教育・医療・Biz iOS導入事例

プログラミング学習の学びの溝を埋める「Ozobot」

文●山田井ユウキ写真●黒田彰編集部

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

公教育におけるプログラミング教育必修化に向けて、教材市場が活気づいている。その中でも注目を集めているのが、世界最小のプログラミング教育用ロボット、オゾボット(Ozobot)だ。紙、タブレット、PCと、学びの場を自然に移行でき、それぞれの学習ステップで横断的に取り入れることができる。

 

 

「教えやすい」教材を探して

2020年から全国の公立小学校でプログラミング教育が必修化されることに伴い、プログラミング教育教材市場がにわかに活気づいている。さまざまな教材が国内外問わず登場する中、注目を集めているのがオゾボット(Ozobot)だ。紙の上に描かれた線の色を認識し、線上をたどって動く小型ロボットである。

米国のエボルブ社が開発・販売するオゾボットの国内輸入代理店を務めるのはキャスタリア株式会社。業界に詳しい人ならピンとくるだろう。モバイルラーニングプラットフォーム「グーカス(Goocus)」を開発した、「教育×IT」の先駆者である。これまでグーカスを中心に事業を進めてきた同社が、なぜオゾボットの販売に着手したのか。

「キャスタリアでは、2016年9月にプログラミング教育事業部を起ち上げました。2020年を迎えるにあたり、プログラミング教育の市場が間違いなく拡大すると考えたからです」

そう語るのはキャスタリアの代表取締役社長・山脇智志氏だ。同社は企業の研修や大学の人材教育などに活用できる教育用プラットフォームとしてグーカスを展開してきたが、そろそろ次の新たな柱となる事業を模索し始めてもいた。そこで山脇氏が注目したのがプログラミング教育事業だったというわけだ。

「2020年には小学校、翌年には中学、そして高校とプログラミング教育がどんどん必修化されていきます。公立よりも動きの速い私立校はもっと前から導入するはずなので、2018年頃からプログラミング教育市場は本格的に動き出すと見ています」

「教育×IT」という分野において圧倒的なアドバンテージを持つ会社として、このムーブメントを見逃すわけにはいかない。山脇氏はプログラミング教育市場への参入を決断した。

課題となったのは「教育教材をどうするか」ということだった。プログラミング教育業界にはすでに数多くの教材があり、教育現場への導入をめぐってシェア争いを展開している。キャスタリアとして何ができるのか。山脇氏はじっくりと市場を注視し、分析を続けた。

「調べてみると、プログラミング教育ではどこも同じツール――米国マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボが開発した子ども向けプログラミング学習ツールのスクラッチ(Scratch)を使っていたのです。たしかにスクラッチなら費用はかからないので導入しやすいのですが、一方で教える人によって左右されてしまうという問題もあります」

プログラミング教育の課題、それは「教える人がいない」ということだった。特に公教育において生徒に教えるのは学校教師の役割になるが、その教師たち自身がプログラミング教育を受けてきていないため、適切な指導が難しいのである。この課題を解決するにはどうすればいいのか。山脇氏が目をつけたのは、画面の中だけでなく手で触れるモノと連動したプログラミング教材だった。

「画面の中だけでプログラミングの概念を学ぶのはとても大変なことですが、教えるのはもっと大変です。教えるためにはやはり、モノがあったほうがやりやすいのです」

こうしたモノと連動するプログラミング教材の分野における世界のマーケットリーダーは、レゴを使ったロボットでプログラミングを学ぶ「レゴ・マインドストーム」だ。しかし、フルセットを購入すると1台あたり6万円前後と高価で、公立校ではとても1人1台導入できない。ではどうすればいいのか。そこで出会ったのがオゾボットだった。

「今年の5月、グーグルI/O(開発者向けカンファレンス)で弊社取締役の松村(ITジャーナリストとしても活躍中の松村太郎氏)が、面白いものを見つけてきました。それがオゾボットです。会場で展示されていたらしく、私も名前は知っていましたが、実際に彼が撮影したビデオを見て、これだ!と思いました」

山脇氏は早速オゾボットを開発するエボルブ社に連絡をとり、日本国内おける正規輸入・販売代理店として契約することに成功した。2016年9月、キャスタリアは満を持してプログラミング教育事業部を設立。11月からはオゾボットの日本国内での販売を開始した。

 

 

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キャスタリア株式会社代表取締役社長・山脇智志氏(左)とコンテンツマネージャー・伊藤寿晃氏(右)。

 

 

カラーセンサで動くロボット

山脇氏がこうまで惚れ込むオゾボットとはいかなる教材なのだろうか。

オゾボットは大きさ数センチ四方の小さなロボットである。現在発売されているのは第2世代となる「オゾボット・ビット(Ozobot Bit)」。5ミリ程度の黒い線に沿って動く「ライントレース」機能のほか、内部にはカラーセンサを搭載しており、赤・緑・青・黒・白といった色を検知することができる。読み取った色に応じてオゾボットはさまざまな動きを行う。たとえば青黒青なら走るスピードを上げる、赤黒赤ならスピードを落とすといった具合だ。「左へ進む」や「Uターン」なども設定されており、黒いラインの途中でこれらの色のパターンを混ぜてやれば、オゾボットは指示どおりに動くのである。パターンによって指示を出し、思うように動かすこと、それこそがプログラミングの基礎的な考え方にほかならない。

単に、ラインの上をスピードを変えながら走るだけと思うなかれ。オゾボットに下せる命令には「30秒後に止まる」「3秒間止まる」といったタイマー設定や、「ジグザグ」「スピン」といった動きそのものの指示などもあり、組み合わせることで無数の動き方を設定できるのだ。

たとえば、キャスタリアが協力してプログラミング教育の普及に尽力している上越教育大学の大森康正准教授は、オゾボットを使って鉄道の複雑な動きを再現した。鉄道を模したラインの上に2台のオゾボットを同時に走らせるのだが、ラインは1本であるにも関わらずぶつかることがない。たとえば片方の電車が駅に差し掛かると、対抗の電車は減速し、最初の電車が通り過ぎるまで待って再出発する――といったように2つのオゾボットが連動した走りを行うのである。

むろん、オゾボット同士は通信しないので、これは大森准教授がすべて計算して作り上げたということ。秒数も含めて細かく指示を出すことで、あたかも2つのオゾボットが連動しながら走っているように見せているわけだ。誰にでも簡単にさわれて、なおかつ高度なプログラミングも組めるというのがオゾボットのツールとしての奥深さなのだ。

ここまでがオゾボットの基本となる使い方だが、2世代目となったオゾボットではさらにもう1つの重要な機能が追加されている。それが、専用WEBサイト「オゾブロックリー(OzoBlockly)」と組み合わせた楽しみ方だ。

オゾブロックリーでできるのは、オゾボットにさらに複雑な動きをさせること。ラインをトレースするだけでなく、画面上でブロックを組み合わせてプログラムを作り、それをオゾボットに転送することで実行させる「ブロックプラグラミング」が可能になる。通常のプログラミングコードのような文字列ではなく、ブロックを組み合わせて命令を作れるのは非常に直感的だ。

Wi−Fiやブルートゥースのような通信機能を持たないオゾボットにプログラムを転送するには、やはりカラーセンサを使う。画面の転送用のスペースにオゾボットをくっつけて少し待てば、自分で組んだプログラムがセンサを通じて転送される可視光通信を行う。アナログからデジタルデバイスへ、ライントレースから自由な動きへ。ステップアップできる仕組みがあるのもオゾボットの教材としての魅力である。オゾボットにはこのほかにも、オゾボットにダンスをさせる「オゾグルーブ(OzoGroove)」や絵を描かせる「オゾドロー(OzoDraw)」など、さまざまな周辺アプリが展開されている。

 

 

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キャスタリアが一般販売しているオゾボットのセット(アマゾンで購入可能)に付属するアクティビティシートと、その上を走行するオゾボット。オゾボットはカラーセンサを搭載しており、青・緑・赤・黒・白を見分けてラインの上を走ることができる。細かく色が変化する箇所ではそのパターン(カラーコード)を読み取り、それに対応する指示を実行する。

 

 

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マーカーと紙を使って自分で「コース」が作れるのもオゾボットのユニークなところ。オゾボットが認識できる5ミリ幅の線を“ちゃんときれいに”描かないと、思うように動いてくれないが、それはそれで「バグ」の概念を学ぶことができる。

 

 

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「Ozobot」アプリを使って、iPad上でオゾボットを走らせることもできる。写真はアプリ内の「オゾボット・ドロー」画面。紙と違って何度も書き直しができるので複雑なコースも作りやすい。アクションは、カラーコードを手書きするほか、画面右下のアクションをコースにドラッグ&ドロップしても実行できる。

 

 

教育現場で求められる条件

こうした製品としての魅力もさることながら、山脇氏はオゾボットに惚れ込んだ理由の1つとして「価格」を挙げている。前述のレゴ・マインドストームをはじめ、実際のモノが必要となるプログラミング教材はどうしても価格面が導入のネックとなる。しかしオゾボットは、センサ類はカラーセンサのみというシンプルな設計のため1台9800円と比較的安価で提供しており、さらに学校のようにまとめ買いをするならさらに低価格で導入できるという。教育機関として大量購入するなら、「安価であること」は絶対条件になると山脇氏は考えた。

そこまで_1人1台_にこだわらなくても、子どもたち5人ほどで班を作らせて、そこに1台の教材をあてがえばいいいう考え方もあるかもしれない。しかし、山脇氏はそれを良しとせずあくまでも_1人1台_を目指すべきと主張する。

「プログラミングで重要なことはトライ&エラーです。失敗しながら何度もトライすることでプログラミングの力が伸びていくのです。もし5人で1つしか教材を手にできないと、どうしても1人あたりのトライの量は限られます。たとえばレゴ・マインドストームは、導入できてクラスに数台というところでしょう。それだと生徒1人が実践できるのは、授業1コマで1回くらいしかないかもしれない。しかし、1人1台ならその何倍もトライできるのです」

山脇氏はさらに、オゾボットの優れている点として「モノとしての取り回しの良さ」も挙げる。壊れやすかったり取り扱いが難しかったりするものは小学生向けの教材としては導入しにくいが、オゾボットは小さいのでケースにまとめて管理でき、機構が比較的シンプルなので頑丈という長所がある。仮に壊れることがあっても、1つあたりの価格も安いためスペアを用意しておくことも難しくない。さらにキャスタリアでは、1年間保証もつけるなど正規代理店として万全の体制を敷いている。

 

 

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専用WEBサイト「オゾブロックリー」では、ブロックプログラミングでオゾボットを動かせる。コードそのものを書くのではなく、ブロックになった命令を組み合わせてプログラミングできるので非常に直感的だ。学習の発展に応じて、より複雑な設定が可能なコースを選択することもできる。

 

 

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オゾブロックリーでオゾボットにプログラムを転送するには、底面にある4つのカラーセンサを使う。内蔵されるセンサ類はこれだけというシンプルな機構のおかげで、プログラミングロボットとしては異例の低価格を実現している。

 

 

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キャリブレーション後、画面の指定の場所にオゾボットを置き[Load]ボタンを押すとプログラムを読み込み始める(左図)。読み込みが完了したら、電源ボタンを2回連続で押す。するとオゾボットがプログラムのとおりに動き出す!(下図)

 

 

入り口を広げるために

現在、プログラミング教育を小学校に導入する実証事業が総務省主導のもと、全国11のエリアで行われている。キャスタリアは、NTT西日本と共同で近畿地方を担当。もちろん使用するのはオゾボットだ。大阪らしく「動け! たこ焼き型ロボット」と命名されたこのプロジェクトの目的は2つ。プログラミング教育におけるオゾボットの有効性を検証しカリキュラムの作成に活かすこと、そして小学生向けにプログラミングを指導できるメンター(指導者、教育者)の育成だ。特に重要なのは後者だと山脇氏は考えている。

「東京から指導者を派遣するのではなく、ちゃんと教えられる人を育てて地元でまわすエコシステムを作ることが大切です。現状では既存の大学にコンピュータサイエンスなどはあれど、それを教える、しかも小学生に教えるための講座などはありませんし、専門職大学が2019年度に設立されますが、仮にそこで講師を育成するにしても卒業生が出るのが2023年度。現時点でプログラミング教育が話題になっているのとは対照的に、抜本的な方策がなされてないのは問題です」

懸念される指導者不足に対して、山脇氏が参考にするのがプログラミング教育で先行する韓国の事例だ。韓国では日本よりも2年早く、2018年からプログラミング教育の小学校導入がスタートするが、やはり指導者が不足しているため、現場の教師がプログラミング教育も担当する流れで進んでいる。これに対して韓国のオゾボット代理店はエバンジェリストを現場に派遣し、使い方や指導方法などを教師に教えているのだという。キャスタリアもオゾボットのエバンジェリストを育成、_指導者の育成_を目標に掲げて全国で普及活動を開始している。

さらに、キャスタリアはプログラミング教育指導者養成講座「コード・エデュ(CodeEdu/)」を今年からスタートした。上越教育大学をパートナーとして、半年でプログラミング教育を学べる講座である。受講者には現役の先生もいるが、それ以外にもプログラミング教育ビジネスに携わりたい人や、単に趣味としてやってみたいという人まで幅広い。とにかく間口を広げることが大切だと山脇氏は考えている。

今後は学校だけでなく、オゾボットの自作プログラムレシピをWEBで共有するようなコミュニティも育てていきたいと語る山脇氏。また、オゾボットで使える教材をキャスタリアが運営するラーニングプラットフォーム、グーカスに載せていくことも計画中だという。オゾボットを核として、プログラミング教育のエコシステムを構築するのがキャスタリアの長期ビジョンなのだ。

「プログラミング教育で重要なのはエントリーの部分。学びやすく教えやすい環境を作り、まずは入り口を広げること。そのためにオゾボットはベストな教材なのです」

米国では2017年春に、新たに3代目となる「オゾボット・エボ(Ozobot Evo)」の発売が決まっているという。ブルートゥースが搭載され、さらなる進化を遂げる同製品が、日本のプログラミング教育の現場にどんな変革をもたらすのだろうか。今後も注目していきたい。

 

 

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寝屋川市立石津小学校(大阪府)で行われた実証事業でもオゾボットが使われた。生徒たちは、タブレットとオゾボットを使ってブロックプログラミングに挑戦した。トライ&エラーがしやすい、デバイスの1人1台体制も実現。

 

 

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まずは紙で出された練習問題を解いて、それから実際にその動きをオゾブロックリーでプログラミングする。

 

 

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演習問題として提示されたさまざまなプログラムを、実際に自分のデバイスでも実行しながら、自分ならではのプログラミングを完成させる。



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