教育・医療・Biz iOS導入事例

子どもの“楽しい”を引き出す「文房具としてのiPad」

文●神谷加代

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

子どもの頃の楽しい学びの経験は、間違いなく今後の人生を切り開く力になるだろう。人間としての土台を築く小学校だからこそ、その楽しさが多様性へと昇華されていくのだ。聖学院小学校の池内清教諭はiPadを活用して、子どもの“楽しい”を上手に引き出している。

 

iPadは文房具と同じ 

「小学校では、どんな教科を学んでも何をやっても“楽しかった”という経験を持って卒業してほしい。そんな学びを大事にしながら、次につなげていきたい」

そう語るのは、2017年度のADEに認定された聖学院小学校(東京都北区)の池内清教諭だ。小学校6年間の中で「国語は好きだけど、算数は嫌い」という具合に、子どもたち自身が学びの可能性を閉ざさないよう、次に学びたくなる“楽しい”を大切にしながら、日々子どもたちと向き合っているという。昨今、日本の子どもたちの自己肯定感が諸外国に比べて低いとのデータもある中で、人生の土台を形成する小学校時代の“楽しい”は、極めて重要だといえる。

 

 

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Apple Distinguished Educator 池内清教諭

聖学院小学校教諭。同校法人情報センター・副センター長。2015年、小学校の新校舎を建築した際に校舎内に無線LANを通し、各教室にプロジェクタ、AppleTVを配備。iPad、Macを普通教室で接続できるように校舎内をデザインをした。現在、1年生から3年生までをShared iPad(共有iPad)、4年生以上に1人1台のiPadとするなど、ICT教育環境整備にチームで取り組んでいる。2017年にADEに認定。LC 520からのMacユーザ。

 

池内教諭は、在籍する聖学院小学校でiPad導入を牽引した人物だ。同校では2012年に新校舎の建設をきっかけにiPad導入の検討を始めた。そこで池内教諭はそれまであった「コンピュータ室」を設けず、普通教室の中でコンピュータが使える環境に切り替えた。

「コンピュータ室では、わざわざ子どもたちがそこに行ってコンピュータを使うわけですが、このスタイルはもう時代に合わないと思いました。これからの時代は、iPadが文房具と同じ感覚で使えることが大切だと考えたのです」

もはやタブレットやスマートフォンを使うことが当たり前となった今の子どもたち。学校のコンピュータもその感覚で使える環境でなければ、活かされない。

こうした考えから、聖学院小学校では新校舎が完成した2015年度から、4年生以上の児童全員を対象に、保護者負担によるiPadの1人1台体制を実施した。また1年生から3年生に対しては、2017年に共有用のiPadを50台整備し、ひとつのiPadを複数人で共有できる「Shared iPad(共有iPad)」のシステムを使って、1人1台環境を実現した。

 

 

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聖学院小学校は、iOS9.3にて追加された「クラスルーム(Classroom)」や「共有iPad」、「アップルスクールマネージャ(Apple School Manager)」などの機能を利用して、教師が学習目的に合わせて効率的に端末を配備できる環境を築いている。写真は子どもたちのiPadをモニタリングできる「クラスルーム」の画面。

 

 

試行錯誤で表現力を伸ばす

子どもたちの“楽しい”を重要視する池内教諭ではあるが、iPadの使い方を聞くと、意外にもシンプルな方法を徹底している。たとえば、手書きで文字を入力し、写真を添えて完成させる新聞づくりやカードづくり、オリジナルの作詩など、アウトプットの活動にiPadを多く活用しているのが特徴だ。逆に、楽しめるからといって、子ども向けに作られた学習ドリルアプリや教育サービスを使うことはないという。

  「子どもたちにはiPadを使って問題を解くよりも、iPadで思ったことを表現できるようになってほしいんです。紙ではうまく絵が描けない子がiPadでは表現できたり、何かを伝えるために写真の見せ方を考えたり、試行錯誤しやすいメリットを活かして“何を引き出すことができるか”という活動に使うことが大切だと考えています」

つまり、一方的に学習アプリに与えられる内容を享受するのではなく、子どもたち自身が多様な表現が可能なiPadを使うことで、“何を描こうか”“何を伝えようか”などと考えること自体を楽しむことにこそ価値があるというのだ。

具体的にいうと、授業ではリアルタイム授業支援システム「メタモジ・クラスルーム(MetaMoJi ClassRoom)」を用いることが多い。同サービスは、紙のノートと同じようにiPad上で手書き入力ができるうえ、豊かな表現が可能な編集機能が特徴だ。

本記事の取材で授業を見学した際も、子どもたちはメタモジ・クラスルームを使って、グループで協力しながら1枚の新聞づくりに取り組んでいた。同サービスのクラウド上に用意されたノートに、子どもたちはそれぞれのiPadからアクセスし、自分が担当する部分を同時に書き込んでいく。タイトル文字を担当する子ども、イラストを担当する子どもなど、グループでアイデアを出し合い、話し合いながら、ひとつの作品を仕上げる。

子どもたちはまだ3年生ということもあり、この作業がスムースにいくとは限らない。友だちが書いた部分を消してしまったり、メンバーの名前を書くだけで時間を費やしてしまうグループもあった。しかし、時間が経つにつれて「失敗したらアンドゥで戻ればいいよ」「タイトル文字は太字で短めがいいんじゃない?」など、どんどん活発に言葉が交わされていく。池内教諭は「教師が一方的に教えるのではなく、協働作業では子ども同士の教え合い、学び合いが必ず生まれます。教師はその環境を整え、できるだけ子ども同士で解決できるようにサポートすることが大切だと思います」と語る。

 

 

 

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池内教諭は手書きの機能が優れたリアルタイム授業支援システム「メタモジ・クラスルーム」を活用し、新聞づくりやオリジナルの詩、カード制作などの表現活動を行うことが多いという。写真はクラウド上のノートにグループで同時にアクセスし、同時編集しながら新聞づくりに取り組む様子。

 

 

 

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「メタモジ・クラスルーム」を使って4年生が作った新聞(写真上)と、3年生が書いた「ちょっとしたしあわせ」をテーマにした作品を印刷したもの(写真下)。4年生にもなると、スペースいっぱいに情報を盛り込むことができる。デジタルで仕上げた作品は、紙に印刷して掲示しているという。

 

 

ものづくりの視点も与えたい

池内教諭はiPadを表現活動に活かす一方で、「iPadクラブ」というクラブ活動におけるプログラミング教育にも活用している。そこでは、ブロックを並べてプログラムを組み立てるアプリ「スクラッチジュニア(ScratchJr)」や「スウィフト・プレイグラウンズ(Swift Playgrounds)」などを利用。スウィフト・プレイグラウンズでは、簡単なコードを入力するコーディングにも挑戦している。iPadを文房具のように扱う表現活動だけに留まることなく、プログラミングを通して“ものづくり”の視点も与えたいというのだ。

  「新学習指導要領で小学校のプログラミング教育が必修化されました。社会からの要請とはいえ、プログラミングの入り口を楽しく、そして出口も楽しく教えていきたいと考えています」と池内教諭は語る。一方で、プログラミング教育が中途半端にならないよう、ブロックを並べるプログラミングだけでなく、コーディングも子どもたちにやってもらいたいとも話す。

実際にiPadクラブで簡単な地図アプリを作ったり、スウィフトのコーディングを行ったときも、子どもたちはコードを書き換えたり、さまざまな試行錯誤を繰り返しながら自発的にプログラミングを学ぶ姿が見られたという。

  「子どもたちは最初、見よう見まねでしたが、そのうち、“こうすればこうなる”という感覚がつかめるようになると、プログラミングの楽しさが増えていくと感じました。コードを書き換えながら学んでいく姿を見ているとプログラミングって創造的で面白いと思いますね」

今後について池内教諭は「学校の環境整備を進め、取り組みを広げていくことはもちろんですが、情報モラル、情報リテラシーの育成に関してカリキュラムを作りたい」と抱負を語る。聖学院小学校での取り組みをさらに発展させていくためにも、子どもたちに求められる能力も高めていきたい考えだ。

 

 

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「iPadクラブ」というクラブ活動では、Swift Playgroundsを使ってドローンを飛ばすこともあるという。「小学校でドローンを飛ばすと、子どもたちはかなり盛り上がる」と池内教諭。ドローンの制御も子どもたちが頑張ってコーディングに挑戦したそうだ。

 

 

池内清教諭のココがすごい!

□学校のiPad導入を牽引し、普通教室でコンピュータを使えるようにした。
□iPadは、思ったことを表現できる“文房具”として活用している。
□プログラミングを通してものづくりの視点を学ばせている。

 

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。世界45カ国で2000人以上のADEが、 Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。



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