教育・医療・Biz iOS導入事例

iPhoneやApple Watchと連係! 運動するほど安くなる生命保険

文●牧野武文

Apple的目線で読み解く。ビジネスの現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

iPhoneやApple Watchなどを活用し、日々の健康活動を評価する住友生命の保険プログラム「Vitality」が登場した。加入者は、健康診断や運動といった健康活動を継続することで、最大30%の保険料割引を享受できる。しかし住友生命の狙いは、お得な保険を提供するだけではなく、生命保険の"存在意義"を変革していくことにあった。

 

運動するほど保険料が割引に

日常、生命保険のことを考えたり、家族で話題にする機会はそう多くない。なぜなら、自分が大きな病気になる、死亡するといった明るくない話題について考えなければならないからだ。

そんな生命保険に対するネガティブなイメージを、住友生命保険相互会社(以下、住友生命)が変えていくかもしれない。同社が今年7月から提供している「バイタリティ(Vitality)」は、健康診断や運動といった加入者の健康活動を評価し、それに応じて保険料が変動する新しい保険プログラムだ。

バイタリティは従来の生命保険契約と組み合わせる形で加入する。月額864円が必要になるが、加入した時点で元の保険料が15%割引になり、そこから健康活動の実績に応じて割引率は最大30%にまでなる。ただし、健康活動をしないと割引率は下がっていき、元の保険料よりも高くなってしまう可能性もある。

バイタリティが推奨する健康活動は、「健康状態の把握」と「健康状態の改善」の2種類だ。それぞれの活動には獲得ポイントが定められており、加入者はそのポイント数に応じて、毎年「ゴールド」「シルバー」「ブロンズ」「ブルー」のステータスに分類される。このステータスによって、保険料の割引率が上下するという仕組みだ。

「健康状態の把握」とは、自身の身体に関するオンラインチェックや健康診断、予防接種、がん検診などを受けることを指す。いずれも専用アプリで入力したり、診断書をアップロードすることでポイントを獲得できる。

一方、「健康状態の改善」とは日々の運動のことを指す。歩数や心拍数、所定のフィットネスジムへのチェックインなどによって、こちらも基準に照らしたポイントを獲得できる。こうした運動データは、スマホやウェアラブルデバイスから専用アプリに自動収集されるため、わざわざ入力する必要はない。

住友生命はこのほか、アップルウォッチ利用者専用の「アクティブチャレンジ アップルウォッチ」というサブプログラムも提供している。これは、アップルウォッチを購入して運動すると、24カ月間で最大2万4000円分の「バイタリティコイン」を獲得できるというもの。このバイタリティコインは来年1月からアマゾンや楽天などの各種電子マネーギフト等と交換可能になる予定だ。

利用するアップルウォッチはバイタリティ会員専用ページから新規で購入する必要があるが、ここでは最新のシリーズ4も取り扱っている。新しいアップルウォッチを使って、楽しみながら運動を続けたい人には打ってつけのプログラムといえよう。

 

 

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Vitalityの全体像。オンラインチェックや健康診断、日々の運動によってポイントが付加され、その獲得ポイントによってブルー~ゴールドの4つのステータスが割り当てられる。このステータスに応じて、保険料が増減するという仕組みだ。

 

 

行動経済学の知見を応用

バイタリティは、加入者が運動するモチベーションを保てるよう、非常によく考えられた保険である。

「バイタリティには、行動経済学から得られた知見が活用されています」(Vitality推進室長・雨宮大輔氏)

行動経済学とは、人間の合理的ではない行動を分析する学問分野。たとえば、「人は1年後の大きな報酬よりも、今日の小さな報酬を選びがちである」など、人間心理の不可解で非合理的な行動を体系的に解き明かしている。

「行動経済学では、人は得をするより損を回避することを重視して行動するといわれています。保険料の割増はペナルティという考え方ではなく、損を避けたい人間の真理をついて運動を始めるきっかけにしてもらうことが目的です。私たちとしては、加入者全員に健康になっていただきたいのです」

また、バイタリティは各種特典(リワード)も充実している。フィットネスジムやスポーツ用品、旅行サービス、ヘルシーフードなどを提供する各企業と提携し、加入者は健康活動に応じて割引で関連商品を購入できる。このような特典も「モノで釣る」ということではなく、日常的に利用しやすい特典で運動を習慣化させるための仕組みだ。

では、住友生命はなぜこのような健康増進型保険を提供するに至ったのだろうか。

「私たちは、社会的に大きなテーマとなっている健康問題を背景に、生命保険の存在意義を問い続けてきました」

その中で浮かび上がってきたのが、従来の「リスクに備える」保険ではなく、健康プログラムと組み合わせて「リスクを低減させる」保険だったという。

ところが、この健康増進型保険の開発は簡単にはいかなかった。新しい保険商品を販売するには、事前に金融庁の認可を受けなければならず、その審査には健康活動と疾病率に関する統計データの提出が求められる。これを自力で用意するには、膨大な時間と手間がかかってしまう。

そこで住友生命が選んだ道が、健康増進型保険のパイオニアである、南アフリカのディスカバリー社と共同開発することだった。ディスカバリー社は、このバイタリティを現地の保険会社と提携する形で、すでに17の国と地域で提供していたのだ。

この共同開発という選択は、住友生命に大きなメリットをもたらした。金融庁への認可も、ディスカバリー社の持つ膨大なデータを活用することで可能になった。また、ディスカバリー社は1カ国1社としか提携しない方針をとっているため、バイタリティは住友生命にとって、ほかの国内保険会社をリードできる戦略商品にもなったのだ。

 

 

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住友生命Vitality推進室、雨宮大輔室長。Vitalityは一見、割引や特典に目がいってしまいがちだが、狙いは健康活動のきっかけ作りと習慣化にあるという。Vitalityの詳細は下記特設サイトで確認できる。(A http://vitality.sumitomolife.co.jp/)

 

 

生命保険がポジティブに変わる

 「バイタリティを導入したことで、お客様とのコミュニケーションも大きく変わりました。従来型の保険では、加入後はなかなかお客様とお話しする機会がありませんでした。ところが、バイタリティでは毎週何らかのコミュニケーションのきっかけがあるのです」

運動をしていない加入者には、担当者の「このままでは保険料が上がってしまうかもしれません」という連絡をきっかけに、健康や将来の生活設計について話す機会が生まれる。これは従来の生命保険にはあまりなかったポジティブなコミュニケーションだ。

さらに、バイタリティは収益的にも大きなメリットがあるという。運動が習慣化することで契約継続率が高くなり、解約が少なくなるのだ。また、加入者が健康になることで「万が一」の事態が根本的に減り、保険金の支払い機会が減少することも見込める。より多様な特典や割引を実現することで、加入者の裾野を広げていくこともできる。

将来的に、バイタリティは保険会社と加入者の関係を大きく変えていくだろう。

「お客様から『ありがとう』と言われることは今までもありました。でも、それはお客様に不幸な出来事が起きたあとの『ありがとう』なんです」

その「ありがとう」が、これからは「健康になるきっかけを作ってくれてありがとう」に変わっていく。

「私たちもお客様と一緒になって、心から喜ぶことができるようになりました」

従来の生命保険は、将来のリスクに備え、今を生きるためのものだった。その従来型保険にバイタリティを新たに組み合わせることで、生命保険は将来のリスクを減らし、“未来”を生きるためのものになるのだ。

 

icn_Vitality.jpg Vitality

【作者】SUMITOMO LIFE INSURANCE COMPANY
【価格】無料
【場所】App Store>ヘルスケア/フィットネス

 

 

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Vitality会員専用アプリには日々の健康活動が同期され、ポイントが自動的に溜まっていく。自身の健康状態を把握するオンラインチェックなどもアプリ上で行える。

 

 

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Vitalityの提携企業一覧。これら企業はいずれもVitalityの趣旨に賛同して、健康に資する商品の割引などの特典(リワード)を提供している。(住友生命ホームページから抜粋)

 

 

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Vitalityにはサブプログラム「アクティブチャレンジ Apple Watch」も用意。Apple Watch新規購入者限定で、通常の運動ポイントに応じて毎月最大1000円分の「Vitalityコイン」を獲得できる(24カ月継続)。

 

住友生命「Vitality」のココがすごい!

□iPhoneやApple Watchで保険加入者の運動データを自動収集
□健康診断や日々の運動の積み重ねを保険料変動という形で毎年評価
□「行動経済学」を応用し、運動を継続できる仕組みを確立



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