システム管理の現場を面白くしたい!が「攻めの情シス」の合言葉|MacFan

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システム管理の現場を面白くしたい!が「攻めの情シス」の合言葉

文●牧野武文

Apple的目線で読み解く。ビジネスの現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

多くの企業の情報システム部門では、社内システムの保守運用業務に時間を費やし、本来の重要業務である「IT戦略の企画提案・構築」に手が回らない状態になっている。そんな中、「攻めの情シス」へと自らを変革し、"楽しく"チャレンジし続けるチームがあった。

 

自動化できることは自動化

情報システム部門の業務とはなんだろうか。一般には4つの業務があると言われる。①IT戦略・システムの企画提案・構築、②基幹システムの構築・運用・保守、③社内インフラの構築・運用・保守、④エンドユーザのサポートだ。このうち、もっとも重要な業務が①であることは明白だが、多くの情報システム部門が②から④の業務に追われている。

東京都港区にある広告制作会社、ADKアーツの情報システム部門(総務・ITユニット)も以前は同様の問題を抱えていた。しかし、大海晃彦ユニットマネジャーは「これではまずい」と考え、2015年にアップルデバイス管理ソリューションの「ジャムフ・プロ(Jamf Pro)」を導入。ここを起点にADKアーツの情シスは、守りの情シスから攻めの情シスに脱皮をし始めた。

ADKアーツは社員数約410名、iPhone約450台、Mac250台、ウィンドウズ250台を9人で管理している。この中で大変だったのが、企業向け管理ソリューションが充実していなかったMacだ。ジャムフ・プロ導入以前は、「アップル・リモート・デスクトップ(Apple Remote Desktop)」を利用し、ソフトウェアの配布や定型の管理業務の自動化等は行えたものの、手作業で補わなけれならない部分も多かった。たとえば、デバイスの開梱作業やアプリのインストール、社内ネットワークへの接続設定などを施し、エンドユーザがすぐに使える状態にするキッティング作業だ。

  「あの頃は手作業しか方法がなくて、土日に全員出社してやっていました。今だったら、考えられないですよね」

ある日、大海氏は「米国のピクサーが数千台のMacをほぼ自動で管理している」という話を耳にする。調べてみると、キャスパー・スイート(現ジャムフ・プロ)というツールを使い、本当に手離れよく管理していることがわかった。そしてすぐに導入したところ、従来手間と時間のかかっていたMacの管理業務を実に楽に行えるようになった。

 

 

株式会社ADKアーツ、総務・ITユニット、大海晃彦ユニットマネジャー。

 

 

株式会社ADKアーツ、総務・ITユニット、稲垣篤史氏。

 

特に大きかったのが、セキュリティ対策だ。従来は、ソフトウェアのアップデート情報やセキュリティの注意喚起情報等をチェックし、発見したら(セキュリティ)パッチをダウンロード、利用者のMacがネットワークに接続された時点で端末にアップデートを施していた。

「社内でオンラインに接続したマシンを見つけてグループ化し、パッチを当てるという作業を何度も繰り返していました。100%完了するまでに途方のない時間がかかっていたのです」(ITユニットITチーム、稲垣篤史氏)

しかも、ADKアーツの社員は仕事柄ロケ現場やスタジオなどにMacを持ち込むことが多い。そうしたデバイスは社内ネットワークになかなか接続されないため、セキュリティ対策が後手に回ってしまう。一方、ジャムフ・プロでは社内利用するソフトウェアを登録しておけばアップデート情報を自動で収集してくれるほか、社外でもオンラインにした瞬間、デバイスをアップデートしてくれる。管理側は、アップデータをサーバにアップロードしておくだけで、セキュリティ対策が完了するのだ。

 

 

 

Apple社製品管理のトップソリューションとして知られるJamf Proの導入がADKアーツのITユニットを変えた。中でも威力を発揮したのが端末のセキュア化。「パッチレポート」機能を使うことで利用しているソフトウェアのアップデート状況を自動で収集してくれるほか、「ダッシュボード」からは管理端末に対してアップデータなどの社内ポリシーがどれだけ適応されているかを瞬時に確認できる。

 

 

業務負担を平準化するアプリ

このような作業効率化によって生まれた時間は、本来の情報システム部門の業務といえるIT戦略、システムの企画提案構築に費やすことができるようになった。たとえば、ITユニットが現在力を入れているのが労働時間問題だ。社員の労働時間状況を可視化するアプリを自社開発し、管理職、経営者が一目で把握できる仕組みを構築している。

同様のソリューションは、すでに外部にいくつも存在している。たとえば、出退勤システムに連動して、社員の残業時間を表示するソリューションなどは山ほどある。それでも内制をする理由は、自社にもっともフィットする仕組みを構築でき、修正もすぐに行うことができるため、短時間で、最大の成果が得られるからだ。「外部に制作を委託した場合、まずこちらの求めるものを伝えるだけでもものすごく手間と時間がかかります。それから仕様や見積書を作成してというプロセスが、ものすごく無駄な作業のように思えてきたのです」(大海氏)

この社内アプリの狙いは、出退勤時間や残業時間を社員が簡単に記録でき、見える化することだけではない。「業務負担の平準化」が本来の狙いだ。社員がアプリにやるべき業務案件を登録し、それにかかった時間を入力する。これが日報代わりになる。そして、ここが重要だが、時間だけでなく、業務負担を5段階、自己評価で入力できる。これが色で可視化され、高負担の業務は赤色で表示される。

すると、管理職は部下の労働状況を一目で見られるようになる。グラフの長さで労働時間を、グラフの色で業務負担度を見ることができ、特定の人に負荷が集中している場合は業務を分配し、全員の負荷が高い場合は増員を考えるなど、対応策をとることができる。労働基準法で定められた労働時間を守るだけでなく、業務負担を平準化することで、セクション、会社全体の生産性を上げるためのシステムである。会社の経営に直結する、素晴らしいIT戦略・システム構築の見本といえる。

 

 

 

ITユニットが内制したJobgramアプリ。社員全員が保有するiPhoneにインストールされる。出退勤はボタンをタップすると、会社の出退勤システムに連動するようになっている。業務をITユニットが登録し、かかった時間と自己評価の負担度を入力する。これが日報代わりになる。

 

 

ITユニットの働き方は様変わり

「情報システム部門の仕事は、セキュリティパッチを当てることではありませんし、それでは第一つまらない。ですから、システム構築やアプリ開発も他社に任せるのではなく、自分たちで問題点を考え、自分たちで解決していきたいのです。とにかく、システム管理の現場をもっと面白いものに変えたい」

そう語る大海氏は、情報システム部門のあり方を常に問い直し、工夫し続けている。その良い例がスクラム開発の手法を採用していることだ。スクラム開発とはソフトウェア開発における、アジャイル型の開発手法(枠組み)のこと。従来のウォータフォール型の開発ではチーム一丸となって一定の計画に対してメンバーが与えられた割り当ての元に作業するが、スクラム開発では、チームのメンバーの自律性や直接的なコミュニケーションを重視し、少人数のチームに分け、それぞれが目的の達成のために作業する。

ITユニットでは現在9人を3人ずつのチームに分け、チームごとに短いスパンでプロジェクトをこなしていく。スクラム開発では毎日ミーティングを行うことで各メンバーの自立性が高まったり、問題点を見つけやすくなったり、短期間で成果を上げやすくなったりする、というメリットがある。

また、こうした仕組みを発展させ、今では毎週ハッカソンも開催しているという。もはや、その姿は多くの人がイメージする「社内の情報システム部門」の枠を超え、「社内のプロフェッショナル開発会社」である。その実、情報システム部門には珍しく、チーム内にはアプリ開発者は当然のこと、UI・UXデザイナーも抱える。

ADKアーツのITユニットは「管理と保守だけをする情シス」というイメージをひっくり返し、「戦える情シス」に進化し、ITを会社の武器にしようとしている。ADKアーツの社内には、まだアナログツールも多く残されているという。これをフルデジタルにして、社員の非生産的な業務を減らさなければならない。企業の経営状況を可視化して、経営者がいつでもリアルタイムで一目で見て把握できるようにしなければならない。ITユニットがやらなければならない仕事は山積みだ。“仕事をする”ITユニットは、この大きな山に登ろうとしている。そしてなにより、仕事を楽しんでいる。これが、本来の情シスのあるべき姿なのだと、感服させられた。

 

 

 

Jobgramアプリに入力された情報は、セールスフォースのBIツール「Salesforce Einstein Analytics」とAPI自動連携し、リアルタイムで可視化される。各社員の労働時間が、法定労働時間を超過していないかが一目でわかる。また、特定の社員に業務が集中しているかも確認可能。業務を適切に振り分けることにより、業務負担が平準化でき、チーム全体の業務効率が大きく改善される。

 

ADKアーツのココがすごい!

□企業の経営に直結するITシステムの構築をどんどん推し進める。
□システム構築は、自分たちで問題点を考えながら、自分たちで解決していく。
□システム管理の仕事を楽しくするために、チャレンジし続ける。