アラカルト 林檎職人

常に"先"を見る稀代の建築家「吉村靖孝」

文●山田井ユウキ写真●黒田彰

アップル製品を使いこなすプロフェッショナルたち。彼らの仕事場にフォーカスし、その舞台裏を取材します。

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( 職人とその道 )

 

吉村靖孝建築家/早稲田大学教授

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1972年愛知県豊田市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻修了後、1999年に文化庁在外芸術家研修員としてオランダの建築事務所「MVRDV」に所属。2005年、吉村靖孝建築設計事務所を設立し、多数の作品を発表する。主な作品に「フクマスベース」「中川政七商店新社屋」「Nowhere but Sajima」など。「ビヘイヴィアとプロトコル」(LIXIL出版)など著書多数。

 

 

オランダで得た学び

日本を代表する建築家、吉村靖孝氏。既存の枠にとらわれない設計スタイルで数々の名建築を手掛け、現在は早稲田大学の教授としても活躍している人物である。

吉村氏の建築家としてのルーツを辿るとき、いくつか外せない出来事がある。1つは彼が学生時代、1995年に恩師と共に取り組んだ「せんだいメディアテーク」のコンペだ。このコンペでは、これから発達するテクノロジーを使ってできる新しい図書館像が求められた。当時は携帯電話黎明期で、インターネットすら普及しているとは言いがたかった時代。そんな中、吉村氏が提案したのは、モバイル端末で館内のナビを行うという当時としては革新的な図書館だった。

「本の場所が検索できるなら、同じジャンルの本を一箇所にまとめておく必要がなくなります。すると、目当ての本の隣にまったく違うジャンルの本が並んでいるという状況が生まれ、本との偶然の出会いを演出できるのではという狙いがありました」

技術的に難しいという理由で採用こそされなかったが、コンペでは2位を獲得。20年先を見据えたビジョンは高い評価を得た。

そしてもう1つは、1999年から2年間、オランダの建築事務所で働いた経験だ。ここで吉村氏が学んだのは、歴史の積み重ねや地域の慣習、法規やマーケティングといった多様な観点から、建築と都市計画に取り組むという考え方。建築と敷地を分離するのではなく、関連する要素として捉え影響を与え合うという考え方に吉村氏は大きな刺激を受けたという。

帰国後、吉村氏は次々にユニークな作品を発表していく。たとえば2009年に手掛けた「ベイサイドマリーナホテル横浜」は、建築コストをいかにして下げるかという課題に取り組んだプロジェクト。コンテナ型のユニットを海外で生産し、日本で組み合わせるという斬新な手法を採用したことで大きな話題を集めた。

また、2014年に手掛けた「ウィンドウハウス(Window House)」は、思わず二度見してしまうような変わったデザインの住居だ。眼前に広がる海の眺望を遮らないよう、建物の両壁に巨大な「窓」をつけることで、道路側からも海を見通せる機能を持たせた。

そして2016年の「フクマスベース」は、千葉県市原市にある幼稚園の新館。既製のテント倉庫の中に木製の構造物を組み込んでおり、豊かな空間設計は子どもたちの想像力を掻き立てるよう工夫されている。

いずれの作品においても共通しているのは、ただ格好良いだけや機能的に優れているだけの建物ではないということ。周辺環境との調和、敷地が属する土地の歴史、地元の慣習などをトータルで考えてデザインする吉村氏は、常に建築と都市のあり方を問い続けているのだ。

 

アップルによる恩恵

そんな吉村氏のクリエイティブワークに欠かせないのが、学生時代からのつき合いとなるアップルのプロダクトである。最初の出会いは1994年、大学3年生の頃だった。

「当時、建築の世界はまだまだアナログだったのですが、いずれはコンピュータの時代が来ると思ってPower Mac 6100を買ったんです。設計ソフトは「Mini
CAD」(現「Vectorworks」)を使っていました」

 果たして、吉村氏の読みは的中した。90年代後半からインターネットが爆発的に普及。Macはもちろん、iPhoneやiPadといったデジタル機器により仕事のやり方は大きく変わっていった。建築業界においては図面作成などまだ手書きが主流だというが、それ以外の面ではやはりデジタルは欠かせないツールとなっている。

現在、吉村氏が愛用するのはiPhoneとMacBook、12インチのiPadプロ、そしてアップルペンシルである。当初は用途に合わせてデバイスを使い分けていたが、最近はどのデバイスでも同じ作業ができるようになったという。「おかげで空き時間がなくなりましたね。空港の待ち時間でも仕事ができてしまうので」と吉村氏は苦笑する。




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