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IT×SPORTS|データ戦を制するアナリストのチカラ

試合データで測れないもの:スポーツライター・斉藤健仁

文●柴谷 晋

今のスポーツはデータ戦。勝利を手繰り寄せるためのスポーツアナリストのデータ分析とは?

 

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スポーツライター

斉藤健仁 (さいとう けんじ)

1975年4月27日生まれ、千葉県柏市育ち。印刷会社の営業を経て独立。サッカーやラグビー等フットボールを中心に執筆する。「高校生スポーツ」の写真記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー(高校時代。FBでタックルだけは好きでした!)、スカッシュ等を経験。現在はタグラグビーを少しプレー。過去にトップリーグ2チームのWEBサイトの執筆を担当するなどトップリーグ、日本代表を中心に取材。DAZNでラグビー放送の解説を担当中。

 

 

スポーツの裏側から垣間見える戦術以上に大切なこと

 

今回のゲストは、ラグビー/サッカーライターの斉藤健仁さん。私も以前、ライターを本業としていたことがあり、その頃からの顔なじみ。

斉藤さんには他の人にはない3つの特長があります。まず、戦術に関する深い知識を持っていること。そして、ラグビーとサッカーを同時に取材していること。最後に現場を大切にしていること。2015年のラグビーワールドカップで金星を挙げたエディジャパンを4年間に渡って追いかけた密着ぶりには凄まじいものを感じます。海外遠征を含む全57試合すべてを現地取材しているのです。その原動力と、知識の源泉を聞き出しました。

 

エディ・ジョーンズに負けないように勉強

柴谷●お久しぶりです。お元気ですか。

斉藤?チームが変わってからは会うのは初めてですね(柴谷は今年度より日野自動車レッドドルフィンズに移籍)。新しいチームはどうですか。

柴谷●チームは変われど、アナリストの業務はそれほど変わりませんね。でも、一緒に働くコーチ陣と、チームの戦術が変わったのは大きな変化です。これがとても面白いです。新しいコーチの考え方やこれまでと違う戦術を知ることは、とても勉強になります。斉藤さんは、どのように最新の戦術を勉強しているのですか。

斉藤●テレビの解説をやっているので、専門の会社からデータをもらって、それを元に考えることもあります。でもラグビーの場合は、基礎となる戦術はある程度見ていればわかるじゃないですか。それ以上の深い部分は、いろんな知り合いがいるので訊いたり、海外だとメディアを通して一般的に解説されているので、それを参考にしています。何年か前にラグビー日本代表の試合でパリに行ったのですが、夜、フランス代表に関する戦術番組があり、元代表選手たちが議論していました。日本ではそこまでスポーツにおけるデータが社会には浸透していませんよね。

柴谷●テレビ解説をするときには、そうした戦術的なことを伝えようとしているのですか。

斉藤●日本の場合は、まだ難しいですね。ラグビーに詳しくない人にもわかりやすく伝えないといけないからです。テレビ局からもそうリクエストされます。だから選手のプロフィールもきちんと調べて、バランスを取りながらやっていますね。

柴谷●私が前のチームにいた頃、戦術に関していろいろと教えてもらったことがありました。その時、感心したんですよ。並みのコーチよりも知識が深いんじゃないかって。

斉藤●それはエディ(・ジョーンズ前日本代表監督)のおかげですね。エディに負けないように頑張って勉強しました。代表チームがいろいろな戦術をやっていく中で、エディにインタビューしようと思ったら、負けないように勉強するしかないじゃないですか。

 

Data 1>サッカーチャンピオンズリーグのスタッツ

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UEFAでは、チャンピオンズリーグに関するスタッツを一般公開している。図は今年のUEFAチャンピオンズリーグの決勝戦(レアルマドリード対ユベントス)の各種統計結果。こうした情報ソースから読み解くことで斉藤さんは分析を行っている。http://www.uefa.com/uefachampionsleague/

 

柴谷●解説の際には、数字はどう意識していますか。

斉藤●その監督がやろうとしていることを、わかりやすく伝えるために使いたいと思っています。サッカーのユベントスとか、アトレティコ・マドリードはボール保持率が低いのに勝てるのはなぜか。ラグビーなら、現在の日本代表や(現日本代表監督ジェイミー・ジョセフが以前指揮をとっていた)ハイランダーズは、どういう戦術を採用しているのか。カウンターアタックをメインとしているのだけど、カウンターで何をしたいのか、とか。

柴谷●エディのときと比べると、現在の代表チームはどんな数字が特徴的ですか。

斉藤●使っているグランドの幅に特徴がありますね。カウンターアタックを戦術の軸とするには、防御時に選手は幅広く配置する必要があります。横幅70メートル全体に人がいて守っていれば、ボールを取り返した瞬間にどこかしらが空いているはず。攻撃側は、比較的ボールに集まるからです。そこに回して一気に攻めるのです。攻防一体の戦術です。

柴谷●エディ時代はポゼッション重視の戦術でした。日本人は体格で劣っているから、守りが続くと消耗してしまう。できるだけボールを保持し続けることが大切だという発想でした。

 

 

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斉藤さんの著書『ラグビーは頭脳が9割』(東邦出版)。「スマートなラグビーを通じて、指導者、選手、観戦者なども含めてラグビーインテリジェンスを高めたい」という思いから生まれた1冊。戦略や戦術に関してスマートな方法を採ったさまざまなチームに密着している。

 

斉藤●エディジャパンでは、横幅70メートルのうち40メートルくらいでプレーしていました。グランドの端はあまり使わず、狭い範囲で自分たちが先手を取りながら連動して仕掛けていく。(エディの母国である)オーストラリアも、ボールをキープしていれば相手は攻撃できないという発想です。これに対して、(世界ランキング1位である)ニュージーランドは逆です。そんな狭いところではなく、空いているスペースを攻めればいい。こうした違いを説明する際には、提供してもらえるデータや、自分で数えた数値を使うこともあります。

柴谷●サッカーの場合、そうした発想の違いはどう説明できますか。

斉藤●わかりやすいのはバルセロナですね。あるいは(バルセロナの監督でもあった)ペップ・グラウディオラが強くしたバイエルン・ミュンヘン。ボールをキープすることを重視していて、戦術もシンプル、練習内容もシンプルです。彼の練習内容をある人が本にしようとしたらしいけど、あきらめたと聞きました。なぜなら、同じことしかやらないからです。三角形を作って、パスを回しているだけ。誰でもやる練習です。でも、その強度が強く、選手間の距離が長くて、パススピードも速い。これでは一冊の本にはならないのは当然です。

柴谷●タレント軍団が、意思統一されると負けないチームになりますね。現在のラグビー界は、ニュージーランドが2大会連続でワールドカップチャンピオンになっているけれど、それ以前は勝てなかった。ランキング1位でも、トーナメントでは負けてしまう。圧倒的に個人の能力は優れているのに、そこに頼っている部分があった。一方、オーストラリアは個人の能力はそれほどでもないのだけど、分析や戦術で勝っていて、一発勝負に強かった。ところが、ニュージーランドもその部分に力を注いできて、今は最強ですね。

斉藤●そういう相手には、別の戦術で戦わないといけない。アトレティコ・マドリードなんて守りを固めて、相手に攻めさせたうえでカウンターを仕掛けている。だから、ボールキープ率は低い。けれど、前線2人にスピードがあれば何とかなる。(UEFAチャンピオンズリーグでレアル・マドリードに敗れた)ユベントスも同様です。ただし、相手によって使い分けてはいますね。

 

Data 2>サンウルブス対ブルズの試合結果からわかること

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サンウルブズ(https://sunwolves.or.jp/)のWEBサイトで公開されている対ブルズ戦のスタッツ。ボールの支配率は低く、パスもテリトリーも少ないのに勝った試合。ここから" なぜか"を斉藤さんは導き出す。

 

データで測れるもの、データで測れないもの

柴谷●最近のサッカーのデータで特徴的なものは何かありますか。

斉藤●今年のUEFAチャンピオンズリーグの得点を見てみると、後半最初の得点がとても多いことに気づきます。選手交代もその理由の1つだと思いますが、戦術の交代も影響していると思います。ハーフタイムの指示によるものですね。

スーパーラグビー(ラグビーの国際リーグ)に参戦しているサンウルブスは、これができない。このチームはほぼ日本代表と同じで、戦術も同じ。グラウンド一杯に広がって、ボールを取ったら空いているスペースに運ぼうとする。守りが横に広がっているなら、攻撃側は縦にこじ開けようとする。しかし、守りきれずに大敗してしまう。プランBがないんですね。

柴谷●ラグビーに比べると、日本のサッカーはデータ分析をあまり活用していないと聞きますが、実際はどうですか。

斉藤●そうですね。まずチームにアナリストがいないことがほとんどだと思います。それどころか、S&Cコーチ(ストレングス・アンド・コンディショニング:トレーニングを専門とするコーチ)もいません。ラグビーでは、ほとんどのチームが置いています。サッカーでは治療を専門とするトレーナーが兼務している場合が多い。必要とされていないのかもしれません。

柴谷●Jリーグチームは、ビジネスや広報的な部分にお金を優先するので、競技力の向上にはお金をかけていないと聞いたことがあります。確かに人気の部分ではラグビーはサッカーに大きく引き離されています。でも、代表チームの世界ランキングを比べると、ラグビーは11位で、サッカーは45位です(2017年6月14日現在)。ラグビーで45位の国を調べたらリトアニアでした。

もちろん競技人口や参加国が違うので単純比較はできませんが(ラグビーの国際協会であるワールドラグビーによるランキングは全103カ国。一方サッカーのFIFAによるランキングは全206カ国)、リトアニア代表の話題は聞いたことがありませんし、海外の主要なラグビーメディアでも見たことはありません。サッカーの日本代表は、日本のメディアが頻繁に取り上げるので国内では注目されますが、世界のサッカー界から見れば、ほとんど話題にならないチームなのだろうと私は想像しています。

逆に、国内がそのように恵まれた環境だから、強くならないということも考えられます。

斉藤●日本では、広告代理店の力が強いですね。代表コンテンツはものすごく価値があるのです。テレビで数字は取れるし、観客も入りますからね。

柴谷●プロスポーツのデータは、監督でなく、チームオーナーが導入するという例もありますね。監督はデータを重視していなくても、オーナーが勝手に契約して、監督をスルーしてオーナーにデータが届く。

斉藤●オーナーが監督の実力をデータで測るためですね。監督交代のための裏づけに使用するのです。ある監督は昇格請負人だとか、ホームに強いとか、下位チームに強いとか、こうした分析をしていくと監督の傾向も見えてくるのです。つまり、今は選手ばかりでなく、監督やコーチもデータ分析の対象にされているといって過言ではありません。なかなか厳しい世界ですが、この流れは今後さらに加速するでしょう。可哀想かもしれませんが、もう逃げられないですよね。

柴谷●逆の場合もあります。アメリカンフットボールを見ていると、残り一回の攻撃で大概キックを選択しますよね。あれって定石というか、安全策ですね。でも、統計的には、ギャンブルだけど、キックをしないで攻撃をしたほうが得点につながる可能性は高いそうです。そういうデータはNFLのヘッドコーチなら知っているはずです。でもキックを選ぶ。なぜかというと、ギャンブルをして失敗したら、オーナーの印象が悪くなるからです。あいつはバカだと思われてしまう。その一方で、ギャンブルを選んで成功しているヘッドコーチもいます。それは、どういう人物かというと、すでに一定の評価を得ているベテラン。もし首を切られても、次の職は得られる可能性が高い人です。このように考えると、やはり試合の勝敗は数字だけに左右されるものではないことがよくわかります。

斉藤●データだけでは、すべては測れないということですね。人間関係の問題はデータには出てこない。

柴谷●だからヘッドコーチには、オーナーと良好な関係を結ぶというスキルも重要ですね。でも、これはサッカーとかスポーツに限らない。ビジネスリーダー全般に必要なことで、競技に関する知識以外にもこうした能力を持っている人が成功しているように思います。

 

 

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私(柴谷)が日々分析するチームのスタッツの一部。各選手のタックルやキャリー(ボールを持って走ること)の効果と共に、素早くポジションに戻ったか(RTP=Return To Position)も記録している。

 

抽象的な概念をどのように伝えるか

斉藤●アナリストが入ってうまくいくチーム、うまくいかないチームというのは、外から見ていてわかるものですか。

柴谷●いや、アナリスト1人の能力で、チームが大きく変化するというのはなかなかないと思います。アナリストに限らず、コーチ1人の力でチームが劇的に変わるものでもないです。コーチングスタッフは分業制になってきていて、スタッフ全員の力をヘッドコーチなり監督が上手に引き出すということが、より重要になってきていますね。かつて私がエディさんにインタビューしていたときに、同じことを言っていました。今そうした組織で働くようになって、そのとおりだなと感じます。

斉藤●昨年のジャパンラグビートップリーグではサントリーが全勝優勝しましたが、彼らは試合での選手の動き出しのスピードを測っていました。たとえば、タックルをしてから起き上がるまでの時間は何秒かを測るのです。その記録がトップだった選手に賞を与える。ビリだった選手にハッパをかける。「早く立つ」ことは誰も重要だと知っているんだけど、その「早く立つ」という抽象的な概念をどう伝えるかが問題なのですね。

柴谷●その数値は私も取っています。ビデオを見て、GoodとBadを評価しています。とても地味な作業で、途中で嫌になることもありますが続けています。経験的に効果が高いと感じているからです。タックル成功率などは記録者の主観が入りますが、これは単なる秒数ですから選手は言い訳できません。極端な例ですが、足がつって立ち上がれない場合でも私はBadをつけます。そのせいで1人減ってしまうわけですから。相手選手の下敷きになって起き上がれなくてもBadです。そんなタックルをするほうが悪いと伝えます。

斉藤●話は変わりますが、男はデータの差に興奮するらしいんですよ(笑)。車でもカメラでも、スペックにこだわるじゃないですか。でも、女性はあまり気にならない。むしろ女性はデザインを気にするという話があります。

柴谷●そうですね。多くの女性の興味は、スポーツでも選手の顔のデザインです(笑)。

斉藤●男は、この選手は秒速何秒だとか、今年は合計何メートル走っているとかを知ると喜ぶんです。ラグビーでも、こうしたデータがテレビに出たなら楽しいでしょうね。この選手は起き上がる率が低くなった、疲れてますね、とか。

柴谷●選手にとっては、さらに大変な環境ですね。

 

Data 3>英BBCのスポーツ記事

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英BBCでは昨年のラグビーワールドカップで、日本が南アフリカに歴史的勝利をおさめた試合に関して、さまざまな数字を用いながらニュース記事で解説。このようにスポーツにおける"分析文化"が広く定着しているのが英国やフランスであり、この点に関しては日本はまだまだだと斉藤さん。URL http://www.bbc.com/sport/rugby-union/34269878

 

対談を終えて

なんで男はそんなにデータが好きなのか。男はロジカルだからなのか。斉藤さんも「そうそう。たとえばこのPC、SIMで運用できると聞けば、便利だなあとかってうれしくなる」と言う。

私は、実はあまり数字に興奮しない。データを取るなんて面倒だけど、効果があるからやっている。でも言われてみれば、私が出した数値を見て、大げさに興奮しているコーチもいるなあ。私を労うための演出かと思っていたけど、そうではないのかもしれない。

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文・柴谷晋(しばたに すすむ)

1975年生まれ。上智大学外国語学部卒、東芝ブレイブルーパス・パフォーマンスアナリスト。広告代理店勤務、英語教員、大学ラグビー部コーチ等を経て、2015年より現職。ノンフィクションライター、日本聴覚障がい者ラグビー連盟理事としても活動。著書『エディー・ジョーンズの言葉』(ベースボールマガジン社)『出る杭を伸ばせ』(新潮社)、『静かなるホイッスル』(新潮社)WEBサイト:susumu-shibatani.com



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