“シンプルに使うため”の進化がぎっしり 機械が苦手な人にこそ向いている!|MacFan

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女性ユーザ目線でiPhone Xはあり、それともなし?

“シンプルに使うため”の進化がぎっしり 機械が苦手な人にこそ向いている!

 

らいら

ITライター/ITライフスタイリスト。本誌では特集インタビューや連載「Wakatsuki Works World」の執筆を担当。ライフスタイルに根ざした女性視点の記事を得意とする。@lyrahm

 

 

体験がよりシンプルに

懺悔します。私はiPhone Xが発表されたとき、「うわ、ギーク感すごい…」と引いてしまいました。iPhoneのアイデンティティは、前面のディスプレイとホームボタンの配置のバランスにあると信じていた私は、(ほぼ)フルスクリーンの、まったく見たことのないiPhoneに戸惑いを覚えました。「スマートフォンの未来形」と銘打つモデルなので、技術的な話が増えるのは仕方がない、ただデザインは…特に画面上部の切り込み(ノッチ)は私好みじゃない…! しばらくの葛藤ののち、iPhone 8を買うことに決めました。

しかし、iPhone Xの実物を手にし、その決意はあっさりと覆りました。ノッチはまったく気にならず、むしろひと目でiPhone Xとわかるフォトジェニックなデザインにすら見えてきます。人間の感覚は当てにならないと実感しました。

カメラは、iPhone 7の時点で完璧だと感じましたが、Xはそれを上回る完成度です。シャッターを押すだけで、まるでプロが撮ったような仕上がりに。特に、ポートレートモードで撮った写真を見せると、全員が「うわ、すごい! きれい!」と驚きます。スーパーレティナディスプレイが色彩豊かに表現するので、iPhone 8/8プラスよりも写真が美しく感じられます。

また、ホームボタンのない違和感には、案外あっさりと慣れます。アプリの切り替えや、コントロールセンターの呼び出しなどは、一度経験すればあとは直感的に操作できました。ホームボタンを押す動作がなくなったことで、フェイスIDでのロック解除や、アプリ内での認証は「画面を見るだけ」で完了します。新技術は搭載されましたが、必要な操作は減り、ユーザ体験がよりシンプルなものになったのです。

 

機械音痴でも問題なし!

それこそがアップルの目指す“未来”の形の1つだと、iPhone Xを触って感じました。iPhone Xの紹介では、「スマートフォンの未来形」など、しきりに “未来”というワードが頻出します。

スマホが進化するにつれ、各社は「できることが多い製品が優秀な製品」と言わんばかりに、高機能、多機能を打ち出しています。iPhoneもこれまでの10年間、できることの選択肢を広げるための新機能を多数採用してきました。

しかし、アップルは近年、ユーザの手間を削ぎ落とすための機能を次々と打ち出しています。たとえば、エアポッズ(AirPods)やアップルウォッチでは、デバイスを近づけるだけでペアリングが完了。iOS 11では自動セットアップ機能が追加され、iPhoneやiPadを近づけるだけで、個人設定などが読み込まれるようになりました。機械学習を用いたSiriの先読み提案も、ユーザの操作の手間を省く技術の1つといえるでしょう。ソフトウェア面では、すでに操作や設定の自動化が始まっているのです。

そして、iPhone XでフェイスIDが採用され、「ホームボタンを触る」という動作が消滅。ハードウェア面からもシンプル化のイノベーションが始まりました。技術が発展し、機能過多となったスマホの時代は終わり。これからの10年は、機能性を担保しながらも、ユーザビリティをよりシンプルに削ぎ落とすための技術が求められることを、アップルはiPhone Xで示したのです。

使い方がシンプルになれば、老若男女、より多くの人々が、スマートフォンを使ってさまざまなことを実現できるようになります。アクセシビリティを重視するアップルらしい哲学です。始めこそマイナスな印象でしたが、iPhone Xこそスマホが苦手な人でも違和感なく使える、一般受け抜群のモデルだといえます。

 

 

はじめはホームボタンがないことに不安を覚えましたが、新しい操作にはあっという間に慣れました。大画面のSuper Retina HDディスプレイになって、コンテンツに迫力が増した感動のほうが長続きしています。2週間経っても、毎回「画面大きいな!」と新鮮な気持ちで使っています。

 

 

新たなジェスチャは想像以上に直感的。特に画面下部を上にスワイプしてホーム画面に戻るジェスチャが楽すぎて、今ではホームボタンありのモデルでも同じ動作をしてしまいます。私だけでなく、ほかのiPhone Xユーザとも「あるあるネタ」として盛り上がる機会は非常に多いです。

 

 

ここに注目(1)利用シーンに合わせてよく考えられたFace ID

iPhone Xを手にするまで、Face IDを「Touch IDの代わりに採用された顔認証機能」と表現していましたが、実際に使えば使うほど、それ以上の付加価値をもたらしてくれるテクノロジーだと実感しています。

たとえば、Face IDとiOS 11の通知プレビュー切り替え機能を組み合わせることで、セキュアな通知内容の確認とロック解除の動作を両立できます。たとえば、「メッセージ」アプリやLINEなどのチャットアプリの場合、ロック画面にメッセージの通知が表示されても、ほかの人に会話の内容を見られる心配がありません。また、Safariでは、保存済みのユーザ名とパスワードがFace IDによって自動入力されるため、パスコードの概念がなくなる感覚を味わうことができるのです。

さらに、AppleはFace IDにもアクセシビリティオプションを搭載。身体の動きに制約がある場合でも、頭部を左右いっぱいに動かさなくても顔認証されるよう設計しています。視覚障がい者向けには、「Face ID を使用するには注視が必要」項目を無効にするオプションを用意。目を閉じた状態でも、Face IDが動作するよう設定できます。セキュリティレベルは低下しますが、私は寝起きの半目状態でもロックが解除できるよう、この項目をオフにしました。

なお、初期設定時に画面読み上げ機能の「VoiceOver」を有効にすると、この設定は自動で無効に切り替わります。長年アクセシビリティを重視してきたAppleだからこそできる、“ユーザファースト”の機能ではないでしょうか。

 

 

よく考えられているのが、Face IDとiOS 11の通知プレビューのオンオフ機能を組み合わせた通知の仕組み。iPhone Xでは、通知のプレビューがデフォルトで「ロックされていないときのみ」に選択されています。画面がロックされていると「1件の●●」と表示され、通知内容を周りに見られる心配がありません。

 

 

そこで画面を見てFace IDでロックを解除すると、通知内容が表示され、自分だけが詳細を確認できるようになっています。Face ID1つ取っても、ユーザの使い方に沿った自然な挙動になるよう、徹底した作り込みがなされていることがわかります。

 

 

 

ここに注目(2)片手操作はちょっと厳しい?

本体サイズはiPhone 8より大きく、iPhone 8 Plusよりは小さいという絶妙なサイズ感のiPhone X。ただ、男性より小さな女性の手では、「片手で持てるけれど、片手での操作は難しい」と感じました。

まずは重量感。今までiPhone 7を使っていたため、iPhone 7よりも36グラム重いiPhone Xには、ずっしりとした重みを感じます。今では片手で操作できる場面でも両手で持つ機会が多く、どちらかといえばPlusシリーズの使用感に近いと感じています。

簡易アクセス機能や、キーボードを左右に寄せる片手キーボード機能を設定すれば、なんとか片手でも使えます。ただし、片手キーボードの設定は画面左下にあり、右手親指が届かない位置なのも惜しいポイント。結局片手使いは諦めましたが、それ以上に画面が大きくなることによるメリットのほうが大きく、なんだかんだで快適に使っています。

 

 

手がそれほど大きくない私の場合、重量感のあるiPhone Xを片手で操作するとなると、右手小指で本体下部を支える必要があります。ただその持ち方は、小指が変形する「スマホ指」の懸念があるため、早々に両手使いに変えました。男性の大きめの手なら、すべて片手で済ませられる絶妙なサイズ感ではないでしょうか。

 

 

 

ここに注目(3)セルフィーのクオリティが向上

前面カメラにはポートレートモードが搭載され、背景をぼかしたセルフィーが撮れるようになりました。従来のポートレートモードでは、人物との距離が近すぎると撮影できないこともありました。しかしiPhone Xでは、TrueDepthカメラが人物と背景を切り離して捉えられるため、iPhoneを手持ちで撮影する距離でも、しっかりとポートレートモードが作動します。

ただ2人で撮ると片方にピントが合わなかったり、3人以上では人物を認識しなかったりと、複数人でのセルフィーには向いていません。その場合は、ポートレートモードをオフにしたほうが自然な仕上がりになります。

実際のところ、頻繁にセルフィーをしてSNSにアップする女性はそれほど多くなく(むしろマイノリティです。全員がバッチリ美肌を求めているわけではない!)、友だちや家族と出かけた思い出に、一緒に自撮りすることのほうが多いのです。今後TrueDepthカメラが、複数の人物を一度に認識できるようなアップデートを期待したいところです。

 

 

Apple銀座前でポートレートモードでセルフィー。人物はくっきり、背景のAppleロゴはキレイにぼかされ、デジタル一眼レフカメラで撮ったような仕上がりになりました。ポートレートライティングを「スタジオ照明」に設定すると、くすみが飛んで表情がパッと明るくなるのでおすすめです。