教育・医療・Biz iOS導入事例

口座直結の新しいSuicaが担う「銀行の使命」

文●牧野武文

Apple的目線で読み解く。ビジネスの現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

みずほ銀行は今年8月から、Apple Payに対応した電子マネー「Mizuho Suica」の提供を始めている。 その最大の特徴は、クレジットカードを介さずにみずほ銀行の口座から直接チャージして利用できること。 同行開発チームに話を聞いてみると、彼らが思い描いているのはサービス提供の「先」にある遠大なビジョンだった。

 

銀行口座直結のスイカ誕生

アップルペイ(Apple Pay)にJR東日本の電子マネー「スイカ(Suica)」を入れて使っている人は多いと思う。これを使えば、スイカと提携している全国の鉄道やバスなどもiPhoneだけで乗れるようになる。また、最近増えてきたカフェやコンビニなどのスイカ決済にももちろん対応し、エクスプレスカードに指定しておけばタッチIDなどの認証も不要。オートチャージも設定でき、数ある決済手段の中で最強と言っても過言ではない。

8月1日、みずほ銀行はJR東日本と協同して、新たな電子マネー「みずほスイカ(Mizuho Suica)」の提供を開始した。これはiOSアプリ「みずほウォレット(みずほWallet)」の中から仮想スイカカードを発行できるというもので、カードはアップルペイ内に格納され、そのままスイカとして鉄道、加盟店で支払いに利用することができる。発行料、使用料などは無料だ。

ここで誰もが思う素朴な疑問が「普通のスイカでいいんじゃない?」というものだろう。みずほスイカが従来のアップルペイスイカと異なるのは、「みずほ銀行の口座と直結している」という点だ。クレジットカードを介することなく、みずほ銀行の口座から直接スイカにチャージできる。つまり、「みずほ銀行口座ありき」のスイカなのだ。

  「私たちの発想の起点は、スイカをやりたい、アップルペイをやりたいということではありませんでした。もっと言えば、キャッシュレスをやりたいということでもありません」(デジタルチャネル開発チーム参事役・西本聡氏)

どうすれば利用者がみずほ銀行の口座をもっと便利に、快適に使えるのか。そこがみずほスイカ提供の出発点になっているという。

 

 

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Mizuho Suicaは「みずほWallet」アプリで即時発行でき、みずほ銀行口座から直接チャージできる。もちろんApple WatchでもApple Payに追加して利用可能だ。

 

 

乱立する決済手段の救世主に

銀行口座のお金を使うとき、現金の場合はATMに行って現金を引き出さなければならない煩わしさがある。クレジットカード決済をすればいいのかもしれないが、クレジットカードはECサイトや高額決済時に限定し、日常的な少額決済では使いたくないという人も多い。JCBの「クレジットカードに関する総合調査2017年度版」によると、日本のクレジットカード保有率は85.1%。利用状況の上位は「オンラインショッピング」「携帯電話料金」「スーパーマーケット」「電気料金」となり、ネット決済や自動引き落とし的な利用がメインとなっている。

日常的な少額決済では電子マネーが多く使われているが、決済シーンでは利便性が高くても、チャージに関しては「銀行口座→現金→店頭チャージ」「銀行口座→クレジットカード→電子マネー」という複雑な経路をたどる。ポストペイ(後払い)やオートチャージ機能を使うにはカードブランドが限定されているケースも多い。乱立する規格種類とも相まって、いまだ不便さが残る状態だ。

そんな中、みずほスイカはこのような「クレジットカードや既存の電子マネーは今ひとつ使いづらい」という利用者の声に応えるというところからスタートしている。どのようなキャッシュレス決済であれば口座保有者にとって利便性が高くなるか。使いやすさを追求していった結果、「銀行口座直結」「スイカ」「アップルペイ」「カードレス」という要素にたどり着いた。それらを組み合わせることで、「銀行口座→電子マネー」というシンプルな経路を実現したのだ

 

 

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みずほ銀行デジタルチャネル開発チームの参事役・西本聡氏(上)と担当調査役・真田孝太氏(下)。銀行本来の使命は、個人の総合金融コンサルティング機能にあるという。

 

 

みずほスイカは併用を想定

みずほスイカはウォレットアプリの中で青色のカードとして表示される。スイカのイメージカラーである緑色ではない。

  「従来のスイカとみずほスイカを区別しやすくするために、みずほ銀行のコーポレートカラーである青色にデザインしてあります」

見逃しがちだが、ここはとても重要だ。というのは、みずほ銀行としては「みずほスイカを従来のスイカに置き換えて使ってほしい」と考えているのではなく、色を明確に区別することで「従来のスイカとみずほスイカを併用してほしい」と考えていることになるからだ。

従来のスイカには特有の機能がある。たとえば、定期券、グリーン券、スマートEXなどだ。現在のみずほスイカでは、このような付帯機能は利用できない。西本氏はこれについて、「みずほスイカ利用者の声を聞きながら、優先度の高いものからJR東日本と今後検討をしていきます」と言及している。

つまり現状では、従来のスイカはこれまでどおり交通系を中心に使ってもらい、みずほスイカは日々の少額決済を中心に使ってもらうということなのだ。

また、みずほスイカは便利に使い分けられる機能も有している。

「みずほウォレットアプリには、最大8枚のみずほスイカを登録できます。最近は複数の口座を使い分ける方も増えてきているんです」

たとえば夫婦で共働きの場合、それぞれの個人口座とは別に、夫婦で共用する口座を開設しておく。それぞれが毎月一定額をそちらに振込み、生活費の支払いはこの共用口座から行う。あるいは、住宅ローンなどの高額ローンを支払うための口座を開設しておき、ほかの引き落としなどによる資金ショートを防ぐようにしている人もいる。

従来は複数口座を管理しようとすると、印鑑と通帳を持って窓口に行ったり、ATMで複数回お金を出し入れしなければならず、とても現実的ではなかった。しかし、今はスマホから簡単に資金移動ができる時代。銀行口座を便利なツールとして利用する感覚の人が増えているのだ。

 

目指すのは総合金融コンサル

このように、日々の支払いの不便さを解決する手段として機能するみずほスイカ。しかしみずほ銀行としては、みずほスイカ単体で利益を出そうとは考えていないという。目的は、利便性の高いサービスを提供して、銀行口座の価値を向上させること。そして、口座利用者の経済的な不安をなくし、豊かな人生を送る手助けをすることなのだと語る。

「5年後10年後、お客様が豊かな人生を送るために、無理のない資産形成、資産運用をして余剰資産をつくるお手伝いをするのが、みずほ銀行が一番やりたいことなのです」

理想を言えば、「みずほスイカを普通に1年使ったら、なぜか10万円貯まっていた」という状態だ。その試みはすでに始まっている。みずほ銀行は家計簿アプリを提供する「マネーツリー(Moneytree)」や「マネーフォワード」と連携を深めており、銀行口座の支払い履歴を家計簿として可視化する仕組みをつくっている。家計の問題点が一目でわかるようになるため、それだけでも自然と無駄な支出が減っていくはずだ。将来は、このような分析にAI(人工知能)などを活用し、個別に最適な資産運用をアドバイスしてくれるようになるだろう。

  「ただ、私たちは銀行です。銀行ですから、お客様の資産を守るという安心・安全も極めて重要。お客様の声を聞きながら、1歩か2歩先を行く銀行でありたい。5歩先を行くのでもなく、0歩でもなく。お客様がこういうサービスが欲しいと思ったときに、先回りして用意してある銀行になりたいと思っています」

キャッシュレス決済の話になると「NFC vs QRコード」のような近視眼的な話題がどうしても多くなる。しかし、重要なのは「キャッシュレス社会にしてどうするの? 何をやるの?」ということだ。ただ紙幣が電子化されただけでは意味がない。みずほ銀行は、銀行口座を軸にすることで、個人の総合金融コンサルティングをやろうとしている。みずほスイカはその有力なツールの1つなのだ。

 

af_biz_sum_icon.jpgみずほWallet

【作者】Mizuho Bank,Ltd 【価格】無料
【場所】App Store>ファイナンス

 

 

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アプリでは口座の残高照会なども可能で、Mizuho Suicaへのチャージ手数料も無料。口座開設から発行まで、すべてがiPhone1台で完結する。

 

 

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みずほ銀行コーポレートカラーの青色が特徴的なMizuho Suica。Suicaと連携できたのは、メガバンクで唯一全国展開している同行だからこそ。

 

 

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「みずほWallet」アプリには、最大8枚のMizuho Suicaを登録可能。「買い物用」「交通費用」など、便利に使い分けられる。

 

Mizuho Suicaのココがすごい!

□クレジットカードを介さず、みずほ銀行口座から直接チャージできる
□発行からチャージ、支払いまで、すべてiPhone1台で完結する
□従来のSuicaと同様に、 全国の鉄道や加盟店で利用できる



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