2018.07.17
テクノロジーの発達により、音楽の聴き方はもちろん、“出会い方”にも変化が生まれています。そんな中、SNS機能を巧みに活用して音楽情報を届けているのが、メディアレーベル「lute」です
サブスクリプションという“黒船”後の新しい音楽体験を作りたいと思っています。
lute株式会社 代表取締役社長
五十嵐 弘彦
1985年東京生まれ。高校・大学時代をニュージーランドで過ごし、帰国後ヒューマン・リソース系のス タートアップでの業務経験を経て、株式会社メディアジーンへ入社。WEBメディア「ライフハッカー」の編集部で編集・翻訳業務に従事する。その後エイベックス・ デジタル株式会社に入社し、音楽サービスの企画立ち上げ・運営に携わったあと、自身が思い描いてきたコンテンツ重視型の新規事業として、2016年にメディアレーベル「lute/ルーテ」を立ち上げる。代表として、次世代を担うアーティストのミュージックビデオやライブ映像、海外の音楽と社会状況を探るドキュメンタリーなど、さまざまな映像作品をリリースしている。【URL】 http://lutemedia.com/
若年世代は時間がない
レコード、CD、ダウンロード販売、そしてサブスクリプションの隆盛─移り変わってきた音楽の「聴き方」ですが、その「次」を探す動きは常に起きています。音楽体験に革命をもたらしたサブスクリプション以降、ユーザは音楽にどう接触するのか。音楽情報を発信する気鋭のメディアレーベル「lute(ルーテ)」に今、注目が集まっています。
luteが活用しているのは、インスタグラムの「ストーリー」機能。若年世代を中心に流行し、1日あたりのユーザ数は3億人超。しかし、この機能は「15秒以内の動画が24時間で消える」ことが特徴です。
その制限ゆえに、音楽との接触に向かないようにも思われるストーリー機能を活用する理由とは何か。lute株式会社代表取締役社長の五十嵐弘彦さんに話を聞きました。
「以前、LINEさんと仕事をしたときにショックだったのが、ユーザのペルソナの作り方。レコード業界だと、ユーザの1日の行動をグラフ化するときに、“起床”“入浴”と同じように“音楽”という枠を作るんですね。私を含めて、みんな音楽を聴くもの、と思い込んでいた。しかし、若年世代の行動を熟知しているLINEさんが作るのは“余暇”という枠だけ。その枠を、友だちとのLINEやネットフリックス、スマホゲームと奪い合っている、ということです」
だから、luteは「若年世代は時間がない」ことを前提にしている、と五十嵐さん。2016年のローンチ時はユーチューブにアップロードするMVが中心でしたが、「MV」という概念自体にも、疑問を抱くようになったそうです。
「あるアーティストが好きだったら、そのMVをずっと観る、ということをするかもしれない。でも、アーティストへの接触機会って、それだけでしたっけ、と。僕のイメージは、音楽番組でお笑い芸人と一緒にゲームをするアーティスト。そういうきっかけもあったはずです。じゃあ、その“今版”は何かな、と考え始めました」
激戦のメディア環境下で、生活の隙間に入り込んで、同社の発信する音楽情報やストリートカルチャーと接触してもらわなければならない。そんなタイミングで登場したのが、インスタグラムのストーリー機能でした。
「すでに基盤となるユーザがいて、発信したい情報のトーン&マナーにも合っていた」とインスタグラムを採用した理由を話す五十嵐さん。特にストーリー機能の制約は、情報との親和性を高めると分析しています。
「消えちゃうから、観なきゃいけない。また、最長でも15秒なので、ユーザへの負担も少ない。僕はもう、ニュース的なものをニュースとして観る余裕はないと思っているんです。重要なのは、友だちの近況と並んで、アーティストの情報がヌルッと入ってくること。打ち上げ花火のように、音源のリリースタイミングで大規模なプロモーションをするのではなく、線香花火的に、“何だかいつも見かけるな”と思ってもらうことで、愛着が湧くんです」