2017.03.27
第46回星雲賞日本長編部門を受賞したSF作家、藤井太洋氏のApple小説です。
イラスト/灯夢(デジタルノイズ)
「三十二ペタバイト……凄いな。ありがとうよ、ジャンボさん」
トレーラーのだだっ広い運転席と助手席の間にMacBookを広げて置いた男が口笛を吹いた。ペタバイト級のストレージを調達するよう依頼してきた、ジェラルド・バウアーだ。
「三十二ペタ、フルには使えないから気をつけてくれよ」
おれは背後を親指で指した。トレーラーヘッドが牽引するのは、十二本のサーバーラックを満載したコンテナだ。
「Drobo(ドゥロボ)5Dを五百十二台。これをXsanで束ねてマウントしてあるが、ハードディスクは千本しか刺さってない。これだけあると週に一つはクラッシュするから、予備のHDDも二百本ほど積んどいた。ダッシュボードにアラートが出たら、ランプの付いたHDDを交換すればいい」
頷きながら「助かる、助かるよ」と繰り返したジェラルドへおれは言った。
「助かるのはアメリカだろう?」
「その通りだ」
ジェラルドはドアポケットから米国の地図をとりだしてハンドルに押しつけた。地図には、出発地点のミシガン─寂れた工業地帯からボストンへ向かい、ニューヨーク、ワシントンDC、リッチモンドなどの東海岸の主要な都市を辿ってフロリダ半島の根元であるジャクソンビルで西に向かうルートが描かれていた。南部を西に向かうルートは途中で南に折れ、メキシコとの国境を越える場所まで描かれていた。そこは、壁がどうしても建設できない場所だった。
「まさか国境を跨ぐインディア−−」
「居留地を通るときはその言葉を使うなよ。パパゴ族もだめだ。あれはスペイン人の征服者たちが豆のような奴ら、という意味でつけた名前だ。彼らは自分自身を〝トホノ・オ=オダム〟と呼ぶ」