漫画家としての才能を開花させた芸人「矢部太郎」|MacFan

アラカルト 林檎職人

漫画家としての才能を開花させた芸人「矢部太郎」

文●山田井ユウキ写真●黒田彰

アップル製品を使いこなすプロフェッショナルたち。彼らの仕事場にフォーカスし、その舞台裏を取材します。

 

 

( 職人とその道 )

 

矢部太郎お笑い芸人・漫画家

1977年生まれ。お笑いコンビ・カラテカのボケ担当。父親は絵本作家のやべみつのり。自身初の全国区番組レギュラーとなった日本テレビ「進ぬ!電波少年」の企画内で、4カ国語を立て続けにマスター。2007年には気象予報士の資格を取得するなど、多彩な才能を魅せている。初めて描いた漫画である『大家さんと僕』が、第22回「手塚治虫文化賞短編賞」を受賞した。現在も漫画の舞台となった一軒家の2階に住んでいる。

 

 

自費出版も考えていた

1階には大家のおばあさん、2階にはお笑い芸人の「僕」│ひとつ屋根の下に住む2人の交流を描いたエッセイ漫画『大家さんと僕』が手塚治虫文化賞を受賞するなど話題を呼んでいる。作者は、お笑いコンビ「カラテカ」のボケ担当として知られる矢部太郎氏だ。ユーモラスなやりとりと、どこか物悲しさを感じる空気感が多くの読者を惹きつける本作。その制作現場を訪れた。

「わざわざありがとうございます」。そう言いながら取材陣を迎えてくれた矢部氏。腰が低く丁寧で物静か│それが第一印象だ。『大家さんと僕』を制作するのは、矢部氏が間借りしている一軒家の2階。そう、漫画に登場するあの部屋である。広めのワンルームには大量の漫画や小説、アンティークのソファがセンスよく配置されており、昔ながらの喫茶店のような心地よさが感じられる。

そんなワンルームの窓際に、『大家さんと僕』が生まれるデスクがあった。27インチのiMac、ワコムの液晶タブレット、そしてiPadプロとアップルペンシル。これらが矢部氏の使用している漫画用のツールである。

現在はすべてデジタルで制作している同作だが、最初は紙とペンで描いていたという。しかし、描いたり消したりを繰り返しているうちに紙が破れることもあり、デジタル化に挑戦することを決めた。

「『大家さんと僕』は、電子書籍として自費出版することも考えていました。その場合、デジタルでの入稿になるため、慣れておいたほうがいいだろうという思いもありました」

尊敬する先輩芸人・板尾創路さんがMacを愛用していることもあり、矢部氏はもともとアップル製品が好きだったという。ごく自然な流れで、MacBookエアとペンタブレットで漫画を描くことにした。仕事柄、移動が多かったため、持ち運びしやすいこのスタイルが合っていた。

「第1話はケニアのホテルで描いたんですよ。それをメールで編集者に送ろうとしたらネットがつながらなくて(笑)。結局日本に帰ってから送りました」

 

ロケ移動中も漫画制作

父が絵本作家ということも影響してか、子どもの頃からイラストは身近な趣味だった矢部氏。お笑い芸人の道を志してからも、仕事でイラストを描くことは多かったという。コンビの相方でもある入江さんがプロデュースしたグッズ「合コンモテモテカードゲーム」の50枚にも及ぶイラストを描き下ろしたこともあった。

しかし、デジタルでの制作は『大家さんと僕』が初めて。使用ソフトは漫画家の定番「クリップスタジオペイント(CLIP STUDIO PAINT)」だが、最初は使い方がわからず、出版社に漫画家を紹介してもらいマンツーマンでのレッスンを受けたという。そのとき作ってもらった漫画のコマ枠を矢部氏は今も使い続けている。理由は「自分では同じものが作れないから」。「コマ枠を描けないまま手塚治虫文化賞を受賞したのは僕だけでは(笑)」と苦笑いする。

しばらくはその環境で制作していたが、やがてワコムの13インチ液晶タブレットを導入し、格段に制作効率が上がった。同時期、古くなりパフォーマンスが落ちていたMacBookエアから27インチiMacに作業環境を移行した。

「iMacの使い勝手は最高ですね。最初は大きすぎて不安でしたが、使っているうちに慣れるからと言われて。それは本当でした」

iMacには1ページ分、8コマをすべて映し出し全体をチェック、それと同時に液晶タブレットで一部分を拡大して絵を描き込んでいく。作業は主に週末、劇場での出演が終わった夕方以降の時間を使って行うが、ときにはネームが進まず頭を悩ませることもある。

「テレビ番組に密着してもらったときは、ネームをやりますと言ってから2時間、まったく進まずに迷惑をかけてしまったこともあります(笑)」

その後、紆余曲折を経て初の単行本が刊行となり、各所で話題を呼んで大ヒット。ここまで矢部氏の活動を静観していた吉本興業からも「これからもどんどん描いていこう」と激励の言葉があったという。

お笑い芸人と作家活動という二足のわらじ。忙しさを増す日々の中、再び課題が持ち上がってくる。iMacに移行したことで制作効率は向上したものの、自宅でしか作業できなくなってしまったのだ。そこで矢部氏は、iPadプロ12・9インチとアップルペンシルを導入することにした。使用アプリは同じく「クリップスタジオペイント」。データの同期が可能なので、どこにいても自宅と同じ環境を再現できるのだ。

「iPadプロもお気に入りです。新幹線の中やロケバスなどの移動時間で描けるようになりました」




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