アラカルト 3D MASTERS

株式会社キャステム「金属部品メーカーが3Dで新たなビジネスを創造」

文●栗原亮写真●黒田彰

自由自在に3Dデータを造形できるモデリングツールと3Dプリンタの登場は、個人のメイカーだけでなく既存の製造業にも大きなインパクトを与えた。老舗の金属部品メーカーが「Fusion 360」で生み出した新たなヒット商品とは。

 

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石井裕二 Yuji Ishii

デザインの感性を活かした金属アイテムをすぐに形にできます

ロストワックスとMIMという不思議な製法に魅力を感じ1995年4月に株式会社キャステムの金型製作部門に入社。直後にフィリピン工場の操業という大事業が開始され、移管する金型約1500点のメンテナンスをまかされる。その後、フィリピン工場、タイ工場での金型部門の起ち上げに携わり、約20年間金型部門の職長を務める。2015年より1台の卓上プリンタと部下1名とともに現職に就き、この春開設した京都のものづくりスペース「LiQ」の責任者を務める。

 

 

カープグッズに採用

「ものづくり」の街として知られる広島県福山市に本社を置く金属部品製造メーカーのキャステム。1970年の創業以来、「ロストワックス鋳造」と「メタルインジェクションモールディング(MIM)」という製法を駆使して、胃カメラなどの精密医療機器や電子機器に用いられる極小の金属パーツから小型船舶のスクリューのような一般産業部品まで、多品種小ロットで金属部品製造に取り組んできた。

石井裕二さんは、同社に入社してから現在まで金型製造部門に勤務してきた金属部品作りのエキスパート。2015年に鋳造の分野ではまだ珍しかった3Dプリンタを他社に先駆けて導入し、これまでとはまったく異なる発想の新規事業の起ち上げをまかされ、京都にものづくりスペース「LiQ」を開設することになった。オートデスクの3D制作ソフト「フュージョン360」との出会いも、そのことがきっかけだったという。

「これまで手掛けてきた無機質な金属部品の設計であれば手慣れたCAD/CAMでも構いません。しかし、3Dプリンタで何かを作り出すのであればデザイン性や有機的な形状を作れるソフトが必要です。当初は無償の123Dシリーズを使っていたのですが、フェイスブックのつながりでフュージョンが使いやすいと聞き、試用してから正式に使い始めました。また、新規起ち上げで予算や設備も潤沢ではなく、スタッフも数人程度だったので、パソコンがあればすぐ使い始められるのも好都合でした」

このフュージョン360を用いた新規事業は、ふとしたきっかけで意外な展開を見せる。

「営業に広島東洋カープのファンがいまして、自分専用のベルトのバックルを作りたいと言い出したんです。その際のリクエストが変わっていて、カープの“C”のロゴの中に好きな選手の背番号と名前を付け替えられるようにしたいと言うのです(笑)」

3Dプリンタで試作してシリコンゴム型を取りステンレスで鋳造したバックルの出来栄えは上々で、意を決して球団事務局に持っていったところ広島東洋カープ常務取締役・オーナー代行の松田一宏氏の目に留まることに。

「松田オーナー代行は『かっこいいね』と、ベルトを実際に身に付けてくれたんです。それで、背番号の交換システムはいらないけどぜひ製品化してほしいと言ってくださって。正規の球団ロゴデータもいただいて2次試作もすぐに完成し、トントン拍子で事が進みました」

ついには2017年のカープ公式グッズのカタログにも掲載され、初回生産の250個分は販売開始からわずか3分で完売という大ヒットを生み出した。

「思いつきから始まって、短期間に試作から商品化にこぎつけました。従来の製法では受注から設計・製造まで1カ月半程度ほどプロセスがかかりますが、この製法では極端な例では数日や数時間でできてしまうこともあります。フュージョン360がなければ、このようなスピード感での実現は不可能だったでしょうね」

現在発売中の「カープ坊や」のバックルの3Dモデリングを担当した田外さんは、CADはまったく未経験であったという。

「いきなり使ったことがないソフトを渡されて最初は困惑しました。でも、操作ガイドを見たりインターネットで調べたらだいたいの使い方がすぐわかったので、イラストを元に3Dデータを作成しました。カープ坊やの眉毛のデータを消してしまったのに気づかずに出力してしまったこともありましたが、フュージョン360は操作手順をすべて覚えてくれているので、いつでも戻って修正が加えられてとても助かりました」

 

フュージョンの変革

発足当時は数人程度であったスタッフも、カープグッズの成功を足がかりに現在は10名を超えるまでに規模を拡大。今ではフュージョンを初めて触ったスタッフも数日で完成品を作り出せる体制が整っているという。

「ちょうど先日配属された新人がいて、絵が描けるというのでフュージョンを与えてみたんです。すぐに作品を作ってみたいというので少しアドバイスをしたら、数時間後にはデータが完成していました。つきっきりでトレーニングしなくてもすぐに使いこなせるんですよね」

フュージョン360と3Dプリンタの導入により、受注を待たなくても自発的に営業が行えるようになったキャステムでは、ユニークなアイデアさえ出せれば新人であっても大ヒット商品を生み出すことが可能となった。今後は工学系出身者だけでなく、美術や造形のセンスを活かしたいスタッフの採用も増やしていきたい意向だという。

「金属部品製造業というと手堅いけれど、一般的にはあまりクリエイティブでないイメージも持たれていたように思います。しかし、3Dの工法はこうしたイメージを一変させるのではないでしょうか。いわゆる生真面目なものづくりの世界とアート的なものづくりが融合していく感覚が期待できます」

 

WORKS Digital Making in FUSION 360

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MAKING NOTE

(1)キャステムの新規事業として生み出された広島東洋カープのマスコット「カープ坊や」を象ったベルトのバックル。公式ノベルティグッズとして採用され、ファンからの人気アイテムとなっている。

(2)イラストから立体的な造形を手軽に作り出せるのもFusion 360の利点だ。このように曲面を多用したデザインは従来のCAD/CAMでは困難だという。

(3)マスターとなるパーツを3Dプリンタで出力後、シリコンゴムで型取りし、その中にロウ(ワックス)を入れて周囲を石膏状のセラミックで固める。それを熱することでワックスがなくなり、その空間にステンレスを流し込むというのがロストワックスの基本的な工法。バックルは数回の試作で完成度を高め、早期の商品化に結びついた。

(4)松田オーナー代行の目に留まるきっかけとなった、カープロゴのバックルを備えた「カープベルト」。バックルの部分が赤になった限定バージョンもある。

(5)CAD未経験者でも短期間で業務に利用できる製品を作り出せるようになった。コストや納期の削減以外にも、「取り扱う商品の幅が大きく広がったのがビジネスとしての魅力」と石井さんは語る。

(6)LiQではCTスキャンや3Dプリンタなどのデジタル技術と、鋳造といったアナログ技術をかけ合わせた方法で面白いものを生み出し続けている。無料見学受付中。住所:京都府京都市右京区西院平町22キャステム京都LiQビルTEL:075-325-1811 【URL】https://www.facebook.com/LiQCT/

 

 

Fusion 360をもっと詳しく知ろう!

Fusion 360は、3D CAD/CAM、レンダリング、2D図面作成などの機能を含んだ高機能な3D制作ソフト。アイデアの検討から本格的な設計まで「ものづくり」をするすべての人におすすめでき、3Dビギナーにとっても最適な選択肢だ。すべての工程はクラウドで管理され、Mac、Windowsのいずれも利用できる。基本は月額課金だが、学生・教職員など、非営利目的であれば無償で利用できるのも利点。同ソフトを用いた最先端のデジタルファブリケーションの事例も公式サイト内で確認できるので、まずはアクセスしてFusion 360の世界を知り、体験版をダウンロードしよう。

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