2018.08.08
「なぜ今Macなのか」の理由と足りない「ミッシングピース」
Macの向こうから
「なぜMacなのか」。
この問いに対して、かつては明確な答えを持っていた人が多かった。しかし、現在はどうだろうか。あるいはこれからコンピュータを買う人が、ブランドやなんとなくという理由以外で、進んでMacを選ぶ理由とは何だろうか。
アップルは世界開発者会議「WWDC2018」の1週間後の6月14日、「ビハインド・ザ・マック(Behind the Mac)」広告を展開し始めた。フォトグラファー、プログラマー、ミュージシャンのインタビューとともに、Macがあるクリエイティブの風景が描かれている。
「Macは何かを作り出すための道具だ」。
伝えたいメッセージを読み取ることは容易だ。しかし、そんなメッセージをわざわざ言わなければならなくなっていること自体に、Macの窮状がうかがえる。
ビハインド・ザ・マックは完全なるブランド広告だ。登場人物の証言は間違いではなく、数多くのMacが創造の現場で活用されているのは事実だ。しかしブランド広告はそもそも新規ユーザに乗り越えられる程度のハードルを示唆し、既存のユーザのロイヤリティを高めて堀を深くするツールだ。
確かにティム・クック時代のアップルの戦略は、ブランド力のさらなる強化である。リンゴのロゴが特別なブランドになるまで、徹底的に磨き上げてきた。そのためには金属素材の開発、FBIの要求を突っぱねるプライバシー施策、100%再生可能エネルギー化、トランプ大統領のご機嫌取りに至るまで、あらゆることを抜かりなくやってきた。ブランド戦略は間違いではないばかりか、圧倒的に正しい。それがアップルが唯一持ち合わせる価値となり、表層を容易く真似る中国メーカーにコピーされない独自性だ。
それでも筆者は、ブランド広告を展開する背景には、現在のMacが真っ正面から勝負ができない自信のなさの表れがあると受け取っていた。
高い価格、自由度の少ないラインアップ、そしてPCと代わり映えしない性能…。差別化が難しいばかりか、価格の高さや少数派であるというネガティブな要素もつきまとう。
さらに言えば、そのブランド広告からも、アップルの自信のなさがうかがえる。そもそも、ビハインド・ザ・マックのエピソードに、なぜ初めからビデオや仮想現実のクリエイターが登場していないのか。現在のデジタルクリエイティブの世界に触れていれば、その不自然さを一発で見抜くことができるはずだ。
今もっとも伸びている分野での、Macの存在感のなさを反映している。そんなメッセージを発してしまっていたことに、アップルは気づいているのだろうか。
●Behind the Macキャンペーン
Appleは、Macを使用して創造的な仕事をする人々の姿を捉えた新広告キャンペーン「Behind the Mac」を展開している。写真家のブルース・ホール氏、ミュージシャンのGrimes氏、ルワンダのアプリ開発者、ピーター・カリウキ氏に加え、登場する人々の中には、アーティスト&インタラクションデザイナーとして知られる真鍋大度氏など、日本のプロフェッショナルの姿も見かけられる。 【URL】 https://www.apple.com/jp/mac/
Macが再び輝き始める
7月12日に発表された新しいMacBookプロはスペック中心の強化だった。そのためか、新製品発表イベントは開れず、WEBサイト上で新製品を披露するマイナーチェンジに留まった。しかし、この新モデルに対する反応は、過去2年の新モデルとは違っていた。そのニュースを受け取った人々は、新MacBookプロのパワーで押し切られたのである。
力不足が指摘されて「Pro」の称号がふさわしくないとまで言われてきた13インチモデルには、4コアのインテルCore i5が標準搭載され、処理性能は2倍になった。15インチは6コアのCorei9まで搭載でき、70%高速化された。そして13インチには最大2TB、15インチには最大4TBのSSDストレージを内蔵でき、15インチの最高スペックは、40万円近いSSDオプションのせいで、総額70万円を軽く超える。
ユーザは、MacBookプロにそうした刺激的な高性能を求めていた。冷静に考えれば4TBのSSDなど、選択しないかもしれない。しかし、最上位モデルとして存在していること自体、ブランドにとっては重要だ。
欧州自動車メーカーが、ポートフォリオに2000万円近い最上位モデルを用意し、レースに参戦しながら、300万円以下の車を中心に売っていることを考えれば違和感はない。そのメーカーの実力と、「自分が将来成功したら手にするかもしれない」という顧客自身の未来の提示が、強固なブランドを作るのだ。
もちろん、価格が高いから良いわけではない。スペックが高いことが価値ではないと、アップルも常々指摘してきた。しかし新MacBookプロの最上位モデルは、誰もが驚く明らかな性能と、それに伴う価格によって、存在することの価値を十分に発揮しているのだ。