りなかったんですけれど、いまとなっては富山がすごくいいところだなって感じます」

●個人的には好きな富山飯をぜひ聞いてみたいです。

「やっぱりお寿司はおいしいと思います。好きなネタですか? 私はブリですね。お寿司のほかには白エビ丼もすごくおいしいですよ」


 

4強を打破できるように


●野原さんの将棋についてお聞きします。ご自身の棋風と持ち味を教えてください。

「やっぱり序盤、中盤というのは独自性のある展開を目指していきたいと思っています。どちらかというと、攻めよりも受けを大事にしています。師匠のような将棋を指すのが目標ですので、そういうところを見ていただきたいです」

●野原さんが考える理想の将棋とは?

「難しい質問ですよね。すごい短手数で勝つというのも魅力ではあると思うんですけれども、やっぱり自分の独自性のある将棋を指すことです。相手もそのレベルにあって名局といわれる棋譜ができるのが理想なのかなと思います」

●さらに強くなるためにはどういった取り組みが必要だと考えていますか。

「やっぱりトップの先生は実戦経験が違うと感じます。勉強量もあるとは思うんですけれども、2択を迫られたときの正解率がやはり自分とは全く違うなと痛感します。ですのでそういったところをもっと磨いていければと思っています」

●AIをどういった形で研究などに取り入れていますか?

「私は序盤が独特なので、評価値を気にしながらいろいろと試しています」

●AIの出現によって勉強方法や取り組み方はどう変わりましたか。

「私はAIがない時代が長いわけではなく、どちらかというとAIがある時代しか知らないんですよ。その違いというのがわからないんですが、AIが出てきて序盤からの周到な研究がより一層大事になってきたのかなと感じます」

●デビューして2年がたちました。これまでを振り返っていかがですか。

「すごくあっという間の2年間でした。もっとこうしていればよかったっていうことは多いですけど、それを悔やんでも仕方がないので、過去の失敗をプラスに変えるように頑張るしかないです」

●意識する女流棋士やライバルだと感じる存在はいますか?

「特に意識している女流棋士はいないんですけれども、やはりトップには勝っていかないといけないと思うので、そういうところを目指してはいます」

●女流棋界は里見香奈女流五冠、西山朋佳女流二冠のツートップを筆頭に、伊藤沙恵女流名人や加藤桃子女流三段を中心に激しいタイトル争いが展開されています。野原さんもこの戦いに食い込みたいですね。

「4強といわれるのは仕方がないというか、実績や結果を見ても、いまはそういう状況だと思います。自分が4強を打破できるように頑張らなくてはいけないなと思っています」

●里見香奈女流五冠と西山朋佳女流二冠のタイトル戦を見て、どういった印象を受けますか。

「二人の将棋は相振り飛車ということで私には知識があまりないんですけれども、里見さんと西山さんだけの世界という感じですよね。自分が活躍して二人の世界を壊したいという思いは持っています」

●今後の目標を教えてください。

「普及面も大事ですので頑張っていきたいんですけれども、やはりタイトルを取れるような女流棋士になりたいです」

●最後にお聞きします。野原さんにとって将棋とは何ですか?

「将棋とは……、いまの自分にはなくてはならないものなのかなと思います」
 

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