野呂エイシロウの「ケチの美学」第10回|MacFan

アラカルト ケチの美学

野呂エイシロウの「ケチの美学」第10回

文●野呂エイシロウ

●人気放送作家が語るケチとアップルの交差点。

考え、違うことをする

年末、東京代々木上原のファイヤーキングカフェへ行ったら、懐かしいポスターが展示されていた。ご存知、アップルの「シンク・ディファレント(Think different.)」のポスターだ。映像は有名だが、ポスターがあったことをすっかり忘れていた。聞けば店のオーナーの個人所有だという。

エジソンにフランシス・コッポラ、マリア・カラスなどおなじみの顔が蘇る。

これは20年前の1997年の広告キャンペーンだ。ボクは30歳だった。この年は、アップルにとって記念すべき年だ。皆さんならご存知だと思うが、スティーブ・ジョブズが復帰した年だ。

それで、この広告キャンペーンが始まった。翌1998年には色鮮やかなiMacが登場し、世の中をあっと驚かせる。5色展開になった1999年にボクも思わず緑色のiMacを手に入れた。

そのとき、誰もが思ったことがある。「さすがジョブズだ」と。ボクも復活を喜んだし、このシンク・ディファレントのコピーが使われた〝クレイジー・ワンズ(Crazy Ones=「いかれた奴ら」の意)〟というテレビCMは本当に衝撃的だった。

着飾った俳優が決められたお世辞セリフを述べるのではなく、時代を作ってきた先駆者が続々と登場する企業広告だ。商品も、その性能も、値段も、安売りも語られない。ただ世の中を変えた人がひたすら登場するだけだ。特に好きなのは、エンディングのセリフだ。

「私たちは、そういう種類の人間のための道具を作っている。彼らをいかれた連中と見る人もいるが、私たちはそこに天才を見ている。世界を変えられると考えるくらいいかれた人々は、世界を変えていく人たちなのだから」。

“そういう種類の人のための道具を作っている”という言葉が力強い。そう、アップル製品は、単なる経理やつまらない書類を作るための道具ではない。世界を変える人々が使うための道具なのである。もちろん、経理や書類でもその気になれば世の中を変えることはできるはず。




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