【将棋世界 対談】 八代弥七段×有馬佳奈さん(2024ミス日本「海の日」)|将棋情報局

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【将棋世界 対談】 八代弥七段×有馬佳奈さん(2024ミス日本「海の日」)

※本対談は将棋世界2024年12月号「くもんのスタディ将棋で将棋を始めよう」八代弥七段×有馬佳奈さんのフルバージョン版です。

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【将棋世界 対談】八代弥七段×有馬佳奈さん(2024ミス日本「海の日」)

 

対談者プロフィール

有馬佳奈さん
2024ミス日本「海の日」。東京大学工学部航空宇宙工学科。現在はJAXAでリブレット構造の研究をしている。趣味の将棋で得意戦法を飯島流引き角戦法と答えたことをきっかけに“引き角女子”として話題になった。

八代弥七段
1994年3月3日、静岡県の生まれ。青野照市九段門下。2012年4月四段、2019年4月七段。2017年2月第10回朝日杯将棋オープン戦で棋戦初優勝。第44回将棋大賞で新人賞を受賞した。
 

スタディ将棋30周年


――KUMONのスタディ将棋が発売30周年を迎えました。八代七段も有馬さんも子どもの頃にスタディ将棋をお持ちだったと聞きました。有馬さんはスタディ将棋で将棋を覚えられたんですね。

有馬 そうなんです。母が買ってくれました。私が5、6歳の頃ですが、母はとても教育熱心で、囲碁、カルタ、オセロ、将棋と、思考力を養うゲームをいろいろと買ってやらせてくれまして、その中でこのスタディ将棋は駒の進む方向が書いてあって入りやすかったんだと思います。使っていた駒を持ってきました。小さい頃から使っていたので、駒に噛み跡がすごくて(笑)。

八代 ふふふ。谷川先生(浩司十七世名人)を思い出しますね。

有馬 谷川先生ですか?

八代 ええ。谷川先生が子どもの頃にお兄さんと将棋を指して、負けて悔しくて駒を噛んだという有名なエピソードが将棋界にはあるんです。

有馬 そうなんですね。母は将棋を指せないのですが、スタディ将棋は駒に矢印が入っていて将棋を知らなくても始められると思って購入したそうです。駒に動き方は書かれているんですけど、それでも最初は桂の動きがよくわからなくて、この点線の意味は何だろうって母と一緒に考えて。母はきっとわかっていたと思うんですけど、あえて私に考えさせて、「あ、これ跳び越えられるんだ!」って気がついたら「そうだね、すごいね」って褒めてくれて、それがうれしくてはまっていきました。

八代 そうなんですね。僕は祖父母からプレゼントでもらいました。もう20年くらい前になりますね。将棋自体は小学校1年くらいのとき、引っ越しをした際に父の使っていた将棋盤が出てきて、父が懐かしがって教えてくれて、3、4年生くらいまでは父と指していました。スタディ将棋をもらったのは5年生くらいのときで、離れて住んでいた祖父母が僕が将棋をやっているのを聞いて、気を利かしてわかりやすそうなものを選んでくれたんだなと思ったのを覚えています。実はその頃はもう奨励会を目指そうと考えていた時期で、駒の動かし方がわからないということはなかったですが、棋譜並べや研究、詰将棋を作ったりとかに使っていました。僕も実物を持ってきました。対局には使っていなかったんですけど、改めて見ると自分でもびっくりするくらい使い込んでいますね。

有馬 私は弟と妹と一緒にスタディ将棋でよく遊んでいました。小学生くらいになれば駒の文字も読めると思うんですけど、私は5歳か6歳だったし、弟もまだ3歳くらいだったので、矢印しかわからないんですよ。当時は金と銀をよく間違えていました。

八代 将棋を始めるのにいちばんの難しいところは、駒の動かし方を覚えるところですからね。そこが将棋の特徴であり、面白いところでもあるんですけど。金と銀の動きは覚えたてだと特に難しいですよね。

有馬 ルールも結構ありますよね。駒を成るとか、歩を打って詰ませてはダメとか。

八代 スタディ将棋には、ルールのわかる解説書と、スキルアップブックがついているんですね。将棋を始めるのに十分な内容ですね。私が小学生の頃は、将棋のルールだけ知ってるという同級生が結構いて、特に男子はそうでした。ただ、何を目標にして駒を動かすのかがわからないっていう人が多くて、それってルールを覚えた次のステップだと思うんですよ。だから最初に矢印で駒の動きを覚えながら、付属の冊子を読めば、一通りの基本的な考えが身につけられるのはいいですね。

――詰将棋なども収録されています。

八代 それもいいですよね。私も詰将棋は好きなのですが、詰将棋って親が小さいお子さんにやらせやすいんだと思います。将棋を覚えた頃は私も父と指したかったんですけど、やはり仕事があるので、毎回は相手をしてはもらえない。それでこれを読んどけ、って感じで詰将棋の本を渡されたりしました。いちばん最初に解いた詰将棋はいまでも覚えています。3手詰だったんですけど、どうやったら相手の王様を取れるのか全然わからなくて。でも答えを見たら、「そうか、そんな手があったのか」って思いもつかない手に衝撃を受けて、将棋にはまったところもありました。

有馬 詰将棋がお好きなんですね。私は詰将棋の本は2冊だけ持っているんですけど、ちょっと私もやってみたいなって思いました。

八代 長い手数のものをやるより、基礎的なものをたくさん解くのがいいかなと思いますね。

有馬 実戦と違って、隙間時間でできるものなので、これを機に詰将棋します。実は“引き角女子”でバズらせていただいたとき、友だちから「お前、どうすんの。弱いのばれるぞ(笑)」ってラインがたくさんきて。引き角女子って名前をいただいたからには強くなりたいです。

――ところで、有馬さんの駒、金の裏に「姫」って書いてありません?

有馬 そうなんです。私が5、6歳のとき、弟は3歳くらいで将棋がわかるかぎりぎりでしたけど、妹はまだ1、2歳で指せないので、みんなで遊ぶときは回り将棋をやっていました。3人で遊んで2人が王と玉になると3人目が取る駒がなくなるので、じゃあ姫だって。

八代 私も回り将棋はやっていました。弟と妹がいるんですけど本将棋はあまりやらなくて。回り将棋とかは細かいルールがわからなくても遊べますからね。有馬さんの周りでは将棋を指す方はたくさんいらっしゃったんですか?

有馬 子どもの頃は私、弟、妹、父母の5人でしたけど、高校生になって将棋部に入ってからは友だちも増えました。いまでも仲良くしていて、今度ディズニー行こうって話しています。覚えたきっかけはスタディ将棋ですけど、父の仕事が落ち着いてからは父とも指すようになりました。戦法という概念を父が持ってきて、居飛車とか振り飛車とかが私の中でできた感じです。といっても父は居飛車穴熊しか指さないんですけど、結局1回も勝てなくて、いつかは勝ちたいなと思っています。実は父よりも叔父のほうがもっと強いらしくて。あといとこも将棋部なので、3人倒さないといけないなと(笑)。


 

飯島流引き角戦法と出合う

有馬 そうだ、お会いしたら言おうと思ってたんでした。昨日は対局(9月25日、お~いお茶杯第66期王位戦予選)お疲れ様でした。次は三枚堂先生(達也七段)とですね!

八代 えっ、よくご存じですね。

有馬 実は高校生の頃、いちばん好きだった棋士が三枚堂先生で。なんか気づいたら推していました(笑)。NHK杯とかをたまに見ていたんですけど、雰囲気とか話し方とか。人柄もよさそうで。

八代 今度対局が終わったら伝えておきます(苦笑)。高校生時代は県代表として全国大会にも出られたんですよね。

有馬 はい。でも全然強くないんです。これ絶対に言わないとと思ってたんですけど、「引き角女子」でバズらせていただいて、そうしたら周りの方に何段なんだろう?とか、強いんだろうなとか、思っていただいているみたいなんですけど、本当に全然強くないんです。全国大会には野原さん(未蘭女流初段)とか宮澤さん(紗希女流1級)、和田さん(はな女流1級)といった女流棋士の方がたくさんいるんですけど。あのときチラッと見た方が女流棋士になっていて「挨拶しておけばよかったー」なんて思ったりしました。

八代 引き角戦法が好きってことは、対振り飛車をよく勉強されているんですね。ネットには地下鉄飛車が好きとも書いてありました。

有馬 友だちに四間飛車が多くて、四間飛車相手に何かできないかと考えていたところで飯島流引き角戦法を発見して勉強しました。地下鉄飛車のほうは飛車をひゅーんって動かすところが気に入っています。

八代 得意戦法に飯島流引き角戦法を挙げてもらって、飯島先生もすごく喜ばれていましたね。

有馬 あのときは夜、自宅に帰ってXを開いたら、飯島先生が引き角戦法について反応してくれていてびっくりしました。そのときは、私はまだ自分のアカウントは持っていなくて、これは作らないと!と思ったんですけど、バズったから作ったと思われたら恥ずかしいので(笑)、一回自己紹介をして、ちょっとたってから飯島先生にコメントをしました。

八代 ははは。飯島先生もうれしかったでしょうね。

有馬 私のほうが絶対うれしかったはずですけど、でも飯島先生もすごい喜んでくださいました。

八代 飯島流引き角も数は多くありませんが、プロの公式戦で羽生先生も指されていますし、そもそもプロ棋士でも自分の名前がついた戦法を持っている人ってすごく少ないですからね。飯島流引き角は、その中で周りに認めてもらって、升田幸三賞も受賞したすごい戦法ですが、それ以上に将棋を覚えた人が自分の戦法を知って指してくれるというのは棋士冥利に尽きると思いますよ。

有馬 飯島流引き角戦法をやっていてよかったと思いました。

――高校で将棋部は最初から入ろうと決めていた?

有馬 それが入ったのは2年生の5月で。入ろうと思ったのも1年生の冬でした。東大に行きたかったので帰宅部で勉強を頑張ろうと思っていたんですけど、いつもテストで競っていた友だちにテストで勝ったときにちょっとドヤ顔したら、「ありかなにテストでは負けたけど将棋では勝つからね」って。その子は将棋部だったんですけど、指したら勝っちゃって、そうしたら将棋部の部長から「おいでー」って言われて結局入ることになりました。

八代 ははは。将棋部は何人くらいいたんですか?

有馬 部長、副部長、三間飛車の子、その子、私……あとで後輩が3人入ったので、最後は8人になりました。部長が鹿児島県の高校生ではいちばん強い人で、あとは私より強い人が数人、そして同じくらいの子もいました。みんなでワーワーギャーギャー言いながら将棋を指して、部長が「何やってんだ、そんなんじゃないよ」と教えたり、詰将棋を解かせたりと、にぎやかにやっていました。

八代 将棋は物静かにやるイメージが強くて、自分も棋士を目指し始めた頃にそういう空気を肌で感じて衝撃的だったんですけど、やっぱり趣味で将棋をときはそうやって和気あいあいと楽しんでもらうのが活気があっていいなって思いますね。

有馬 いろいろと話をしながら将棋を指すのが楽しくて、私は結構思ったこととか声に出ちゃったり、リアクションも大きいので、静かに指すっていうのがすごく難しいというか(笑)。大会のときは頑張って口を閉じてますけど、自分が考えていなかった手を指されてまずいってなったとき、「ぁぁー」みたいなリアクションは結構していると思います。

八代 でもそれはプロでもありますよね、我慢しているだけで。「しまった」って。藤井さん(聡太竜王・名人)でもあるんじゃないですか、多少は。

有馬 見てみたいですね。NHK杯を見るときも、テレビに向かってワーワーギャーギャー言いながら見ていました。三枚堂先生が出ていたとき、勝ってほしいのに段々と形勢が悪くなって。そうしたら胃痛がひどくなっていって、騒ぎながら見ていたんですが、母から「見てられないから見なさんな」って。

八代 三枚堂さんが出てたから胃痛が起きたわけですね。

有馬 勝っていただければ大丈夫です(笑)。

八代 言っときます、今度。「NHKに出たら勝ちなさい」って。

有馬 次の三枚堂先生との将棋、応援どうしよう。

八代 ははは。それは三枚堂さんを応援してあげてください。私は嫌われてもいいんで、頑張ります(笑)。

有馬 どちらも頑張っていただきたいです。本当に両方を応援しててます。

八代 大学では将棋部に入らなかったのですか?

有馬 もともとは将棋部に入るつもりで、全国時代の友だちとも「将棋部入る?」とかって話をしていたんですけど。まさか東大に受かると思わなくて、東大の将棋部って絶対怖いじゃん、頭脳のトップみたいな人たちの将棋部なんて無理だってちょっとひるんじゃいました。同じクラスに鹿児島代表で出ていた方がいたので、たまに指したりはしていますが、やっぱり将棋部に入ればよかったかなってちょっと後悔はしてます。

八代 (スタディ将棋の駒を並べながら)駒が木でできているのも指し心地がよくていいところですよね。

有馬 そうですね。母が木が好きで、スタディ将棋も木目がきれいなのが気に入っていて、とても大事にしていたそうです。幼稚園時代の私がそこにお絵描きをしちゃっていたみたいですけど(笑)。

八代 自分も使っていたスタディ将棋が30周年と聞くと感慨深いです。将棋でこれほどのロングセラー商品があるのはうれしいですね。






スタディ将棋を指しながら

――スタディ将棋を使って一局指していただきましょう。せっかくなので平手で有馬さんは飯島流引き角戦法、八代七段はしっかり目の手心を加える感じでお願いします。

有馬 将棋が強い方って皆さん、指し方がきれいですよね。駒を指先でつまんでパシッて指すのとか高校時代に教えてもらったんですけど、難しくていまだにできてません。

八代 確かにどうやってできるようになったか、自分でもあんまり覚えてないですね。学生時代に授業中、先生の話を聞きながら消しゴムを使ってパシッとやっていたのは覚えていますけど。


八代七段は▲6五桂(△同桂なら▲6三歩成)と指させようと図の局面に誘導したはず。しかし有馬さんは▲5七銀。以下△7二金上▲6六銀△5四歩▲5五歩と八代七段の想定を上回る好手でポイントを積み重ねる


八代 ▲5七銀~▲6六銀はすごくいい手です。プロなら皆、間違いなくいちばんいい手って言います。

有馬 よかったです。変な手を指したらどうしようって思っていました。将棋部だと変な手を指すと周りが「バーカ、バーカ」って(笑)。

八代 ははは。けっこうしっかり言うんですね。


▲6三金に5三の金をかわされて少し悩んでいた有馬さんだが、ここで▲7三金がうまいさばき。以下△同角▲6五桂△5一角▲6三歩成と、と金を作って攻めがつながった


八代 たったいま打った、6三の金ですが、いなければ歩が成ることができます。スムーズにと金を作れれば成功ですね。

有馬 はい。あ、食べてもらっちゃえばいいんですか?

八代 ふふ。かわいい言い方ですね。

有馬 将棋の駒が取られるのって「食べられる」って言わないですか。もしかしたら始めた幼稚園の頃だったから、母が食べるって表現していたのかもしれないです。私が食べるって言うと皆、「ははん」って笑うんですよ。



(終局。感想戦しながら)

有馬 ちょっと話がずれちゃうんですけど、ずっと誰かに話したいと思っていたことがあって、私がいま入ってる研究室が大山先生って方が教授なんですけど、その前は藤井先生って方が教授をされていて、大山と藤井ですごいなと。

八代 それは大学での研究室?

有馬 いまはJAXAのほうで研究させていただいていて、そこの先生方です。

八代 そこに引き角女子が入ったんですね(笑)。

有馬 そうなんです。面白いなーって一人で思っていたので、ずっと誰かに言いたかったんです(笑)。

八代 ドローンを作れるんですよね。それも研究しているんですか。

有馬 ドローンに関しては、作れるというか、専門家というわけではなくて、ドローンの大会にいったというのをミス日本の大会に出るにあたってアピールしていた部分なんです。専門分野は飛行機の周りの空気の数値シミュレーションをスパコンでカタカタしているみたいな感じです。

(対談を終えて)

八代 全然話が変わるんですけど、『推しの子(※)』のアニメに同じ名前の子が出てきますよね。観ました(笑)。
※ヤングジャンプで連載中の人気マンガで、対談時はアニメ第2期を放送中。主要キャラクターの一人が「有馬かな」

有馬 ありがとうございます(笑)。マンガで最初に見たときにびっくりしたんですけど、まさかここまでハヤると思っていなくて。去年はネット流行語の百選にも載せていただいて。うれしいです。

八代 結構、好きなキャラクターです。ちょっとこう斜に構えたような感じとか。インタビューで見たんですけど、有馬さん、ピーマン体操を踊れるんですか?

有馬 そうなんです。「単位を落としたらピーマン体操を踊れよ」って友だちに言われて。で、本当に落としちゃって。

八代 ははは。ちょっと罰ゲーム的な感じで覚えることになったんですね。

有馬 でも推しの子のピーマン体操踊れるの?って感じで話題にできるのでうれしいです。

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