Apple Pencilが切り開くiPadの新境地|MacFan

特集

新iPadの価値

Apple Pencilが切り開くiPadの新境地

文●大谷和利栗原亮山下洋一松村太郎写真●黒田彰apple.comイラスト●武内未英(PASS)

第6世代の新しいiPadによってAppleは買い替え需要を掘り起こそうとする。これまでiPad Proでしか使えなかったApple Pencilに対応させたことが新型iPadの最大の革新だ。Appleの新iPad戦略を読み解こう。

iPad低迷の正確な分析と対処

アップルは2010年に初代iPadを発表し、以降タブレット市場を牽引してきた。しかし、2014年を境にiPadの販売台数は前年同期を割り込み続けた。その主たる原因は、買い替えサイクルを作り出せなかったこと、そしてキラーアプリケーション不在で用途が定まらなかったことだ。

iPhoneはデザインやディスプレイ、カメラ、画面サイズ、通信、バッテリなど、さまざまな要素において進化をアピールできる部分があり、アップルがデザイン変更をするサイクルにキャリアの割引販売の周期が組み合わさった形で、2年というユーザの買い替えサイクルを作り出すことに成功した。

しかし、iPadは画面サイズも長らく9.7インチというオリジナルのサイズのまま。スマートフォン以上にシンプルなデザインで登場したことで見た目の進化も乏しく、また通信速度のアップグレードが必要ないWi-Fiモデルも存在するなど、多くの人々が新しいモデルに買い換える動機を見出せない点が低迷を招いた。

また、スマートフォンやパソコンの中間を埋めるようなデバイスとしても捉えられ、その用途は多くの人にとって限定的であった。さらに、本体は壊れにくく、WEBや動画の閲覧においてはパソコンのようにパフォーマンスの劣化が起きなかったことも、買い替えサイクルを作り出せなかった理由と言える。これはコンシューマー市場のみならず、法人市場や教育市場でも同じであり、顧客からすれば、5年以上変わらず使える非常に優秀なデバイスなのだが、アップルのビジネス的にはそれが仇となった感がある。

 

ペン対応と処理性能の重要さ

だが、アップルは2017年3月に、iPad(第5世代)を329ドルでリリースし、長期にわたるiPad低迷に終止符を打った。価格を大幅に下げたiPadの登場は、企業や教育市場に広く受け入れられた。もちろんグーグルのクロームブック(Chromebook)と比べればまだ3倍近い価格だったが、アップルは無料のプログラミング学習アプリ「スウィフト・プレイグラウンド(Swift Playgrounds)」と、「エブリワン・キャン・コード(Everyone Can Code)」カリキュラムをリリースすることで、新たにiPadを導入すべき理由を作り出すことに成功した。

そして今回の新型iPad(第6世代)の発表となる。価格は32GBのWi-Fiモデルで329ドル(日本では3万7800円)と据え置きで、教育向けには299ドル(日本では3万5800円)。デザインは2017年3月に登場したiPad(第5世代)をそのまま踏襲しながら、iPhone 7と同じ64ビットプロセッサA10フュージョンを搭載することで処理能力を大幅に向上、iPadとして初めてアップルペンシルに対応した。特にパフォーマンス向上とアップルペンシル対応の2点はアップルのiPad戦略における本質をよく表している。

アップルペンシルは非常に優秀なペン入力デバイスであるが、これまでもっとも安く使い始めるとしても、iPadプロ10.5インチWi-Fiモデル(649ドル)を選ばなければならなかった。しかし、今回のiPadは半額でアップルペンシルを使えるようになるため、そのインパクトは大きい。

新型iPadへの反応を見ていると、アップルペンシルによるデジタルメモを仕事に取り入れたいという声や、子ども用に1台揃えたいという声、あるいは買い換えるきっかけになったという意見が目立つ。これまでキラーアプリ不在で買い替え理由を見つけにくかったiPadにとって、初めての「買い替え動機」を与えることになった。

また前作から価格を据え置きつつ、教育市場向けにパフォーマンスを強調した点は、クロームブックとの差別化をより明確にするうえで非常に重要だった。無料でプログラミング教育を教室に導入できるエブリワン・キャン・コードに続いて、iPadの処理性能と無料アプリ群を活かした「エブリワン・キャン・クリエイト(Everyone Can Create)」を発表し、クロームブックではなく、iPadでなければいけない理由を、製品の性能で裏打ちする形で作り出そうとしている。

 

iPad+ペンがこれからの新基準