「direct」で加速するドン・キホーテ独自の”驚安”|MacFan

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「direct」で加速するドン・キホーテ独自の”驚安”

文●牧野武文

「驚安の殿堂 ドン・キホーテ」では、社内専用メッセンジャー「direct」を導入している。これによるスピード経営、スピード決断を行うことで、驚安と店舗の個性的な品揃えを実現。自社の組織構造に合ったシステムを採用するにことにより、自社の強みをさらに強くしているのだ。

スピード経営を支えるツール

「驚安の殿堂 ドン・キホーテ」は、関東圏を中心に全国主要都市に展開する総合ディスカウントストアだ。圧縮陳列という言葉で知られるように品揃えの数で同業他社を圧倒し、商品価格が非常に安いことで知られる。しかも、仕入れ・陳列・価格などを店舗ごとに変えることで、「ドン・キホーテに足を運べば、欲しくなるものが見つかる」といった体験型消費を形作る。こうした他にはない魅力が人々を惹きつけ、多くのリピーターを生み、最近では海外でも有名となったことでインバウンド客も増えている。

 

 

 

日本最大級の総合ディスカウントストアとして首都圏を中心にグループで全国約330店を展開するドン・キホーテ(http://www.donki.com)。「お客さま第一主義」を掲げ、仕入れ・陳列・価格などの販売戦略を店舗ごとに変えており、1つとして同じ店舗はない。また、それを実現するためにお客さまに一番近い現場の社員を重視、ゲンバの判断・意見を重視した店舗経営を行うことで顧客のニーズに素早く・柔軟に対応する。写真は、東京目黒区になる中目黒本店。

 

ドン・キホーテがこうした差別化を図れるのは、その根幹にスピード経営があるからだ。経営に関わるすべてのサイクルを短縮し、スピードを上げる全社的な取り組みが徹底している。

その一例に「スポット仕入れ」がある。これは通常の流通から外れてしまった非定期的な仕入れのことを指し、ドン・キホーテではこれを上手に行うことで、同業他社にはない商品を競争力のある価格で店舗で販売している。

「スポット仕入れの機会はいつ発生するかまったくわかりません。しかも、他の業者も狙っています。ですから、常にアンテナを張っておき、機会が訪れたら素早く決断しなければなりません」(オペレーション統括本部 情報システム部 部長・夏目雅好氏)。

 

 

オペレーション統括本部 情報システム部 部長・夏目雅好氏(右)とオペレーション統括本部 情報システム部 企画課 課長・伊藤裕氏(左)。

 

こうした業務においてはスピードこそが命であり、社内で情報のやりとりを行うツールが重要となる。ドン・キホーテでは、3000台のiPadと1000台のiPhoneを導入、マネージメント職やバイヤー(仕入れ担当者)全員が携帯し、店舗でも主要スタッフが利用する。そして情報のやりとりには株式会社L is Bが開発・販売するビジネス専用メッセンジャーツール「direct(ダイレクト)」を活用する。directは、LINEやフェイスブックに代表されるメッセージングサービスの直感的なユーザインターフェイスや操作性はそのままに、セキュリティ機能を高め、ビジネスに有用な機能を豊富に揃える法人向けの社内専用メッセンジャーである。

direct導入前、ドン・キホーテでは電子メールやグループウェアを利用して社内コミュニケーションを行っていた。しかし、電子メールは読むタイミングが遅れ、レスポンスも遅い。これでは使い物にならないと、大原孝治社長(株式会社ドンキホーテホールディングス)はプッシュ通知が可能なLINEを使い始め、社員にもLINE利用が広がった。

しかし、LINEには問題点もあった。プライベートでも使われるので、仕事とプライベートのメッセージが混在してしまう。社外の人間とやりとりすることも可能な構造になっているので、ビジネスで使ううえではセキュリティの確保が難しい。そこで、何かいいツールはないのか、全社導入できるものはないのかという話になり、directを導入した。

「情報を共有するために会議を開くのでは遅すぎる場合が多々あります。日時を決め、会議室を予約し、人数分の資料を集めて…とやっていると、会議を開くまでに数日かかってしまいます。その分、directであれば瞬時に意思疎通が図れるのです」(オペレーション統括本部 情報システム部 企画課 課長・伊藤裕氏)。ドン・キホーテでは現在は2100人がdirectを利用し、月間に17万通ものメッセージがやりとりされているという。

 

 

directは部署やプロジェクトチームごとで利用可能な社内専用メッセンジャー(https://direct4b.com/ja/)。LINEやフェイスブックのように直感的に利用できる。セキュリティ機能や、ボットによる社内システム連携機能、一斉プッシュ配信、写真・動画・文書ファイルの共有、マルチデバイス対応、ユーザの一括管理機能など法人利用に特化した機能を豊富に搭載しているため、企業向けの次世代メッセンジャーとして導入が進んでいる。

 

 

ボットで基幹システムとも連携

directに備わる数々のビジネス向け機能の中で、ドン・キホーテが積極的に活用するのが「ボット」機能だ。ボットは人間に代わって作業を自動的に実行するプログラムのことで、ボットにメッセージを送ると必要な情報を返してくれる。directは「daab(direct agent assist bot)SDK」を公開しており、このSDKを利用することで社内の基幹システムや外部システムと連携するボットを作成できる。

「弊社では、店舗、売り場の売上を知らせてくれるボットなどを開発し、現在試用を始めています」(伊藤氏)。

また、株式会社バリューアンドリンクの「direct商談システム」を導入することで、バイヤーの商談も大きく変わった。これは取引先にもdirectに入ってもらい、direct上のメッセージのやりとりで商談を成立させることができる仕組みだ。従来は、電話や電子メールをきっかけに商談が始まり、その後は足を運んで条件交渉というものだったが、どこにいても短時間で商談が行える。バイヤーは日本全国どこにいても商談ができることになり、商談スピードが大幅に向上しただけでなく、バイヤーの行動の幅も大きく広がった。

WEB商談で価格と個性を両立

ドン・キホーテは、バイヤーの人数が同業他社に比べて多いことも特徴の1つだ。一般にはバイヤーは本部にいて、大量一括購入を行うことで仕入れ条件を交渉し、低価格を実現している。一方で、ドン・キホーテのバイヤーは店舗に所属している。都市型店舗、郊外店舗などの店舗のコンセプトによって、仕入れ商品がまったく異なってくるからだ。これがドン・キホーテの店舗が店舗ごとに個性を持っている秘密だ。

しかし、店舗ごとに仕入れを行うと、大量購入にはならず、仕入れ価格を下げることが難しくなる。そこで、ドン・キホーテではWEB商談と呼ばれるシステムを導入。これはドン・キホーテと取引先のマーケットサービスと考えるとわかりやすい。ドン・キホーテに商品を卸したい業者は、WEB商談に商品情報を登録する。各店舗のバイヤーはそれを見て、自分の店舗でいくつ必要かを入力していく。本部は、その合計数をもとに業者と条件交渉をしていく。最終的に大量購入になるので、仕入れ価格を下げることができ、なおかつ各店舗の個性も出していくことができる。さらに、卸業者も各店舗を回って営業活動をする必要がないと、関係者すべてにとってメリットがある。

directとWEB商談を使い、ドン・キホーテは驚速の仕入れを行う。ドン・キホーテは、他店とは異なるバイヤー組織をつくり、それを企業の最大の強みにしている。そして、その強みを支えるITシステムを採用するという姿勢を貫いている。ITシステムを導入し、そのシステムに見合った形に社内組織を改革していくという考え方もあるが、ドン・キホーテは、ここでも独特なIT導入方針を持っている。組織が先か、ITが先かを考えるうえで、ドン・キホーテの事例は大きな参考になるだろう。

 

 

ドン・キホーテの"驚安"と店舗の個性を両立させているのがWEB商談。卸業者が商品を登録すると、各店舗のバイヤーが希望購入個数を入力。本部がそれを取りまとめ、合計数をもとに条件交渉をする。

 

 

directの大きな特徴がボット。ボットにメッセージを送ることで、さまざまな問い合わせ、機能実行が可能になる。図は、販売店などで活用可能な集計botの例。各店舗から仕入れる商品の個数を入力し、それをbotが集計する。