アップルを変えたティム・クックの功績❶|MacFan

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世界一企業を変革させた手腕がここに

アップルを変えたティム・クックの功績❶

文●大谷和利氷川りそな松村太郎山下洋一写真●黒田彰

スティーブ・ジョブズに引き抜かれてアップルに入社したティム・クック。オペレーション担当上級副社長を経て、さまざまな役職を歴任し、2011年のジョブズの退任と同時にアップルのCEOに就任、現在に至る。彼がこれまでアップルにもたらしたものはなんだったのだろうか。

iPhone中心の会社に変えた

CEOの座をティム・クックが引き継いで6年が経過したアップルは、iPhoneを中心としたビジネスモデルへの移行と、その着実な実行により、米国でも最大の時価総額を誇る企業へと成長してきた。

iPhoneは、直近の2017年第1四半期に、7829万台を販売し、543億7800万ドル(約6兆2534億円)の売上高を達成した。アップル全体の売上高に占める割合は69%であり、1年を通じて6割以上の売上高を占める、主力ビジネスといえる。そしてMac、サービス部門、その他のアクセサリなどは、iPhoneユーザのために設計され、iPhoneの販売台数拡大によってその他のビジネスが成長する仕組みを作り上げている。

この6年間を振り返ってみると、1つの重要なことに気づかされる。それは、クックがスティーブ・ジョブズの作り上げてきた世界観を丁寧に引き継ぎ、しかもそれをより良い形で現実のものとしていることだ。

現在の製品ラインアップは、たしかにジョブズ時代から大きく変化しておらず、決算サマリーに挙げられているのは、iPhone、iPad、Mac、サービス部門、アクセサリの5項目である。

しかし、その中でもクックはアップルを巧みに変化させていった。過去にジョブズが実践した、iPodがMacの販売を牽引する「ハロー効果」や、Macを核としたデジタルライフスタイルを構築する「デジタルハブ構想」など、よく知られたアイデアを、どちらもiPhoneを核としたものへと上手に移行させていったのだ。そのクックの手腕と判断は賞賛に値することだろう。おそらく、iPodでは万人が持つデバイスにならなかっただろうし、持ち運べないMacではライフハブを実現できなかったかもしれない。

iPhone中心としたビジネスモデルによる課題もいくつかある。iPadは2014年第1四半期以降、減少トレンドを抜け出せていない。2017年第1四半期も前年同期比で販売台数マイナス19%、売上高マイナス22%と振るわなかった。iPhoneのような発展スピードを得ることができておらず、最新版のiPadを使う動機を作り出せていない、と分析することができる。

2016年は通年を通して、iPhoneの販売台数が前年同期を上回らず、15年ぶりの減収減益を喫した。それでもクックはiPhoneはまだ成長余地があると強気の姿勢を崩していない。実際、2017年第1四半期は、過去最高の販売台数を記録し、息を吹き返したようにも見える。当面、iPhone中心の体制を維持していくことが、ティム・クック時代のアップル、ということになる。

photo●松村太郎

 

サービス部門のギアチェンジを図った

iPhone中心のアップルの中で、現在もっとも注目すべきはサービス部門の成長だ。2017年第1四半期のサービス部門の売上高は、71億7200万ドル(約8247億8000万円)だった。これは前年同期比で18%増、また前期比でも13%増と、二桁成長を続けている分野だ。アップストアを中心としたデジタルコンテンツ販売やサービス提供の売上が含まれる。

サービス部門はもともと、iTunesストアやアイクラウドの前身となるモバイルミー(MobileMe)から始まった。2008年にiPhone向けにアップストアをスタートさせ、現在の主力となっている。アプリ販売では開発者とアップルが7対3で収益を分配しており、2016年だけで200億ドル(約2兆3000億円)を開発者に支払っている。これは前年比で4割増だ。

また、2015年にスタートしたアップルミュージック(Apple Music)は、18カ月で2000万人の有料課金ユーザを獲得し、月間100万人程度の成長速度を維持している。2014年から順次開始し、2016年には日本でも導入されたモバイル決済サービス・アップルペイ(Apple Pay)は、2016年の1年間でユーザ数が3倍に増え、取扱額も5倍に増えるなど、拡大が続いている。

サービス部門の成長は、アップルの安定的かつ持続的な成長において、非常に重要なことだ。その効果は実は2016年にも、すでに現れている。2016年はiPhoneの販売が前年同期比で減少していた中、サービス部門の成長は継続していたからだ。

調査会社ガートナーによると、先進国でのiPhoneを含む高付加価値スマートフォンの普及余地は限りなく小さくなっており、買い換えサイクルは2年から長期化し、2.5年から3年へと伸びていくと予測されている。

向こう5年間、iPhoneの販売台数を大きく飛躍させることは、より難しくなっていく。その間に、iPhoneが使われていれば成長が持続するサービス部門を育んでいくことは、長期的な視点において不可欠であり、ティム・クック下のアップルは、それを正しく続けている。